05 (3/4)



「これはもともとオレの物じゃねぇんだ。親父から譲り受けた物でな」

「アスマさんの、お父さん」

「三代目火影様だよ」

 それを聞くとサキホは丸く開いた目をゆっくりと細め、うつむいて、そうか、と小さく呟いた。
 あまり大きく驚いた様子は無く、静かに納得しているように見えた。

「ではこれは、私の師匠の造った物ですね」

 彼女の師匠とは、当然クロガネの先代店主のことである。

「あァ、そう聞いている」

 三代目が先代クロガネ親方の顧客であったことは先日聞いて知ったが、アスマのチャクラ刀がその父から譲り受けた物だとはまた初めて聞く事実だった。
 必然的に、ノスタルジックな想いが胸を巡る。
 親から子へ継がれた武器―そう、自分にも覚えがあった。
 父から受け継いだチャクラ刀。
 あれはもう、壊れてしまったが─。


 サキホは再び、今度はそっとアスマの手からその武器を取り、拾った仔犬でも抱き締めるようにいとおしげに胸元に抱いた。

「よく手入れされてる。あなた、大事にされているね」

 "あなた"、と武器に向かって語りかけるその様に違和感は無かった。
 彼ら職人が、それを我が子のように思っているのは当然のことだ。
 彼らはその鉄の塊を打ちながら、自らの体力も精神も磨り減らしているのだから。
 オレがその事に気付いたのはサキホと再会したからだ。
 彼女が魂を削って鍛冶という仕事に向き合う姿を、この目で見たからだ。
 毎日当たり前のように手裏剣を投げ、クナイを突き立て、陽動や牽制に使われたそれらはその場に捨て置かれる、使い捨ての道具たち。
 機械で生産された量産品を使っているから尚更、職人の想いなどという物を考えることも無かった。
 父のあのチャクラ刀。オレももっと大事にしていれば、こうして職人に労られることがあっただろうか。


「でな、オレの依頼だが。そいつと全く同じものをもう一組造ってもらえるか。スペアが欲しいんだ」

「成る程」

「複製はどんな鍛冶屋だって簡単に造れると思う。が、こいつの問題は─」

「─ただの鉄ではない。所謂チャクラ刀、と呼ばれるやつですね。鉄に、チャクラを吸着させる特殊な鉱物を練り込んで造る。鉱物が少なければチャクラ刀には成り得ず、かといって多すぎては強度が落ちて武器として成り立たない。その配合が非常にデリケートで確かに難しい技術ですが...」

 アスマの言葉に被せるように言って彼女が不敵に笑ったので、オレもアスマも面食らって言葉を詰まらせた。
 職人とはいえど、一般人の若い女にそこまでの知識があるのかと彼女を心のどこかでまだ侮っていた自分がいたのだ。

「私に造らせてもらえますか?」

 気丈な力強い眼差し。
 アスマは絶え間なく燻らせていたくわえ煙草をその時ようやく口から離して手甲に押し付けて火を消した。
 これがこの男が他者に対して敬意を表すときの癖だと、オレは知っている。

「もちろん...、あんたに任せるぜ」

「ありがとうございます」

 安堵したように、彼女は表情を柔らかなものに戻した。
 指先が少しだけ震えていたことに、その時やっと気付いた。
 気丈に振る舞っているように見えても、やはり不安はあったのだ。
 サキホ、おまえなら大丈夫だよ。
 そう言って背中を叩いてやりたかったけど、アスマが居ることが気恥ずかしくて、目で微笑んでやることしかできなかった。






「あ、ですが、アスマさん」

「うん?」

「これと全く同じものは造れません」

「へっ?」

 それは話が違うんじゃ、てか何その手のひら返しのネガティブ発言は。
 と突っ込むことも出来ずにポカンとしてしまう情けない男二人。
 次の瞬間。
 サキホの目が怪しく光ったかと思うと、ポケットにその手が伸び、まるで戦線で忍具をホルスターから取り出す忍の如き手さばきで─。




 メジャーを、取り出した。




「ひとから貰った忍具がピッタリ手に合っているはずがありません!アスマさん仕様に造り替えさせていただきますッ!!いざ採寸ッッ!!」

 言うが早く、アスマの手の幅、厚み、指の一本一本までも採寸し出すサキホ。
 唐突な出来事に身動きも取れず、オレに戸惑いの視線をよこすアスマ。
 それを見て、やっぱり引いているオレ。
 本日二度目の珍妙な光景であった。
 髭面の大男が、興奮気味に息巻く女にやわやわと手のひらを触られて困惑している様。
 それは確かに彼女の仕事、なのだろうが。
 いやそれにしても。

「あの、胴回りもいいですか?」

「!!」

「!!」

 さも当たり前に平然と、アスマの胴にメジャーを巻き付ける。必然的に、腰に抱き付くような格好になりオレ達男二人は困惑の色を増した。

「おいおい。なんで胴回り?」

「体格は大事なデータです!私は顧客のデータベースを作りたいんです。親方が面倒くさがってやらなかったことを、二代目たる私が確立すべきだと!」

「あ...そ、そう...」

 理由を聞けばそりゃあ有意義だし合理的とは思うけれど。
 それにしても、この仕事覚醒モードのテンションはどうにかならないのか。
 ていうか。
 アスマに抱き付いたままだし...!

「カカシ...こいつぁ...なかなか強烈だな」






 仕事へのこだわりと同時にわかったのは、異性─オトコという生き物への無頓着さ。

 オレにも簡単に抱き付いた。
 アスマにも、あくまで仕事上のなりゆきではあるが。ニコニコと楽しそうに手を触ったり。


 何だよ、これ。

 何なの?



式日