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七歳の春。私たち家族は事故に巻き込まれた。同じ車に乗っていたはずなのに、私だけが無傷で生き残った。


「あの子だけ無傷だったって」
「気味悪いのよね、あの子。何か視えるって」
「誰が引き取るんだよ」
「向こうの親戚は?」
「駆け落ちだから誰も知らないって」
「はぁ?!どうすんだよ!」


この大人達はなんて醜い人達なんだろうと、子供ながらに思う。今、私がいなくなっても、誰も何とも思わないだろう。面倒ごとに巻き込まれずに済むからラッキーと喜びそうだ。私だってあなた達に渋々引き取られて育ててもらうくらいなら、このまま逃げたい。だけど、七歳の子供の私にはこの人達以外に身を寄せられる大人はいないんだ。


「邪魔するよ」
「なんだ?このジイさん」
「誰?!」
「おい、部屋間違ってんじゃねえか?」
「間違っておらんよ。お前さん達、この子を誰が引き取るかで揉めておったようじゃが、安心せい。儂が引き取る」
「はぁ?!」
「赤の他人に引き渡せると思ってるんですか!?」
「儂は紫藤元助。この子のじいさんじゃ」


私の祖父だと名乗る老人は、にっこりと優しく笑って少しだけ部屋から出ているように言った。こくん、と頷き部屋を出て葬儀場の中をひたすら歩き回っていた。ただただ、あの人達から、居心地の悪いあの部屋から遠ざかるために歩いていた。このまま外に出て逃げようか。そんな事を考えていると、祖父に見つかった。


「長引いてしまってすまなかったね」
「……べつに」
「さあ、行こうか」
「…どこに?」
「おじいちゃんの家じゃよ」


車の中で聞いた話しは全く意味が分からなくて、覚えていたのは、これから私はあの人達ではなく祖父と共に暮らすという事。そして、私は今日から母の姓である紫藤を名乗るという事の二つだけだった。


「さ、入りなさい。今日から此処が君の家じゃよ」
「お帰りなさいませ」
「尊は戻っておるのか?」
「先ほどお戻りになりました」
「そうか。では皆を集めてくれ」


大きな御屋敷と使用人の数の多さにたじろんでいると、祖父に手を引かれて何処かに連れていかれる。着いたのは、広い和室で、中はギュウギュウになるほどの人が集まっていた。


「急に集まってもらってすまんな」
「当主。その子は…」
「この子は儂の孫じゃ」


祖父の"孫"という言葉にザワザワし始めた。それはそうだろう。父と駆け落ちをした母は紫藤家との縁を切り、私の存在を知らせる事は無かったのだから。


「じゃあ、その子が舞の」
「娘じゃ。藍、こやつは尊。お前さんの叔父じゃ」


こうして私は母方の祖父に引き取られ、何不自由なく暮らす事になったのだった。こんな立派な御屋敷で育った母が、何故縁を切ってまで駆け落ちをしたのかを知るのはそう遠くはなかった。