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 三代目の執務室であらかたの経緯を報告し終える頃、荒っぽいノックと共にテンゾウが入ってきた。
 いつも三代目への礼を欠かさない彼が珍しく、三代目への挨拶よりも先にオレに視線を寄越す。
 その険しい表情が、物語る。
 いい報告ではない。

「ご報告します。シラハネ鐵鋼所社長、シラハネカケル邸において、鍛冶屋クロガネ店主・麦野サキホを確認。健康状態、外傷等の有無は不明。軟禁状態にあると思われます。密売に絡んだ略取とみてほぼ間違いありません」

 この手の報告を述べる時にはほとんど息継ぎを挟まずに、感情を排除するのが彼の癖だ。
 その機械的な声をいつもはさらりと聞き流せる自分が、今回ばかりは「外傷等の有無は不明」と言ったところに拳を握り締めてしまう。
 三代目は苦い顔をしてパイプを大きく吸い込んで、そして白い煙を吐いた。
 アスマがオレに説教を垂れるときの嫌な顔に、よく似ている。

「うむ、ご苦労。組織殲滅チームのほかに、略取者を保護する者をすぐ向かわせよう」

「三代目、オレが」

 咄嗟に口をついて出た。
 その声をまるで聞き流すように三代目はくるりと背を向けて、何か考えているのかいないのか、里を見渡せる大きな窓を仰いだ。

「...なぁに、あっちは抜け忍とつるんでいるようじゃが、これまでの内偵の報告ではそう手強い相手は居ないと聞いておる。テンゾウ、シラハネ邸の警備レベルは」

「警備レベル三です」

 それを聞いて、やはり、と頷く火影。
 レベル三といったら忍にしてみれば潜入は容易い。
 要するに、いくら抜け忍が絡んでいるとはいえ、所詮は一般人の治めている会社の警備レベルということだ。

「カカシ、わざわざ暗部のお前が出向くまでも無い。正規部隊の上忍を行かせる。
 ...実は別の特Sランク任務があっての、お前にはそちらに就いてもらいたい」

「...!」

「何か問題があるか?そちらの方がお前の好む"暗部向き"の任務じゃが」

 反論の言い訳を思い付かずにいるうちにそう畳み掛けられる。

「そういう問題ではなく...」

  自分が救出にあたる理由。
 理由ならばあるが、それはどうあがいても私情の塊であって。

「おかしなことだのォ、お前はそういう問題ばかりを気にかけて、暗部に相応しくない任務は嫌っていたと思ったが」

 三代目は意地悪い口振りで、しかしいつもと同じ暖かな微笑みを浮かべて言った。
 いつかの─そう、あの大名警護の任務を仰せつかったときの皮肉を言っている。
 いや、あの時に限らずとも、少なからず自分は普段からそうした考えを持っていたことは確かである。
 本来ならば能力に応じていようがいまいが、与えられた任務をこなすのみ。
 自分の意思や感情など無関係に。
 ─やはりこの人には敵わない。
 言わずとも、心のうちまですべて見透かされて、そして試されている。
 忍としての器。
 人としての器。
 この人はちゃんとわかっている。
 どれ程暗部に染まったつもりでいても、非情を演じていても、捨てきれない情がある。
 言い訳で論破できるほど甘い相手ではない。
 ならば、この胸のうちを素直に言葉にする他に、納得を得ることは出来ない。
 彼女の身の安全と天秤にかけてしまえば、自分のプライドなど軽いものだった。

「火影様の命に背く、処罰を受ける覚悟はあります...」

 方膝を床につけたオレを見て、テンゾウが息を呑んだのがわかった。




「いまは、好きな女をこの手で助けたい。それだけです」




 三代目は、行って良いとも悪いとも言わなかった。
 ただ、オレに充てられる予定だった"暗部向き"の任務をその場に居合わせたテンゾウに振り、それから笑ってこう言った。

「なぁ言ったじゃろう?女を甘く見てはいかんと」

 今なら貴方の言った意味がわかる。
 自分をこうまで変えてしまう力を持っているのは、彼女だけだ。





第13話 了



式日