02 (4/4)


 ふぅん、とカカシは言った。
 そこにある感情や意味合いは読み取れない。
 もしかしたら、厳しい忍の世界に生きるこの男には、甘ったれた泣き言だと感じられたかも知れない。

「ね。最近造った物を見せてよ」

「え...?」

「いーから、ほら」

 そう言いながら右手を差し出す。早く早くと煽られて、戸惑いながらも試作品を保管している棚から一番最近造った物を手に取った。
 中型の折り畳み式の手裏剣で、刃は四枚。よくあるタイプの物だ。
 カカシはそれを受け取ると様々な角度から眺め、刃の厚みを指で確かめたり、指先に掛けてくるくると回している。

「投げてもいい?」

 作業場の中には、仕上がった忍具をその場で試し撃ち出来るよう、分厚い木の板が壁に立て掛けてある。
 私が頷くのを横目で確認し、彼は手裏剣を構え、水平に放った。
 忍服から晒された長い腕は男性にしては恐らく色白な方で、無駄の無い筋肉の隆起がそこにあり、それはまるで美術品のような美しさをもって伸ばされていた。
 その腕のまっすぐ五メートル先にある木板は、ドッという鈍い音と共に、中央に手裏剣の刃を食い込ませていた。

 今度は、へぇ、と彼は呟いた。

「いいね、中々」

「うそ...嘘だ、」

 思わずそう返してしまう。

「......」

「ちゃんと、ハッキリ言ってよ、あの時みたいに。でないと...」

 でないと、目標とする完成形がわからなくなってしまう。
 誰かがそれを示してくれなければ。
 批評してくれなくては。
 どうしたらいいかわからないのに。

「ハッキリ言ってるよ。いいね、って。
 中型だから、本当は試し撃ちにもうちょっと距離が欲しいところ。でもかなり感触いいよ。刃は全部厚みが均等でバランスがいいし、空気抵抗が抑えられてる。
 チャクラを流してもすんなり馴染んだのは、鉄の純度が高いからだろうね。ま、オレは手裏剣使いじゃないんだけど...個人的な好みを言えば、この円のとこにグリップみたいなのがあると変に滑らなくていいんじゃないかなって思う」

「それだけ...?」

「何でそんなに自信が無いの?」

 何でと言われても、先程言った通りだ。今までは親方の批評だけが全てだった。それ以上も以下もない。
 私は解ってる。
 この忍具一つが、人の生死に関わるということが。
 だから製品は完璧でなくてはいけない。少なくとも、クロガネの名を背負って恥ずかしくないくらいに仕上がっている物でなければ。
 それをきちんと評価して教えてくれる人は、私にはもう―


「サキホ」


 彼が口にした言葉が、自分の名前だと気付くのに三秒かかった。
 もう長いこと、私をそう呼ぶ人は居なかったから。


「オレがいるじゃない、サキホ」


 もう一度、私の名を。
 耳が慣れないせいか、どくどくと鼓動が乱れた。


「自分の世界から、親方が居なくなって、独りぼっちになって。でも、オレが帰ってきたじゃない」

「意味が、わからな...」

「本当に遅くなってごめん。でも約束したでしょ、おまえが造った物また見てやるって」

 約束。あれは約束だった?
 ただの気まぐれだとずっと思っていた。だって十年も来てくれなかった。

「サキホ、」

 何度も、名前で呼ばないで。
 顔が熱くなる。

「大丈夫、オレはお世辞が下手だから、駄目なものは駄目って言うし、...ね、それでいいでしょ?」

 意味がよくわからなかった。
 ただ、最後のだめ押しで「おまえの世界にはオレが居るよ」と言われたら、泣かずには居られなかった。

 なんだか、ずるい。

 でも、嬉しい。

 なんだろう、これ。





第二話 了



式日