名前をつけたら最後なの
始まった大学バスケリーグの秋季大会。今日は注目校同士の一戦だけあって観客が多い。チケットを片手に席に座れば、反対のコートではもうすでにアップを始める選手の姿が見えた。
夏休み以来、メッセージアプリでの連絡は時々取ることもあったけど、三井くんとはほとんどまともに会っていない。合宿から帰ってきてから一度だけお土産を渡してくれるついでにご飯には行ったけど、それくらいだ。
校内ですれ違うときに一言二言話すこともあるけど、毎日朝から晩まで練習に励んでいたらしい。
強豪校と言われはするものの、まだまだ油断をすれば足元を掬われる位置なのは間違いない。インカレへの出場のかかるこの大会への意気込みは言うまでもなく強いのだろう。
ぎゅっと握りしめた指。その爪には願掛けのようなつもりで塗ってきた鮮やかな青が居座っている。誕生日に三井くんが買ってくれた、うちの大学のチームカラー。入場してきた選手たちの身につけるユニフォームとその色が重なる。
「三井くん」
私からしたら見上げるほどの身長の三井くんも、大学でもバスケを続け、その一線で活躍する選手たちに混ざってしまえば、それほど体躯がいいとはいえない。それでも、その後ろ姿は私にとってこの会場の誰よりも輝いている。
「……がんばって」
本当に声になっていたかも怪しいほど、かすかに三井くんへ向けた言葉。朝、悩んだ末に送った応援のメッセージには会場に着く前に返事が来ていた。伝えても伝えてもキリがないほど、かけたい言葉が山のように胸に募る。
あと数分で始まる試合を前に、高揚する心臓をそっと撫でた。
そうして始まった前半戦。
実力は互角と事前の特集記事でも言われていただけあって、あまり点の入らない攻防戦となった。相手はディフェンスに定評のあるチームでもあるため、特にインサイドでの点が入らない。外に出して、そこから三井くんがスリーポイントを決めるシーンは何度かあったものの、今後の試合展開を考えても、もう少し中からも点が入って欲しい。
「思うように動けてない感じだなー」
隣に座っていた男性がぼそりと呟いた言葉に思わず頷く。試合は第3Qが終わり、インターバルに入っている。監督の話を聞く選手たちの顔は体力的な疲労もあるが、それよりも精神的な疲労が伝わってくる。
見ているだけでもこんなにもどかしいのだから、選手たちは尚更だろう。攻めているのに点が入らないこちらに比べ、打てるのにシュートは決まらなくともディフェンスは上手くいっている相手の方が幾分か気持ち的に余裕がありそうである。
体育館中にブザー音が鳴り響く。第4Qが始まる。立ち上がりコートに向かう選手たちの中から、祈るような気持ちで三井くんを探す。
「あっ」
今まで他の選手の影になっていた三井くんの首にかかっていたタオル。それは誕生日に私があげたタオルだった。つい鮮やかな青色に染められた指を、ぎゅっと握りしめる。
今日、私がこの会場に来ていることを三井くんは知っている。それでも、一度も私を探す素振りを見せはしない。
真っ赤な湘北のユニフォームをスタンドから必死に見つめていた頃も、それは同じだったはずだ。コートに立つ三井寿の視線は決して私と交わったりはしない。
それなのに今は、三井くんの選んだネイルに、私の送ったタオルが、この会場の誰にも知られぬ秘密の証として私たちを繋いでしまっている。
ちくりと刺さる胸の痛みは、嬉しさとは違う。だけど、それが何なのかも分からなくて、これ以上考えないように試合に集中することで頭から追いやった。
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