cosmic dust

 見渡すが今のところ大きな敵はいないので、のえるはスマホを取り出して情報を確認する。一般の人とかはいないようで安心するが、昼間の亜空間よりどんよりと暗くてのえるは不安になり、スマホとルルカカの手をぎゅっと握った。
「のえる、ルルカカ」
「管理官!」
 スマホからノイズ混じりの声が聞こえる。アズールヴェルの声にのえるは少し安心した。
「アズ、ここは?」
「人工的に作られた亜空間のようだな。のえるは体に負担がかかるのでなるべく戦闘は避けてほしい」
「そうなの?」
「昼間も戦っているからな。のえるの体にどう影響するかわからない」
「むむむ……」
 もし敵が出てきても昼間みたいには戦えないようでのえるは悩むと、ルルカカがのえるに笑いかけた。
「じゃあもし戦闘になったら、のえるはサポートお願いね。氷で足元固めたりとか、アタシの足場作るとか」
「それならできそうかも?」
「うむ、それくらいなら多分……のえるはプロテクトドレスに着替えるんだ。ルルカカはもし亜空間を作った人が出てきたらなるべく穏便に済ませてほしい」
「了解」
「アズは来ないの?」
「敵が巨大な物、もしくはアルマロイドであれば。申し訳ないがアルマロイドには制限があり、基本的に人間と戦ってはいけない決まりになっている」
 アルマロイドが戦闘時に有利すぎるため人間と戦わないそうだ。エイルと戦ったけれど、確かに倒すとなると絶対無理だとのえるは思う。ルルカカは殴り合うらしいが、それは制限に引っかからないのか謎だ。
「副管理官さんとルルカカはいいの……?」
「そこふたりはそれがコミュニケーションだからな……訓練扱いになる」
「恐ろしい訓練なの」
「ムカつくから殴ってるだけだよ。それよりエネミーは?」
「話しが逸れたな。アンブルジュエルのエネミーではないが、人がいる。ひとりだけだが十分に警戒してほしい」
 のえるはスマホを腕輪に変えて、プロテクトドレスに身を包んだ。プロテクトドレスを着ると背筋がなんとなく伸びる。
「のえる!上から来るよ!」
「えっ」
 ルルカカにものすごい勢いで手を引っ張られ上に跳んだ瞬間、耳を劈くような音とともに何かが落下してくると地面に大きなクレーターができた。
 砂煙と共に見えてきたのは人のシルエット。地面に手をついて立ち上がろうとしていた。
「な、何が起きたの……?」
「多分アタシたちに攻撃してきたんだと……っ、のえる!」
 人のシルエットはのえるを見ると同じように跳び、腕をおおきく振りかぶってきたので、のえるは慌ててルルカカの手を振りほどき身構えた。
「邪魔だ!」
「うわっ……!」
 その人の拳は鉛のように重たいのに、見切れない速さでのえるにぶつけてきた。身構えていたが衝撃でいとも簡単に地面に叩きつけられた。
「ちょっと!いきなり何すんのよ!」
 ルルカカは地面に足がついた瞬間、咄嗟にロングソードを作り握りしめると地面を蹴り、地面に降り立ったシルエットの人物に突撃する。
「はぁっ!」
 砂煙ごと剣を横に払う。鉄のぶつかる冷たい音が響いた。
「うるせーな!!きゃーきゃー騒ぐな!」
 若く張りのある少年の声が響いた。ルルカカの剣は少年のつけている篭手のような硬いもので止められていたので、ルルカカはいったん引いて距離を取った。
「喧嘩売ってきたのはそっち!何者?そしてこんなとこで何してんのよ」
「素直に答える馬鹿に見えんのか?」
「見えないけど!一応穏便にと言われてるんで」
「なら出ていけ!」
 少年はルルカカと距離を詰めるとぐっと拳を頭上に振り上げて構える。ルルカカもロングソードを両手に持ち直して迎え撃とうと足を踏み出した。
「待つの!」
「なっ……!」
 少年の背後からのえるの凛とした声が響く。のえるは床に手をついて地面を凍らせ、少年の足元を冷たく固めて足止めをした。
「邪魔するんじゃねぇよ!引っ込んでろ餓鬼!」
「いきなり殴り掛かってきて餓鬼って酷いの!というか君も変わらないの!」
「うるせえ!てめえより……」
 少年はのえるを見て目を見開くと、ぐっと拳を握りしめた。その様子にルルカカは警戒してロングソードを構え直すが、のえるは首を傾げている。
「てめえ……地球人か?」
「え……」
「何故、アルマを持ちアルマが覚醒している?何故だ?」
「それは……」
 のえるが答えていいのか悩んでいると、ルルカカが代わりに答えた。
「のえるはアルマロイドからアルマをもらってるからだよ。こっちは質問に答えたからアタシたちの質問にも答えて」
「はぁ?ふざけんな!!!」
 少年は激昂すると足元の氷を自力で壊してのえるに一直線に向かっていった。突然の事だったが、のえるも応戦するために構えた。
 鋭く何度も突き出される拳に、のえるは避けるので精一杯だった。
「俺は強くなるために腕と足を犠牲にしたのに!てめえは!何の犠牲もなくアルマが覚醒したっていうのか!?ふざけるな!ふざけるなぁぁぁっ!!」
 あまりの剣幕と猛攻にのえるは何も答えられなかった。その様子を見たルルカカは、のえるに当たらないようロングソードを少年に投げつける。当たれば止まるだろうし、当たらなくても意識をのえるから逸らすためだ。
 少年は後ろから飛んできた剣に気づいたが、避けきれず頬を切ってしまった。
「っ……!」
「すきありなの!」
 のえるは咄嗟に屈むと少年の足を払う。バランスを崩した少年が地面に手をついたのを見計らって、地面を先程より厚めに凍らせた。
「ぐっ……」
 さすがに両手を凍らせたら少年も大人しくなった。ふう、とのえるは一息ついた。
「のえる、いい動き!さて、貴方は誰で、どこから来て、何しに来たの?場合によってはグラナダに転送するけど」
「俺はセネオス。アンブルジュエルを集めに来た」
 ものすごく不服そうにセネオスは答える。先程の興奮が治まり、今は冷静なようでのえるは安心したが、セネオスはのえるを睨みつけたのでのえるは怯んだ。
 そんなことはお構いなしにルルカカは質問をしていく。
「じゃあ貴方がアンブルジュエル輸送中の船を襲撃したの?」
「俺ではない」
「そう。じゃあなんで亜空間作ってんのよ」
「アンブルジュエルを引き寄せてんだよ」
「なるほど。アンブルジュエルを引き寄せる魔術を展開したのね。貴方は惑星リーバスの人だ」
「俺の出身がわかったところでどうしたって言うんだよ。どうせ恵まれたセルアの人間が」
 セネオスはルルカカに悪態をつくが、ルルカカは涼しい顔をしている。のえるは会話についてこれず、おろおろと狼狽えていた。
「どうせ恵まれたセルアの人間よ。とにかく魔術とか発展していない場所での魔術と能力は禁止されてるんだから、亜空間の発生源を教えなさいよ」
「は?嫌だね!こっちは仕事なんだよ」
「誰に雇われたかとかはグラナダで聞くから」
 ルルカカが拘束魔術をセネオスにかけようと手を伸ばした瞬間、セネオスの拳がルルカカの顔を横切った。
「危なっ!」
「こんなところで捕まってたまるか!」
 あれだけ分厚い氷で固めていたのに、氷は砕かれ拘束を解かれてしまった。
「いい加減にするの!」
「ハッ、地球人の技は見切った!」
 のえるが拳を振り上げてセネオスに向かって降ろすが、のえるの拳はいとも簡単に掴まれてしまう。そのまま捻られ、のえるはバランスを崩して地面に倒れた。
「うっ……!」
「ちょっと!アタシを無視するなんていい度胸ね!」
 ルルカカも負けじとロングソードを精製し、両手でしっかりと持ち手を握りしめ、セネオスに振り下ろすが鉄のぶつかる高い音が響く。
「無駄だ!」
「無駄じゃないのー!」
 セネオスがルルカカに気を取られている間に、のえるは素早く立ち上がる。セネオスの脚を払うように蹴ると、セネオスもバランスを崩し倒れた。しかしセネオスは受け身を取るとすぐに立ち上がる。
「邪魔だ!」
 一瞬のうちにのえるとルルカカにボディブローを決めていく。重たくて鋭い一撃に二人は後ろに吹っ飛んだ。
「うわっ!」
「っ……!」
 壁に背中からぶつかるとふたりとも衝撃ですぐには立てない。さすがにのえるも痛みを感じるようになってきて涙が出るが、そんな暇も与えられずセネオスが向かって来た。
 万事休すとのえるは目を閉じる。ルルカカは立ち上がろうとしたその時、大きな何かが落ちてくる音と共に突風と衝撃が地面に走った。ふたりともぐっと目を閉じて、飛ばされないように手足に力を入れた。
「おいおい、何やってんだよ。時間かかりすぎだァ……餓鬼」
 ノイズ混じりで気怠そうな男性の声が頭上から響いた。見えるのは鉄の塊。のえるはこの状況に既視感を感じたが、違うのは万事休すのままだと言うことだ。
「うるせーな!エヴァンウィルの邪魔が入ったんだ!」
「じゃあ引けよなァ……?アンブルジュエルはまだここに……ん?」
「どうしたんだよ」
「アンブルジュエルの反応あるんだが」
 そうノイズ混じりの声にいち早く反応したのはルルカカだ。
「アンブルジュエル……!あんたたちには渡さない!」
 ボロボロになりながらもルルカカは立ち上がるので、のえるも痛みを堪えて立ち上がる。
 正直戦えるかは不安だったが、ルルカカはロングソードを2本精製して構えたので、のえるも拳を握りしめた。
「こんな子供に手こずってんのかァ?」
 先程よりも低い位置から声がかかる。大きな鉄の塊は丸みを少々帯びており、逆関節の脚と黒光りするボディが特徴のアルマロイドだ。
「なら潰せよ」
「そうだなァ……死体は任せた」
 そう言うが早いか鉄の拳が二人に降ってくる。のえるは慌てて跳んで逃げるが、ルルカカは手慣れたもので力強く跳ぶとアルマロイドの腕に乗り、走り出した。
「のえる!サポート任せた!」
「う、うん!」
「なっ……!」
 のえるはルルカカが走れるようにアルマロイドの手を氷漬けにすると、セネオスが追撃するために拳を振り上げて跳んできたのでめげずに応戦する。
「どうしてアンブルジュエル狙うの!?」
「お前らには関係ねえ!それと……お前は絶対に殺す」
「わっ……!!」
 殺意を剥き出しにしてセネオスはのえるを狙う。のえるはセネオスの重たく素早い拳と蹴りから守るので精一杯だった。
 ルルカカはアルマロイドの腕を走り抜け、目を狙って剣を投げつけた。
「はあっ!」
「小賢しいなァ……」
「危なっ!」
 もう片方の手で剣ごと払われるが、ルルカカは予測していたので颯爽と跳んで避ける。それからロングソードを両手で握りしめ、空を切り斬撃を放った。
「鬱陶しい!」
「っ……!」
 ルルカカはアルマロイドの腕に薙ぎ払われた。のえるはそれを見て助けに行こうとするが、セネオス渾身の蹴りがのえるの脇腹に当たり吹っ飛んだ。
「死ね!地球人!」
「うあぁっ……!」
 ふたりとも壁にぶつかりそうになるが、暖かい物にふわりと包まれると同時に何か巨大なもの落ちてきた。その巨大なものの手のひらにゆっくりと降ろされる。
「何だこの騒ぎは……」
 地を這うようなとてつもなく不機嫌な声が上からノイズ混じりに降ってきた。
「うげっ……!副管理官……」
「ふ、副管理官さん……」
 ルルカカは思いきり目を逸らすし、のえるも助かったとは失礼ながら思えず、おろおろするだけだった。
 エイルに睨まれてるからだ。
「何だァ……ってマジのアルマロイドか!」
「どうすんだよ」
「やるしかねぇな!」
 アルマロイドが一直線にエイルに向かってくるが、エイルはのえるとルルカカを肩に乗せた。
「なんだあれは?」
「アルマロイドでしょ?」
「違うな。似て非なるものだ」
「なにそれ……って来るよ!」
「騒ぐな、微生物」
 エイルはとても冷静だった。のえるもルルカカも肩に乗っているのでしっかりとパーツに掴まると、エイルはそれを見計らったように動き始めた。

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