17歳





日付が変わってすぐ、鳴り止まなくなった2台の携帯はそれぞれの枕元に置かれていた。もしかしたら、という期待を胸に暗闇の中でモゾモゾと携帯を探し通知が誰からかを確認する。

部活のやつら、クラスメイト、誰かも分からんやつ、彼女………。一番欲しい子の名前は無く、深夜だということも忘れデッカいため息をついていた。

「デッカいため息やな、ツム。とうとうミキちゃんにフラれたんか?誕生日早々ツイてへんなぁ」
「フラれてへんわアホ!」
「ほんならそのデッカいため息はなんなん」
「来てへんのや」
「ああ、ミキちゃん?寝てんのとちゃう?」
「ミキちゃう!あいつは一番に送って来よった」
「ほんなら来てるやんけ」
「ちゃうっちゅーの!藍ちゃんから来てへんのや!」
「……は?誰やって?」
「藍ちゃん!」
「いや、誰?!」
「俺の好きな子」
「?ミキちゃんと付き合うてるやん。好きなんちゃうん?」
「別に好きやない。それでもええって言うから付き合うてるだけや」
「お前ほんっっまに、人でなしやな!」
「ハァ?!なんっやねん!向こうがそれでええ言うてるんやから俺が誰を好きでもええやんけ!」
「少しは人の気持ちも考えろや!そんなんええわけないやろが!」

ただの普通の会話だったのだが、お互いにどんどんヒートアップしていき、気付けばいつものように大声で言い合っていた。その息子らの声に今何時やと思ってるん!?早う寝なさい!と、母にどやされている。そして、2人の険悪ムードは一晩で収まるわけもなく、翌朝になっても続き朝練もほとんど会話はしていなかった。

「誕生日おめでとさん」
「どーも」
「治と喧嘩でもしたん?すんごい顔しとったぞ」
「した」
「どうせくだらん理由やろ。早う仲直りせえよ。お前ら今日誕生日やろ」
「俺は悪くない!」
「何が理由なん?」
「俺が好きなんは藍ちゃんやって言うただけや」
「…はぁあ!?いや、好きなんは知っとったけど、お前…彼女居るやん」
「それでもええって言うから。ほんならサムが人でなしって」
「それはそうやな。それにそういうの藍絶対嫌やで」
「藍ちゃん…彼氏できたんかな。全然連絡来れへん。俺誕生日やのに」
「最近までな。でも、もう別れたって言うとった。あと、お前の誕生日なんか知るわけないやん!」
「は?彼氏、居ったん?聞いてへんぞ!」
「そんなん言わんやろ!」

いつも通り朝練を終え教室に入ると、一番に声を掛けてきたのは"藍ちゃん"の従兄兼友人の玖村夏樹である。昨夜の出来事を一部始終話すと、夏樹は決して信じたくない事実を言い放った。そして、誕生日だというのにテンションが駄々下がりなのは言うまでもない。良くも悪くも言動が目立つ侑のテンションの低さは、ついに彼女と別れたという有りもしない噂が飛び交い始めたのである。

「相変わらず凄いわ。あっちゅー間に広まりよる」
「え、アレほんまなん?」
「なにが」
「別れたから落ち込んどるって」
「そんなことで落ち込むわけないやろ」
「そこは落ち込めよ」
「出た。人格ポンコツ発言」
「あ"ぁん?何しに来よったサム」
「お前に用はないんじゃアホツム」
「なんやと?!俺がアホならお前もアホやんけ!」
「ハーイ、ストップー!どっちがアホかはどうでもええわ。ほれ、侑。誕生日プレゼント」
「はぁ?プレゼントって、夏樹くんの携帯やんけ」
「耳、あててみ」

昼休み。まだムシャクシャが収まらない侑は片割れの教室には行かず、夏樹を含んだサッカー部連中に混ざって昼食を食べていた。名物の宮兄弟のケンカや!と周りが騒ぎ出したその時、プレゼントだと言って夏樹は自分の携帯を侑の目の前に差し出したのだ。半信半疑で言われた通り耳にあて、恐る恐るもしもしと声を出せば聞こえてきたのは待ち望んでいた"藍ちゃん"の声だった。

「も、もしもし?」
『もしもし。侑くん?』
「お、おん。なんで藍ちゃんが?」
『夏樹くんが侑くんが私に聞きたいことがあるって』
「ん?聞きたいこと?」
「好きな子居るのに好きじゃない子と付き合うのはどう思うか、聞きたいんやろ?」
「ナッ!」
「藍ー、聞こえてた?」
『え?あ、うん。聞こえてたけど…』
「答えたって、藍はどう思うのか」
「……」
『彼氏が他の人を好きなのに私と付き合ってるって知ったら悲しくなる、と思う』
「好きな子居ってもええって言うても?」
『それは本心じゃないよ。一緒に居ても、他の誰かを見てるって分かってるのって、想像する以上に辛くて苦しいことから』
「………」
『あ、私もう行かなきゃ。次移動教室なの』
「おん。教えてくれてありがとう」
『いえいえ。あ、そうだ!』
「?」
『侑くん、お誕生日おめでとう。素敵な一日になるといいね』
「……あ、ありがとう!今なった!藍ちゃんがお祝いしてくれたから、むっちゃええ日や!」
『そう?それなら良かった。じゃあ、またね』
「おん。また」

何か覚悟を決めたような顔して電話を切った侑は、部活が始まる前に彼女に別れを告げた。有りもしない噂が誠になったのだ。ただ、今までと違うのは、ちゃんと相手に謝罪をしたということだった。

「今まですまんかった」
「いや、でも、それでもええって」
「ごめん。俺がアカンねん」
「その子に別れてって言われたん?」
「そんなこと絶対言わん子やねん。そもそも俺に彼女居るのも知らんと思うで」
「私じゃその子の代わりにはなれへんの?」
「無理や。代わりなんて居らんし、要らん。藍ちゃんしかアカンねん」
「……ほんまに好きなんやね、その、藍ちゃんって子。侑くんのそないな顔初めて見た」

宮侑、17歳の誕生日。彼はこの日、ずっと先の将来も藍だけを好きでいることを心に決めたのだった。