cosmic dust

「何回目で気づくかなーって思ったんだけど意外と早かったね。びっくりした?」
「びっくりしたの……!どうしてルルカカがここに??」
「それは……」
「あ、こんなとこで立ち話よりソファに行くの」
 のえるは立ち上がると作業を中断し、ルルカカをリビングのソファに案内した。ゆっくりと話しをする前にルルカカの靴を玄関に置いて、お茶とクッキーを用意してソファテーブルに置いた。
「ありがとう。突然ごめんねー」
「お口に合えばいいけど……どうしてここに?」
「副管理官のお使いから脱走して来たの」
「脱走」
「そう、脱走」
 悪びれもなく平然とルルカカは脱走と言い放つと、紅茶に口をつける。洗練された動きで紅茶を飲むルルカカは絵画のように美しく映えた。のえるの家なのにその空間だけ神秘的だ。
「それはアズに言ったの?」
「言ってないよ?言ったら止められるからね」
「えええ……怒られちゃうよ」
「怒られるのが怖くて脱走なんてしてらんないから!今日は泊めて?」
 泊めてとお願いするルルカカの目はキラキラと輝いていた。のえるの家はのえるひとりしか住んでいないので、迷ったが許可した。
「いいけど……」
「やったー!ついでに地球も案内してよ!どんなところなんだろうな〜実際見るのは初めてだし!」
「実際見るのは……?」
「ふふふ、実は地球の事色々調べたんだ!のえるの住んでる国とか町とか!食べ物とか!」
「何を食べたいの?」
「たこ焼きとラーメンとたい焼きとお好み焼き?と……そうそう!食べたいのメモしてきた!」
 ルルカカはブレスレットに手を触れようとしてぴたりと止まった。
「……端末起動するとグラナダに情報いくから端末触れないじゃん」
「そ、そうなの?」
「ネットワークはグラナダ経由するから……」
「私のスマホもグラナダ経由になるの?」
「管理官通すし、なると思う」
「ええ……恥ずかしいの……」
 特に変なものは見たりしないが、アズールヴェルにスマホの中身を見られるようでちょっと恥ずかしい。ポケットからスマホを取り出して一応変なものがないか確認する。
「まあ、管理官はそんな監視的なものはしないとは思うけどね」
「わかんないよね……」
「のえるの端末の中身はチェック済だ」
「うわぁぁぁ!?」
 スマホから突然落ち着いた声が聞こえてきて、のえるとルルカカが同時に叫んだ。のえるはスマホを投げ捨てそうになったが、ぐっと堪える。
「そんなに驚くことだろうか?」
「と、突然は驚くの……」
「心臓に悪いんだけど……」
 きょとん、としてそうなアズールヴェル。突然なんの前触れもなく声がしたら驚くだろう。今日は心臓に悪い日だとのえるは心の中で悪態をつく。それよりも、チェック済という言葉に引っかかった。 
「アズ、チェック済って……」
「ウイルススキャンついでだ。もちろん、個人情報は破棄しているが……それより、ルルカカがそちらにいるだろう?」
「もうバレてるし」
 バレてるし、と言うにはルルカカは落ち着いてお茶を飲んでいる。特に叱られるのが怖いとかはなさそうだ。
「エイルが怒っているが……まあ、それは私がどうにかしよう。それより、君には任務を与えたい」
「任務?」
「地球の調査とアンブルジュエルの回収補佐だ」
「え!?そんなことでいいの!?」
 任務、と言われてルルカカは身構えていたが、調査するだけなら楽だと肩をなでおろした。
「明日のえるとグラナダに来てくれるなら勝手に地球に行ったことは大目に見よう。本来なら減俸処分なのだが……」
「もちろん!帰るよ!」
「それならいい。アンブルジュエルの反応がなければ夕方にはグラナダへ。のえるとルルカカどちらともメディカルチェックだ」
「ええ……」
「なんでアタシまで?」
「地球に行ってどんな影響あるかわからないからだ。本来なら行く前にもチェックしてほしかったが仕方ない」
 メディカルチェックといえば、あのニトラゼットと会わなければいけなくてのえるは一気に血の気が引いた。
「メディカルチェックはすぐに終わるはずだ。ルルカカにはあとで地球調査項目のデータを送っておく。一応言っておくが魔術、能力は地球人の前では禁止だ」
「それはわかってるよ。地球には魔術とかないもんね」
「そうだ。くれぐれも宇宙人とバレないように……」
「でもルルカカの耳でバレちゃうの」
 ルルカカには尖ったエルフ耳。髪では隠れないので誤魔化すのが難しい。
「大丈夫。耳なんて誰も見ないし、耳より見るとこあるでしょ?」
「見るとこ……?あ!顔!」
 ルルカカは誰もが振り返るような美人だ。それこそゲームのキャラクターが実際に歩いているかのような美しさなので、まず見るのは顔だろう。
「そういうこと!」
「耳を指摘されたら……?」
「生まれつきでいいじゃん!地球のこと調べたときにエルフ?っていうのに憧れて耳を尖らせる整形手術した人いるらしいし?」
「ルルカカは何を調べたの……??」
「地球のこと調べたときに出てきたよ」
 ルルカカは何を調べたのか不明だが、ひとまず宇宙人とバレることはなさそうでのえるはホッとした。
「ではルルカカは調査を頼む。端末は起動しておくように」
「あ、そうだった……」
「のえるは引き続きアンブルジュエルの回収を。何かあれば連絡してほしい」
「わかったの」
 のえるが返事をするとスマホから声は聞こえなくなった。
「うえぇ……調査項目思ったより多いなぁ」
 ルルカカのブレスレットから画面が空中に投射される。のえるも覗き込むように見ると、食事のレポートとかあるので面倒そうだ。
「アルマの測定とか、気候とか……あと川があればその水とか、葉っぱとか持って帰らなきゃ」
「そうなの?アルマの測定はどうやるの?」
「この端末が自動測定してくれるから大丈夫。それよりも……お腹空いたー!」
 きゅうう……となるお腹の音。のえるもその音を聞くと途端に空腹を感じた。
「今日はスープパスタ作ろうかなって思ってたんだけど……」
「それもいいけど!肉じゃが?っていうのとか!和食?っていうの食べてみたいな!」
「肉じゃがは時間かかるよ?」
「それでも食べてみたいんだよね……のえる、作って」
 お願いと、手を組まれキラキラした目で頼まれるとのえるも断れなかった。
「わかったの。ちょっと待っててね」
 ルルカカは宇宙人。地球のごはんを食べてみたいという気持ちに応えるため、のえるは精いっぱいおもてなしすることに決めた。
 急ぎで肉じゃがと味噌汁作ってテーブルに置いていく。ルルカカはのえるが料理を準備している間、テレビを見たりしていた。テレビを消してルルカカはテーブルにつく。
「ルルカカは、お箸使えるの?」
「お箸!?これが……」
 物珍しそうに箸をルルカカは眺める。特に珍しい箸とかではないが、ルルカカにとっては珍しいものなのかもしれないのでのえるはそっとしておいた。
「使い方はわかるの?」
「多分……?一応、セルアにもお箸を使う文化の国はあるからね。でも実際に見たのは初めてだからやっぱり無理かも?」
「お箸の使い方教えようか?」
「ほんと!?教えて教えて!」
 のえるは一般的に言われている箸の持ち方をルルカカに教える。ペンを持つように箸を持って……と説明するが初めては難しいようだ。
「フォークもあるよ?」
「だめ、ちゃんと掴んでみせる」
「暖かいうちに食べたほうがおいしいの」
「なら今日は諦めようかな……」
 ルルカカが諦めたのでフォークとスプーンを渡す。ふたりでいただきますしてやっと夜ご飯だ。
「美味しい……!食べたことない味!」
「それなら良かった」
「お芋がほくほく!人参も甘くて美味しい!お肉も柔らかくて最高!……このぐにゃんぐにゃんのひもは?美味しいけどなにこれ」
 笑顔でルルカカは肉じゃがを食べるが、びよーんとこんにゃく糸をフォークにひっかける。そしてくるくる。
「こんにゃく糸なの。なんとなく買っておいて良かったの…… 」
「こんにゃく……?なにそれ?」
「こんにゃくは……えーと、こんにゃくなの」
 こんにゃくが何かを突然聞かれるとのえるも咄嗟に答えられなかった。ルルカカは気にせずこんにゃくを頬張った。
「……もきゅっ?みたいな感じ?これはセルアにはないかな……」
「もきゅっ」
「そうそう、もきゅっ」
 そのあとも味噌汁に入ってるお麩だったり、味噌汁の味噌って何?だったり、肉じゃがの味付けは……等々ルルカカの疑問に答えつつごはんを食べ終わる。いつもより賑やかで楽しくてのえるの顔は終始笑顔だった。
「そういえば、地球の食べ物何でも食べて大丈夫なの?」
「大丈夫だとは思うよ?地球人より体は丈夫だしね」
「そっか、なら安心なの」
 のえるは食器を下げているとルルカカも手伝ってくれた。
「ルルカカはお客さんだからいいの!」
「美味しかったから手伝わせて!」
「で、でも……」
「いいからいいから」
 ルルカカもニコニコしながら食器の片付けをする。のえるが洗った食器を布巾で拭くだけだが、鼻歌交じりで拭き拭き。
「ルルカカは王女様だよね?」
「そうだよ?」
「お城とかでも手伝ったりするの?」
「お城ではしないけど、抜け出したときにレストランで美味しいご飯とかご馳走してもらうことあったから、お礼にお店の皿洗い手伝ってたんだ」
「抜け出し……!?」
「そうそう。お城にいたら窮屈だからひとりで抜け出してはどっかでご馳走になって皿洗いしてたよ」
「意外と庶民派な王女様?」
「庶民が楽しいよ?自由だし!」
 そう語りながら布巾でお皿を拭くルルカカに王女様という威厳は感じられなかった。
「ルルカカが女王様になったら庶民の気持ちがわかるんだろうなぁ……」
「女王になるつもりはないけどね!よし!終わり!」
 最後の皿を食器棚に仕舞うと、ルルカカは背伸び。のえるも手を拭いているとルルカカがそうだ、とのえるの方を向いた。
「ねえねえ!外に出たい!」
「えっ」
「夜の散歩したいな!」
「でももう夜遅いの……」
「夜風に当たりながら散歩しようよ。ふたりなら平気平気」
「じゃあ……ちょっと待っててね」
 のえるはずっと制服だったので、ラフなパーカーとショートパンツに着替える。財布とスマホと鍵をポケットに突っ込んで準備完了。
「おまたせ」
「いこいこー!」
 ルルカカはのえるの手を引っ張って外に連れ出す。わくわくしてるのが伝わったので、ちょっと長めに散歩しようとのえるは散歩コースをイメージした。
「ルルカカはコンビニ寄りたい?」
「寄りたい寄りたい!コンビニスイーツ?だっけ?食べてみたい!」
「そうだね。コンビニスイーツも美味しいよ?」
「楽しみ〜!」
 そのまま家の鍵をしっかりとかけて、散歩に出かける。コンビニは歩いて5分位のところにあるので近いといえば近いが、のえるは少々遠回りした。コンビニに行くには直助の家の前を通らないといけないので、避けるためだ。直助にルルカカの説明をしっかりできる自信がなかったから。
「あ!車だ!」
「珍しいの?」
「うん!すっごく珍しいよ!セルアではグリフォンか、馬車か、自分で飛ぶか、ワープするかのどれかだからね」
「グリフォン?」
「そうそう。でっかい鳥!一番安くて早いのがグリフォンだよ」
「うーん……ファンタジーな感じ?」
「地球からしたらそうかもね!地面とかすごく整ってる〜!歩きやす……うわっ!」
「ルルカカ!?」
 ずぼっと溝にルルカカのヒールが嵌まる。辛うじて転んではいないようだが、ルルカカの顔は悔しそうだった。
「地球にこんなトラップが!」
「大丈夫?怪我ない?」
「大丈夫大丈夫。怪我はないよ。でもよく見たら溝だらけだ!気をつけよう」
「それがいいかもなの」
 のえるはしっかりルルカカの手を握って歩くサポートをする。いつもハイヒール履いているルルカカには必要ないかもしれないが、ルルカカも振りほどくような素振りは見せないのでそのまま手を繋ぐ。
「うわぁ!これが電柱!電線!地球って電力が主流かぁ……これはこれで地球!って感じ?あー!あれはなに?自転車ってやつ?こっちはなによ?」
「そっちは原付バイクってやつだよ。免許ないと乗れないの」
「そうなんだ!わぁ!これが信号……!」
 のえるには見慣れた光景だが、ルルカカには新鮮なようで、あれは?これは?と聞かれながらの夜の散歩は楽しい。
「青信号になったら通っていいんだよ」
「黄色は何?」
「えっ……えーと……」
「というか看板多いね!あれ何?数字だけ!」
「看板……?」
 ルルカカが指を指したのは標識。確かに宇宙人から見たら看板なのかもしれない。
「標識といってね、車を使う人とかの……目印?ここはスピード落としてねーみたいな?」
「なるほど。物理じゃなくて空中に看板を投射した方が夜は見えそうだけど?」
「そんなにハイテクじゃないの……。あ、ルルカカまだだめ!」
 赤信号を渡ろうとしたルルカカを制止する。のえるより大きくて見た目はお姉さんなルルカカに、交通ルールを教えながら歩くのは新鮮で面白くてのえるは笑う。
「ルルカカって本当に宇宙人なんだね」
「地球人からしたら宇宙人だよ。地球のルールはわかんないから教えてね」
「うん!」
「でも車に轢かれるくらいじゃ死なないけど」
「え」
「かすり傷程度じゃない?悪くて打撲くらいの」
「ルルカカは頑丈なの……」
「アルマにも守られてるしね。わー!あれなに!?」
 ルルカカはトラックやパトカーを見てはしゃぐ。パトカーに手を振ったときは補導されるんじゃないかとドキッとしたが、ルルカカが大人びてるおかげか目の前をそのまま通っていったのでのえるはホッと一息。
 その後も電車や救急車等にルルカカははしゃいでのえるに説明を求めたため、コンビニ行くのにも30分はかかった。
「やっとついたねー……ん?」
「どうしたの?」
「一瞬だけだけど、濃いアルマの気配がしたんだよね……」
「濃いアルマの気配?」
 コンビニの裏は街灯が少ない路地になっており、暗くてなにもわからない。濃いアルマの気配ということなので、のえるはスマホを出してなにかしらの反応がないかを見ると、確かに亜空間の反応はある。地図の上に赤い点滅。
「本当だ……」
「やっぱり?濃いアルマの気配って事はアタシ以外の宇宙人が魔術もしくは魔法使ってるはずだもん」
「行ってみる?」
「エヴァンウィルの人ならここにいるのが問題だし、エヴァンウィル以外の人なら魔術使ってるの注意しないとだし、行こう」
「う、うん……」
 ぎゅっとのえるはルルカカの手を握る。他の宇宙人だったらどうしよう。急に警察官になったような高揚した気分になり浮き足立つが、ルルカカと手を繋いでいるので多少はマシだ。
「アタシじゃ亜空間突破する魔術使えないから、のえるおねがい」
「わかったの」
 スマホを取り出してグラナダのアプリを起動し、雷のアイコンに触れスマホを向けると空間にヒビが入り縦に割れた。昼間に見たのと同じだ。
「さすが管理官の魔術……!これで入れるから行くよ」
「ま、待って!」
 ルルカカに引っ張られるように亜空間の中に入ると、炭を溶かしたようなどんよりとして歪んだ空の亜空間。キョロキョロと回りを見渡しながら歩いた。

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