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パーティーというやつは、自分の拙い想像力で描いたそれと、だいたい相違無かった。
たくさんの照明、テーブルはひとつひとつにこぼれ落ちそうな生花が添えられ、そこに居る人間は男も女も皆きらびやかに着飾っていた。
青いワンピースを着た自分もまた、はたから見ればこの景色に馴染んでいるのだろうか。
考えるだに恐ろしい。
自分はこういう世界に生きる人間じゃない。
狭くても、埃っぽくても、シャッターがいつまでも錆び付いていても、あの住み慣れた場所に早く帰りたいと思った。
今夜、この息苦しい宴席さえ我慢して過ごせば、明日には帰れることになっている。
そうしたらシラハネとの取引も今まで通り...いや、もしかしたら優遇してもらえるかもしれない。
利点はある。
そう、これも仕事。
仕事が上手く回れば、大切な木の葉の忍たちの為にもなるのだから。
そう腹をくくったものの、周囲のあまりのきらびやかさに目がチカチカしてしまう。
かろうじてしっかり視線を据えることができるのは、テーブルの上の料理くらいだ。
どうせ話す相手も居なかったので、私は食事に専念することにした。
そうだ。せっかくだから普段食べないようなご馳走をお腹いっぱい食べていってやろう。
どういう調理法だかまったく見当がつかないが、お肉もお魚も信じられないくらい柔らかい。
色とりどりの野菜やフルーツは、木の葉の八百屋さんでは見たことも無い種類のものが散りばめられて宝石のように見えた。
とにかく片っ端から口にいれてみた。
咀嚼し、飲み下す。
美味しいかと問われたら、素直に美味しい、と答えられるけれど。
カカシと─アスマや紅と一緒に食べたお好み焼きがふと脳裏をよぎる。
あのお好み焼きは美味しいだけじゃなかった。
楽しくて、しあわせだった。
あれに比べたら、目の前のご馳走は何の味もしない、何の色も香りも持たない物体になってしまいそうだ。
そう思ったら急に喉元が詰まりそうな感じがして、グラスを取って水を一気に飲み干した。
ぷは、と肩を大きく上下させていると、不意に、くす、と背後の誰かが鼻で笑う。
振り向いた先に立っていたのは、このパーティーの主催者、しらはね翔鏤(かける)その人であった。
「今晩は。パーティーをお楽しみ頂けてますか?」
あの脅迫めいた強引な招待をして寄越すような人物だから、どんな傲慢若社長なのかと身構えていたせいもあり、その口調のやわらかさに拍子抜けしてしまった。
顔立ちも整って背も高く、瞬間的な印象だけでいえばまさに好青年と言える。
「ええ、はい、あの私、えっと、木ノ葉の...」
「存じ上げております。クロガネの、麦野サキホさん」
うまい挨拶の文句が咄嗟に出てこずに慌てていると、先にそう告げられて余計に慌てた。
先刻パーティーのはじめに社長の挨拶があり、私はその時に彼の顔と名前を知った。
要するに初対面である。
こちらは壇上に立つ彼を認識することができたけれど、何故彼が多くの招待客の中の私を麦野サキホと判ったのだろうとポカンとしていると、彼はもう一度くすりと笑った。
「僕が選んだドレスだ」
「えっ?」
言われて自分が纏っている衣服を見る。
光沢のある、深い青色のワンピース。
シラハネの従者の紳士が持ってきてくれた物だ。
成る程、それを私のために選んだのが彼だと言うなら当然、それを着ている女が誰なのかくらいすぐ判るわけだ。
「良かった。とてもよく似合っています。色白な方だと聞いていたから、濃い色が映えると思ったんだ」
「あ...ありがとうございます、服まで用意していただいて」
「いいえ、無理を言って来てもらったのだから、これくらいは当然です」
強引で驚かれたでしょう?と翔鏤は眉をハの字に下げて苦笑した。
強引という自覚がありながら、こうして接する態度は物腰柔らかく紳士的なので、彼という人物像はふわふわとして掴めない。
私の警戒心は依然として解けてはいなかった。
この笑顔に、裏がありそうな気がして。
「お食事はいかがですか?」
「美味しいです、とっても...でももうお腹いっぱい」
「ハハ、お酒は?飲めませんか?」
「好きですが...先日お酒で友人に迷惑をかけたばかりなので、控えることにしています」
「ではお茶にしましょうか。サロンにお茶を用意させます」
結構です、とかお構い無く、とか言ってみたけれど翔鏤はただ微笑むばかりでスルーして、側に居た例の紳士的な従者にお茶とデザートの準備を言い付けた。
そして私に恭しく右手を差し出す。
「さあ、参りましょう」
それまで柔らかだった表情に、強い意思、有無を言わせない迫力が、瞬時に宿ったのが見てとれた。
鈍い私でも気付ける程の。
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