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体温

肌の感触



香り



すべてを逃がしたくなくて、きつくきつく抱き締めた。




*




 正式な任務としてシラハネ鐵鋼所の制圧を命じられている上忍チームとは別行動で、単身目的地へと向かった。
 これは任務ではなく、ひどく個人的な事情からなる行動だったからだ。
 忍としての立場で彼女を助けに行くんじゃない。
 それなら他の奴に任せても同じこと。
 オレはオレとして、ただただ、彼女を助け出す役目を自分のものにしたかった。
 この手で一番に触れて、大丈夫と一言言いたかった。
 たとえ彼女がそれを望まないとしても、馳せるこの感情を今伝えなければ、もう二度と触れられないような気がしていた。


 火の国、市街地を少し外れた郊外の森。
 目的地への道のりの中腹へ差し掛かったところで、すぅ、と背後から追い付こうとする気配があった。
 気配を隠そうとしていないところを見るに敵とは思えず、振り返る。

「先輩、」

「テンゾウ」

 案の定そこにあったのは見慣れた木ノ葉の仲間。
 正確には彼の木分身。
 テンゾウの本体は今、オレの代わりに割り当てられた方の任務へと向かっているはずだ。

「シラハネについて、追情報です」

 その言葉にぐっと眉間に力が入りはしたが、視線は前方へと戻し、目的地へと向かう脚を休めることはしなかった。

「なに」

「略取者...その、麦野サキホさんですが...」

 テンゾウにしては珍しく歯切れが悪い。
 しかしサキホの名前を出されては、続きを聞かないわけにいかなかった。
 わざわざ分身を寄越してまで伝えにきた情報だ、それもオレの耳に入れておくべきだと彼が判断した内容の。
 一番欲しいのは身の安否の情報だが、それを聞くのが些か怖い自分も居た。
 奪還、救助の類いの任務でそんなことが怖いと思ったことなど、一度も無いのに。

「なに、早く言えよ」

 ざわつく気持ちを抑えきれず、半ば噛みつくような鋭さでそう言って促した。

「サキホさんが...しらはね翔鏤と、婚約をしたと。すぐにでも婚儀を挙げるという話が上がっています」

「.........」

 自分が思っていたものとあまりに違う方向からの情報に、言葉が出てこなかった。

 理解して飲み下すのに少しだけ時間を要したが、冷静に考えて、それは恐らくあちらの策略だ。
 婚約、結婚という建前でもって、ひとりの鍛冶屋が木ノ葉から消えたことをうまく理由付けるつもりなのだろう。
 そうとしか考えられない。
 あいつが─サキホが、そう易々と知り合ったばかりの相手とそんな関係に及ぶはずがないのだ。
 オレが知っている彼女ならば絶対に。

 明白な策略じゃないか。
 解っている。

 なのに。

 最後に見たあのロイヤルブルーのワンピースがあまりによく似合っていた彼女の姿が脳裏に浮かぶと、胸が軋んだ。
 オレはあの時なんて言った?
 ─そう。
 どこぞのお姫さまの輿入れみたいだ、なんて、あんな下らない冗談を。
 まさかあの時から既に敵がそのつもりでいるなどとも知らずに、馬鹿を見たのはオレじゃないか。
 どうしてあの時あんなこと言ったんだ。
 どうしてあの時疑念を抱かなかった。
 どうして、引き止めなかった─。




 テンゾウの分身はその情報だけを伝えて消えた。
 オレをさらに焚き付けるには充分な燃料だったとも言えるが、一番知りたかった安否については、相変わらず判らないままだ。
 万が一、しらはねという男がサキホに手出しをしようものなら─。

 殺してやる。
 殺してやる。
 殺してやる。

 一般人だろうが関係ない。
 任務外の殺傷は咎めがあるが、知ったことか。
 必ず殺してやる。



式日