「うわぁ…、徹そんなこと言ってたの」
「岩泉も同じリアクションしてたぞ」
烏野との練習試合を終えた夜。かつての後輩である影山に向けた幼馴染のあまりにも幼稚過ぎる言動を兄から聞いた藍はドン引きしながら食後のアイスを食べていた。
「で、どうだった?烏野」
「思った以上だった。影山とチビの超速攻。あ、あとメガネノッポ」
「……言い方」
「でも、次やったら俺らが勝つな」
「なんで?次も負けるかもよ?」
「攻撃は厄介かもしんねえけど、レシーブが偏りすぎ。チビもノッポも苦手なんだろうよ。及川に狙われてたぞ」
「レシーブあっての攻撃だもんねぇ。まぁ、でもその辺は大丈夫だと思うよ?」
「お前が一番分かってんだろ。レシーブは一朝一夕で上達するもんじゃねえって」
「うん、そうなんだけどね。まぁ、とにかく!インハイ予選で当たったら分かるんじゃないかな」
「そう簡単に当たるかよ。んで?ちょいちょい連絡取ってる野郎は誰だ?」
「……気になるの?」
「また変なヤツに付きまとわれても困るからな」
「お兄は困らないじゃん」
「アイツがうるせえだろ」
「大丈夫。変な人じゃないよ。夏樹くんに聞いてみたら?よーく知ってるから」
「なんで夏樹が出てくんだよ」
「夏樹くんのお友達だもん」
「ほぉ」
ああ、ごめん、夏樹くん。面倒なことになりそうです。と、兄の不敵に笑う顔を見て思った数日後。藍の予感は見事的中した。昼食後の楽しいお喋りの時間を見計らうかのように、机に置いてあった携帯が振動していた。
「藍ー、携帯鳴ってる。電話じゃない?」
「本当だ。誰だろ」
「あつむん?」
「ううん、従兄」
「なーんだ、残念」
「うちらのことは気にせず出な?大事な用かもよ」
「あー、うん、そうだね」
「?」
このまま出なければ諦めて切ってくれるんじゃないだろうかという淡い期待は延々と手の中で震え続けている携帯を目にして、無いなと悟った藍は意を決して通話ボタンを押す。
「も、もしもし」
『出るんおっそいわ!』
「ごめん」
『なんで俺のこと売った』
「もしかしなくても…お兄?」
『おん。藍にちょっかい出してるヤツはどんな野郎なんだって』
「出されてないのに」
『…ハ?』
「え?」
『ま、ええわ。俺は正直に侑がどんなヤツか言うたからな?にしても意外やったわ。爽くんがこんな過保護なんて』
「ああ…、それね…たぶん元彼のせい。色々あってお兄達に助けてもらったから」
『ほおか。……あ、ちょお待ってて』
「?」
待っててと言われた通り待っていると、遠くの方から数人の話し声が聞こえてきた。恐らく通話中の携帯を机に置いて誰かと話しているのだろう。部活の連絡だろうか、忙しそうだしこのまま切ってしまおうかと思っていると突然ガッタンという音が聞こえてきた。
『ほんまに藍ちゃん?』
「うん。その声は…侑くん?」
『おん!俺!』
「夏樹くんは?」
『連絡事項やとかで部活の奴らに呼ばれてん。戻るまで話しとってって』
「そう、なんだ。それなら後はメールとかでも大丈夫なのに」
『それは嫌や』
「どうして?」
『藍ちゃんと話せないやん』
「……いつでも話せるよ」
『今、話したいねん。藍ちゃんの声もっと聞きたい』
「っ…」
思いがけない侑の言葉に思わず言葉が詰まる。顔に熱がこもっていくのを感じながら、どう答えようか迷っているとそれを察したのか侑は話題を変え話し出した。
『なぁー、夏樹くんと何話してたん?』
「お兄が夏樹くんに変なこと聞いたみたいで、その話し」
『ああ!コンビニの!』
「コンビニ?」
『前に電話してた時にコンビニ行くでーって言っとった人やろ?』
「………それたぶん幼馴染かも」
『藍ちゃんの幼馴染って、男なん!?』
藍は予期せぬ大きな声に思わず携帯を遠ざけた。そんなに驚くことなのだろうか、と不思議に思いつつ再び携帯を耳にあてるとほんの一瞬の間に電話の向かうにいる人物が侑から従兄に変わっていた。少しだけ他愛もない話しをして電話を終えると、目を輝かせながら藍を見つめる友人の倉本綾と目が合う。そして、もう1人の友人、須藤凛子は我関せずといった感じだ。
「あつむんと何話してたんですか〜?」
「お兄と幼馴染のこと」
「ふむふむ。それでそれで?」
「…?それだけだけど」
藍の言葉を聞いた綾はそんなバカなと言いたそうな程、目を見開いて藍を見ていた。その間も凛子は表情一つ変えずに藍と綾のやり取りを眺めていた。
「いやいやいや、藍ちゃん。じゃあ、なんで顔赤くなってたの!?」
「えっ?!」
「確かに赤くなってた」
「ほらぁ!凛ちゃんもそう言ってんじゃん!」
「もういいから。忘れて」
「すげー盛り上がってるけど、綾ちゃん戻らなくて大丈夫?もう来るぞ」
「やっば!田中ありがと!戻る!」
盛大に大きな声で戻ると宣言し、綾はバタバタと急いで自分のクラスに戻っていった。このまま忘れてくれたら、と藍は思ったがそんな都合良くいくわけも無く、放課後まで質問攻めに遭っていたのだった。