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密売組織に関する任務はひとまず様子を見ることになった。
ターゲットの一人との接触、そして自害という顛末に、しばらくは組織の活動が地下に潜ることは明白だった。
ほとぼりが冷める頃また動き出すまでは泳がせるというのが火影様の下した決断だ。
即時人命に関わるような案件でも無く、至極適切な判断だと思う。
今回の接触で、組織にいる抜け忍のだいたいのレベルも推し測れた。
あれは木の葉の上忍クラスならば制することができる。恐らく、次の出動要請は暗部ではなく正規部隊のチームに行くはずだ。
というわけで、と話に一端の区切りを付けてから三代目はにかりと笑った。
何故だかあまりいい予感はしない。
「次から次へと任務ですまないが、来週から火の国大名の警護にあたってくれ。遠方へ出向く公務があるとか」
「オレがですか?今そんなに治安は悪くないはず。大名様の警護とはいえ、暗部がつくほどのこととは...」
「気持ちはわかるが、忍が任務の内容にとやかく言うでない、カカシ」
ぴしりと咎められ、思わずわずかに背筋を伸ばした。
「は...、失礼しました」
「ワシもあまりお主を長期間里外にやりたくないのだがな。あの大名が暗部を付けろ、写輪眼のカカシにしろとうるさい」
国と隠れ里の関係を考えれば大名の要求にはできる限り応えなければならないという。
わかる。
三代目の立場もわかる、が。
ひどく面白くなさそうな任務だと思ってしまうあたり、自分もいよいよ暗部に染まっているのだと感じる。
はて、それにしても、何か今の会話に引っ掛かりは無かっただろうか。
「...長期間、と言いました?」
「......うむ、まあ、その。三ヶ月とか。そのくらいかの」
「はァ?一体何の公務です?大名がそんなに長く政局を離れるなどと」
確かに、とかいやー、とか、三代目にしては嫌に歯切れが悪い。
目も泳いでいる。
「実はの、地方視察の公務......という名のバカンスじゃと」
「え、ええぇぇぇー...」
面白いとか面白くないとかの問題でもなければ、暗部向きか正規部隊向けかの問題ですらない。
何が公務か。この上なき私事である。
三代目の前ではあるが、思わず感嘆の声だって出てしまうのは致し方なかった。
そんなことに忍を、暗部を、このオレを遣わせろと。
それでも貴方は仕事内容に文句を付けるなとお言いか、三代目火影。
「まぁこんなことが罷り通るのも平和な証拠じゃて。お主もたまには殺伐とした任務から離れるのも息抜きになるのではないか?」
「息抜きだなんて、」
「必要ない、か?...まぁ、最近は少し肩の力を抜いてのびのびしとるようにも見える。良いことだ。
同期や後輩らの信望も厚く...おぉ、そういえば、聞くところによるとお主クロガネの弟子と仲が良いそうじゃな!」
「えぇ、まあ」
若い忍、若い職人らが交流を持つことは大いに宜しい、と三代目は嬉しそうに笑った。
なんだか話がうまく反らされた気はするが、嬉しそうなその笑顔には虚飾はなく、歯を見せてにかりと笑いかけられるとついつられて気が抜けてしまう。
この人のこういう、他人を包んでしまうような暖かみが里長としての力量までも物語っている、と言ったら言い過ぎだろうか。
それくらい、誰も皆従わざるを得ない包容力がある。
「何年も前にクロガネの店先で見たときは少年のようじゃったが、半年前の親方の葬儀ではすっかり女らしくなっておったな」
「見た目は女でも少年っぽいのは相変わらずかも知れませんね、なんせ仕事以外には無頓着な奴で」
「生意気じゃな、カカシ。そんな風に女を甘く見ていると、痛い目見るぞ」
「甘くなんて見ていませんよ。腕は買っているんです。彼女は木ノ葉で一二を争う鍛冶屋だ。先代にだって劣っていない」
「そういう意味で無いが...ま、良い。お前がそこまで言うとはあの子も立派になって、親方も本望じゃろうな。あの子を引き取ったばかりの頃は、随分戸惑っておったが」
「あの親方が?そうなんですか?」
「そりゃそうじゃろう。未婚の中年男が、いきなり十かそこらの娘っ子と暮らすなんぞ。
...鍛冶をやらせていいものか、万が一消えないキズや火傷を作ったら嫁にもやれないとか、そんなことボヤいておったわ」
三代目の語る昔の親方の苦悩を、少し意外に思う。
オレの記憶の中のあの人は豪胆で、細かいことなど気にかけもしないイメージだった。
雑用に四苦八苦するサキホを怒鳴り付けている場面にだって出くわしたし、キズが付くことや嫁入りの心配までしていたなどと想像もつかない。
それはもしや、サキホ自身も知らない事実なのではないだろうか。
けれどもよくよく考えて見れば、親方が彼女をそこまで大切に想っていたということに疑念は無い。
そこまで大切にされていたからこそ、親方を失ったあの頃、サキホは世界で一人ぼっちになってしまったみたいに感じていたのだから。
「カカシ、お主があの子の後見人になってくれて良かった」
後見人などと大袈裟だ。
そんなつもりは無く、ただ、思い出を共有している者として彼女の背中を押してあげられればと思っただけだ。
それにもう、彼女は自分の力で立っていられる。前に進める。
多分、オレが居なくても。
三代目の云う後見人とか、アドバイザーとしての立場はもう意味を成していなかった。
それならば付かず離れずの距離でもって、純粋なる友人関係を保っていくのが今後のオレたちの在り方なのだろう。
小指を絡めた感触を思い出していた。
あの時、あの一メートルの距離を保っていられなかった。
近づきすぎてしまった。
心まで。
第7話 了
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