2010年7月、中学最後の総合体育大会。
全国行きがかかった決勝戦で膝を損傷した私はそのまま病院へと直行した。そして、二度とコートには立てないと医師に告げられたのとほぼ同時刻、試合に決着が着いた。3-2で負け、私のバレーボール人生は呆気なく終わってしまった。
誰も悪くない。悪くないのだ。そんなのは分かってる。分かってるからこそ、この悔しさをどうすればいいのか、14歳の私には分からなかった。
そんな私が潰れずに前を向けているのは、間違いなく…幼馴染の存在が大きい。絶対に調子に乗るから本人には言わないけどね。
あれから半年−
通い慣れた中学校、北川第一を卒業した。あと半月もすれば高校生になる。兄たちとは違う学校の生徒になるのだ。
「ねーねー、"運命"って信じる?」
「はぁ?」
近所のコンビニからの帰り道。買ったばかりの中華まんを頬張りながら、突拍子もない事を口にする青年はこの兄妹の幼馴染。及川徹である。
「2人とも知ってる?偶然が3回続いたら…それは運命だって」
「んなもん、ただの偶然だろ」
「徹は信じてるわけ?」
あっという間に平らげた中華まんの包み紙を丸めながらウインクをしつつ、及川はモッチロン!と答えた。同じく中華まんを食べていた藍の兄、爽は満足気に話す及川に冷ややかな目線を送っている。
「くだらね」
「そんなこと言ってるからモテないんだぞ!」
「あーあ、ご愁傷様」
「ちょ、ちょ、ちょ!ゴメンて!待って、ねえ!謝ってるじゃん!」
「悪い。聞こえなかったわ」
「聞こえてたでしょ?!絶対ワザとじゃん!」
思春期なら大多数の人が思うであろう、モテたいという気持ち。残念ながらお兄は皆無なのだ。いや、皆無ではないのかもしれない。少なくとも、無言でお兄に叩かれている徹よりその気持ちは薄いんだと思う。
「なんで急に運命とか変なこと言い出したの?あ!もしかして…彼女できた?」
「…うん、あのね?運命は決して変なことじゃーないし、彼女もできてませんっ!」
「……ドンマイ」
「半笑いで言うとか失礼だからね?爽!」
「安心しろ。お前だけにしかやらん」
「なんでよ!」
文句を言い続けている幼馴染とそれを遇らう兄をふと、眺めていた。遠くなっていく二つの大きな背中には
"AOBAJOHSAI"の文字が印字されている。
少し前まではこのザ・爽やかという白地にミントグリーンの配色のジャージを着る兄たちに違和感しか無かったのにな。こんなに馴染むなんてね。
「藍?」
「ゴメンゴメン!俺ら早かったね」
「……ううん。ただ…そのジャージ似合うようになったなぁって思っただけ」
「毎日着てるから見慣れたんだろ」
「徹くんはずーっと似合ってるけどねっ!」
「ふふ、私さ、徹のそういうところ好きだよ」
「エ"ッ!?!?!?!!!ちょ、爽!見た?今の見た?」
「見た」
「なに?」
「藍ちゃんが笑った!」
自分が笑ったことに対してこの喜び様は大袈裟過ぎではないだろうか。笑うなんてことは今までもあったのに、と不思議に思っている藍に爽はあの日以来の笑みは作られたもので感情は無かったのだと告げた。
「そっか……」
「それだけの事があったんだ。気にすんな」
「…うん」
「藍ちゃん、徹くんは心配だよ?俺らが居ない学校に行くの。本当に大丈夫?」
「もう入学式は2週間後ですよ?徹くん」
「分かってます〜」
「お前は心配し過ぎ。岩泉にも言われただろ」
「爽も岩ちゃんもドライ過ぎ!」
「お前が過保護なんだろ」
「徹、いつもありがとうね。でも…私、本当に大丈夫だから。もしかしたらマネになって、徹たちを負かすかもよ?」
「「それはないね(な)」」
まるで自分たちが絶対に勝つと言わんばかりにドヤ顔で2人が答える。あまりにもドヤっているのが面白すぎて、久しぶりに声を出して笑った。多分私はこの日のことを一生忘れないであろう、と二人が笑う姿を見て思った。いや、忘れたくないのかもしれない。
あれから一週間。入学式を間近に控えた藍は従姉に会いに一人で兵庫に来ていた。自分だけで本当に着くことができるのだろうかと不安と心配を抱えながらも、何とか到着した藍を出迎えたのは同じ歳の従兄の夏樹だ。
「来れたやん」
「私だってやるときはやるんです〜」
「はいはい。あ、コイツ俺の友達。んでこっちが従妹」
「…………」
「こんにちは。はじめまして、紫藤藍です」
「侑?おーーーい」
「あの…?」
「……宮…侑です」
「よろしくね」
これが、互いの人生に深く関わることとなる宮侑との最初の出会いであった。