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さらに数日が経った。
気の利いた言葉も選べずに彼女を見送ったあの日から、苛立ちがおさまらない。
忌々しくも目に焼き付くロイヤルブルー。
絹のリボンの感触。
引き裂きたい衝動。
そんな精神状態の日々、任務はいやにはかどった。
奇しくも残虐な内容の任務が多かったからだろう。
自分の腹の底に渦巻く嫌な感情や衝動が、すべて殺戮行為に転嫁されているのではないかと思うほど。
しかし暗部の仲間のごく一部─たとえば、生真面目で口煩い猫の面の後輩などは、そんなオレの仕事ぶりを見て「らしくないですね」とぼやいた。
荒れている、雑である、スマートじゃないと扱き下ろす。
元々自分のやり方というのがそういうものであったのか、いまいち自覚が無い。
深く深くため息を吐き出せば、一緒に待機所に詰めていたテンゾウはやれやれと言いたげに、それでも一応は不機嫌な様子の先輩を気遣う素振りを見せた。
「先輩、疲れてます?」
「べーつに。面白い話が無いなぁってだけで」
何か無いものかねぇ、と振ると、猫面の奥でうーんと唸りながら考えている。
「おもしろい...。あ、そうだ。春頃にあった内偵任務って覚えてます?」
「んー?何かあったっけ」
「抜け忍がらみの密売組織のやつですよ」
そこまで聞いて、なんとなく記憶と一致する任務に思い当たる。
密売組織の内偵だったが、ターゲットと接触し、いざ戦闘・捕獲...というところで敵が自害したのだ。
おそらく組織は追撃を警戒して活動を静めるだろうとの見込みで、しばらく様子見をすることになっていたはずだ。
肩透かしをくらったような、随分と拍子抜けする顛末の任務だったので正直なところ印象に薄い。
そういえばその後の動向は耳にしていなかった。
「あぁ、あれね。動きあったの?」
「近頃また密売を再開したらしく、監視にあたっていたチームがうまく尻尾を掴んだそうです。
火影様の読み通り、しばらく泳がせていて正解でしたね」
これといって印象にも残らなかった任務の進捗を、ふぅん、と素っ気ない相槌で聞き流したが、テンゾウはそれに構うことなく続けた。
そもそも面白い話と言っているのに仕事の話を持ち出してくるこの男の性質には辟易を通り越して感服してしまう。
「―で、その件、なかなかの大捕物になるみたいですよ。なんでも大きな卸売り業者が元締めだとか...ええと、シロ...?シラハネ?と言ったかな」
もう一度ふぅん、と言いそうになったところで息を呑んだ。
その響きは確かについ最近耳にしている。
自分を苛立たせている彼女の姿と一緒になって脳裏によぎる記憶。
「シラハネ...鐵鋼所?」
「ええ確かそんな名の会社です」
奇妙な接点に、なにか嫌なものが背中を駆け巡る。
予感。
それも悪い方の。
「...テンゾウ、その話確かか?誰の情報だ?密売って、流してるのは武器忍具の類だったな。物品の詳細は?ルートはどうなってる?」
「えっ、はっ...?先輩?...詳細なんて知りません、僕はたまたま、監視チームに居た人間の話をかいつまんで聞いただけで」
興味の無い態度を翻したオレにテンゾウは少し上体を仰け反り、どうかしました?と戸惑いがちに聞いた。
その問いに答える余裕は無かった。
頭の中に散らばったキーワードをかき集めてみて、それらがどこかで繋がりそうな気がして。
シラハネ、
武器、
密売、
闇のマーケット、
人脈、
鍛冶屋...
...断れないパーティー。
たかだか社長就任の宴席。
それを大事な仕事のひとつだと彼女は言っていたけれど、断れないような条件を突き付けられた可能性は無いだろうか。
そしてその裏に、密売に絡んだ動きがあるとは考えられないだろうか。
そうでも無ければ、駆け出しの若い女鍛冶屋ひとりを、あんな風に丁重に扱うなど...。
やっぱり何かあるという予感が拭えない。
それがもし思い過ごしであろうとも、確認をする必要があることは確かだ。
「テンゾ、ちょっと付き合って」
えっ、と声を上げる後輩をかえりみずに待機所の窓から跳んだ。
まだ待機命令が解けてないとかなんとか後ろで叫ぶのも無視して瞬身の印を結ぶ。
待機命令?構うものか、どうせ何処に居たって呼び出しが掛かるときは同じだ。
なんだかんだと言いながら先輩の言いつけに律儀な後輩は付いてきた。
唐突な瞬身での移動に抗議されたが、それでも付いてこれるのは暗部でもテンゾウくらいのものだろう。
しかしオレの後を追うのに精一杯で目的地までも把握していなかった彼は、地に足を付けると呼吸を整えながら、 場所を確認するためにぐるりと辺りを見渡した。
「職人街...?何なんです、一体」
問いに答えることもせず、マスクの下で唇を噛んだ。
嫌な錆だらけの鉛色が立ちはだかっている。
クロガネのシャッターは降りたままだ。
悪い予感がむくむくと増幅していくのを感じながら裏口へと回る。
こちらもやはり鍵が掛かっている。
サキホに確かめたいことがあってここまで来た。
あの後、例のシラハネのパーティーに参加して何かおかしなことは無かったか。密売に加担するような話を持ち掛けられてはいないか。
しかし。
それを確認する前にまず確認すべきだったのは、彼女のその身。
脈拍数と呼吸の速度が比例して上がっていく。
深呼吸してみたが全く意味を成していなかった。
脈も、呼吸も、気持ちもチャクラも乱れきったままに、裏口のドアを思い切り蹴破った。
「っちょ、先輩...!?」
ドアが崩壊すると共に砂埃が舞い、室内からは、籠っていた真夏の熱い空気があふれた。
むわ、と嫌な湿度と熱気がまとわりついて、オレに報せる。部屋の主は不在であると。
待て。
あれから何日経っている?
あいつが里を出てから...。
混乱で覚束なくなる頭で懸命に記憶を拾えば、あれはそう、もう一週間も前ではないか。
たかだかパーティー。一泊くらいはするだろうが、もうとっくに帰ってきているはず。そう思っていたのに。
「テンゾウ!密売の件の任務にあたってるやつにすぐ連絡だ!サキホが一週間前シラハネに出向いて帰ってない。監禁されてる可能性がある。すぐに現場を調べさせ現状を報告させろ、オレは三代目のところへ行ってくる」
「...はい!!」
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