− 二〇〇六年四月
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東京都立呪術高等学校。略して、呪術高専に一人の女の子が編入してきた。名は紫藤藍。巫女神の没後、千年。ようやく現れた生まれ変わりである。膨大な霊力を持つ彼女は、己の身を護るためにこの学校に来たのだが、今、正にそう思ったのが間違いだったのかもしれないと思っていた。
「オマエさぁ、呪力無いのによくココ来たね。どーすんの?視えなくて。俺、オマエのこと絶対守らねーよ?」
「………」
「悟。その辺にしときなよ。この子にも事情があるんだろう。じゃないと呪力も無いのに呪術高専になんて編入して来ないだろ」
「クズどもー、もう止めとかないと後悔するぞー」
「……ってない」
「あ"?」
「視えないなんて言ってない。それに貴方に守って欲しいとも言ってない」
「ブッフォ」
「あ"ぁ?上等だコラ」
「そういう力で捩じ伏せるやり方は良くないと思う」
「それは私も同意見だね」
「傑。退け」
「悟。もう止めておいた方が身のためじゃないか?」
授業の合間で初対面の白髪黒サングラスの長身のクラスメイトに吹っかけられた言葉。最初は無視をしようと思っていた藍も、彼の言動の悪さに黙ってられず、つい反論してしまったのだ。売り言葉に買い言葉。思わず出た言葉に逆上した五条は今にも殴り掛かりそうな勢いでその場から立ち上がったとほぼ同時に、教室のドアが開く。
「……悟は何をやってるんだ?」
「別に何も?」
担任である夜蛾の気配を感じたのか、五条は凄まじいスピードで着席し気怠そうに答えた。何もしていないと主張する五条を怪訝そうに夜蛾は見つめながら、これからの任務について話し出した。
「それ俺ら行く必要ある?」
「悟。話はちゃんと最後まで聞かないと」
「聞くまでもねー」
「その場所に行ってどのくらい経つんですか?」
「2日だ。一切連絡も取れない。そこで、だ。お前たち様子を見て来い」
「ほら、聞くまでもねーじゃん。冥さん一緒なんだろ?」
「悟。あの人が一緒なのに、と考えたらどうだい?」
「……………よし、行くか」
「ちょっ待て。今回は藍も含めて二年全員で行くようにとのことだ」
「は?」
「先生。呪力のない彼女を呪霊の屋敷に同行させるのは危険じゃないかい?さっきもそれで悟は彼女に食って掛かってたしね」
「オイ、言うんじゃねーよ」
「その点は大丈夫だ。問題ない。一時間後に補助監督が到着する。準備しておけ。じゃあ、以上!」
五条は夜蛾が教室を出た後も暫くの間、いつもしているサングラスを外し藍をジッと視ていた。吸い込まれそうなほど透き通った綺麗な瞳は様々な情報を目視しただけて分かるという特殊な眼であるという。聞いていたけど、ここまで綺麗だったとは。六眼でも絶対に分からないって言ってたが、本当にバレないんだろうかと藍は少し不安になってきていた。
「………オマエさ、自分に術かなんか使ってる?」
「え?」
「悟?紫藤さんがどうかしたのかい?」
「いや、何でもない。行こう」
表情一つ変えずに答えた藍だったが、本当はバレたのではないかと心臓がバクバクだった。恐るべし六眼。いや、違う。違和感があったということは、この術が不完全だということだ。もっと精度を上げなくてはいけない、と先を行く三人の後ろを歩きながら藍は考えていた。そして、その数時間後。任務先である屋敷に到着した。
「この屋敷のようだね」
「二人は?」
「この結界の中。んじゃ、一丁やりますかー」
「…待って!結界が動いてる」
「は?オマエ視えんの?」
「視えてる。もしこの結界を破って何かするつもりなら中の二人が固まってる時じゃないと」
「それなら君が合図してくれないか?その合図で私と悟が二人を救出。いいね、悟」
「へいへい」
側から見ても決して承諾したという顔はしていない五条だが、藍の合図に合わせ、結界ごと突き破り屋根を破壊した。屋根が崩れるのと同時に中から飛び出してきた術師は五条の近くに着地した。
「助けにきたよ〜、歌姫。泣いてる?」
「泣いてねえよ!敬語!!!」
「泣いたら慰めてくれるかな?是非お願いしたいね」
「冥さんは泣かないでしょ。強いもん」
「フフフ、そう?ところであの子は」
「五条!!私はね助けなんか−」
助けなんかいらない。そう言おうとしたのだろう。言いかけた言葉は夏油が操る呪霊の出現によってかき消されてしまったようだ。
「悟。弱い者イジメはよくないよ」
「弱い奴イジメるバカがどこにいんだよ」
「君の方がナチュラルに煽っているよ、夏油君」
「あ"」
「うぬぬぬぬ」
「歌姫センパ〜イ。無事ですか〜?」
「硝子!」
「心配したんですよ、2日も連絡なかったから」
「アンタはあの2人みたいになっちゃ駄目よ!」
「あはは、なりませんよ。あんなクズ共」
五条、夏油に向けて放たれたクズという言葉。ほんの数日しか共に過ごしていないが、藍にはその言葉の意味が凄くよく分かる。特に五条悟はその言葉通りの言動を取る男だ。呪霊の結界によって時間にズレが生じていたから連絡が取れなかったと分かり安堵する間もなく、帳は?という言葉に藍以外の三人から笑顔が消えたのだった。