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昨日ごめんね、冗談だったんだけどさ、と極めて軽い口調で謝られて、ひどく安堵している自分がいる。
よかった。
彼が本気のはずがない。
私が、彼に、本気になっていいはずもない。
「サキホがあんなに驚くと思わなくてさ」
「冗談の度が過ぎてるよ...」
「サキホの言う通りだな、こいつエロ本の読みすぎでどうかしてんだよ」
カカシと連れ立って来ていたアスマが口を挟んだ。
昨日私が泣いていたのを見て、心配して来てくれたのだろうか。
もしアスマが居なかったら、まだ今はカカシとふたりきりで対峙する勇気は無かったかも知れない。
そしてきっと、時間を置いてしまったらカカシとの溝は深まるばかりだっただろう。だからアスマの存在には心から感謝した。
「エロ本とは失礼な。イチャイチャシリーズはそれは高尚な......ま、いいや。とにかくそういうわけで、仲直りしようね?」
右目を細めてカカシは微笑んだ。
それはどこか悪びれていないようにも見えて、あのキスに深い意味など本当に無かったのだと念押しされているみたいだった。
もちろん意味なんて無い方が、私の気持ちもずっと楽だ。
受け流せばいい。
私も微笑みを返した。
「...お好み焼きおごりね」
「お安いご用」
ほら、もう大丈夫。
仲直りなんてとても簡単なことだ。
キスも、私のごちゃごちゃの感情も、ぜんぶぜんぶ冗談で消えて。
すうっと胸が軽くなったような気がした。まるで空っぽになったみたいに軽く。
微笑みあう私たちの側で、アスマだけが溜め息を落としていた。
痴話喧嘩のようなものに付き合わされて、さぞや鬱陶しい思いをしたに違いない。
「アスマも、一緒に行こうよお好み焼き」
お詫びの意味も込めてそう誘った。
ひとを食事に誘うのは初めてだなと言った後に気付いて、自分もそうした気遣いが自然に出来るくらいには人付き合いというものに慣れてきたのだと感じた。
「あぁ?や、俺は─」
「アスマ、」
アスマが少し口ごもるのを制するようにカカシがその名を呼んで遮った。
「行こうよ、サキホのおすすめの店、美味いんだ」
有無を言わさない、やわらかだけど強引な誘いを受けて、まぁ構わねぇけどよ、と断ることを半ば諦めたように彼は答えた。
「なら、紅も誘おうか」
「あぁ...サキホが良ければだが─」
唐突にカカシが挙げた聞き慣れない名前に、思わず警戒が生まれる。
クレナイ...。
多分、女性の名前。
カカシとアスマの視線が同時に私に集まって、返答を求めていた。
「サキホ、オレらの友達のくの一なんだけど誘って平気?」
きっとこの人たちは、私が嫌だと言えばそれに従ってくれるのだろうけど。
友達、と言われてしまうと嫌だとは少し言いづらい雰囲気。
しかし考えてもみれば。
私の人見知りの質をよく知っているこの二人が二人とも、私に引き合わせても問題なしと考える人物だ。
女性であるという点はおおいに気になるけれど、よもやあんずのような人物ではないはずだ。
あんず達に出くわしたときは、友達ではなく仕事仲間といった感じの紹介だった。となれば少なくともあの時の彼らよりは深い間柄で、信頼のおける人だと考えていいはずだ。
そう信じたい。
私だって仕事を通して人と接するようになってから、以前より少しは成長しているし、余程強烈な相手でなければその場を取り繕う会話くらいはできるだろう。
「...、いいよ」
そう言うと、彼らは二人とも安堵したように目を細めた。
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