あの襲撃事件以降、五条は何かと藍に絡むようになり、昼夜問わずにやってくる五条のしつこさに嫌気が差していた。

「また悟から逃げてるのかい?」
「面白がってないで五条くんを止めて」
「私が話したところで悟は止められないよ」
「海外に任務とかにならないかな」
「いつかはあると思うけど、今じゃないだろうね」

五条から遠ざかるように校舎を出ると、黄昏れているように見える夏油を見つけた藍は吸い込まれるように隣に座った。そして、ふと思いつく。夏油を盾にすれば見つからないのでは、と。

「すぐに見つかるさ」
「夏油くんで見えてないから大丈夫よ」

自分には呪力が無いから幾ら六眼でも180を超えていて、尚且つガタイの良い夏油の後ろに隠れていれば見つかる筈なんて無いと言い切った藍は息を潜め五条が通り過ぎるのを待つ。そして夏油の宣言通り最も簡単に見たかったのだった。

「オマエさ、それで隠れてるつもりかよ」
「………」
「ほら、言った通りすぐに見つかっただろ?」
「夏油くん教えたんでしょ」
「私が?まさか。悟に居場所を教えたのは君だよ」
「……んぇ?」
「気付いてないみたいだね。少し前から呪力とは違う"何か"を纏っているよ」
「!??!」
「言うんじゃねーよ」
「悟に追いかけられるの嫌がってるみたいだし、その力のせいで必ず見つかる事を教えてあげないと」

夏油の言う "何か" とは巫女神の霊力の事を指しているのだとすぐに分かった。ちゃんと隠せているはずなのにまさか上手く抑制出来ていないのでは無いだろうかと考えても二人がいるこの場で彼等を召集して確認する事なんて出来るわけがない。幸いにも二人は自分の頭上で口論に夢中になっている。チャンスとばかりに出来るだけ気配を消しながら藍は二人から距離を取りながらこの場を離れ、術が弱まっているのかを確認していた。

「弱くなってる?」
[御安心下さい。巫女神様の力はしっかり抑えられております]
「ならどうして」
[藍様御自身の霊力かと]
「……え、私の霊力とかあるの?」
[無かったら俺達はあんたに仕えてないっつーの]
菫蒼きんせい、貴方はいつになったら藍様に対しての言葉の使い方を改めるんですか]
[こんな事話してる場合じゃなくなったようだぜ]
[そのようですね]

二人が身構えたかと思えば、突然目の前が真っ暗になる。そして、不意に感じる何かに包まれている感覚に手を伸ばせばブニッと柔らかいような硬いような何とも言えない感触で思わずうえっと声が出てしまった。この物体が敵で私を攻撃してこようものなら琥珀こはく達がどうにかしてる頃だ。未だに包まれてるということはこの物体は敵では無いということである。そんなことを考えていると、急に視界が眩しくなり包まれていた何かから解放されたかと思えば目の前には大男が二人。

「………なんでオマエだけなんだよ!」
「ごめんね紫藤さん、大丈夫?」
「この子なに?」
「ああ、コイツは私の呪霊だよ」
「呪霊?夏油くんの!?え、呪霊?!」
「私の呪霊操縦で取り込んだ呪霊さ」
「呪霊操縦?呪霊を取り込む?」
「オイ。傑のことはどーでもいいんだよ。さっきまでオマエと話してた野郎共はどこ行った」
「どうやら紫藤さんを包み込む寸前で消えたみたいだね」

五条だけなら適当な事を言ってこの場を掻い潜る事が出来たかもしれない。けど、今、目の前には到底誤魔化せるような相手では無い夏油傑が居る。どうしようか迷っていると、姿を消したはずの琥珀が藍を護るような形で目の前に立っていた。

[あまり我が主を困らせないで頂けますか]
「琥珀?!なん、で」
[コイツらのやり方に我慢ならなかったんだろ?]
[言葉を慎みなさい菫蒼。それに貴方は出てくるなとあれほど言ったじゃありませんか]
[言ってたけど、俺は了承してない。それに、俺もコイツには我慢ならなかったし]
「あ"ァ?」

正に火に油を注ぐとはこの事だろう。菫蒼は態と癇に障るような言葉を五条に向けて言い放った。案の定、今にも術式を使いそうな勢いな五条を夏油が諭し、菫蒼は琥珀の怒りを含んだ圧で静かになっていた。

[藍様、我々の勝手を御許し下さい。菫蒼の言葉通り、御二方の言動が目に余ってしまいこの様な事態に]
「ううん、大丈夫よ。二人とも来てくれてありがとう。でもいいの?まだその時じゃないって」
[問題御座いません。後はこの琥珀にお任せ下さいませ]

自分で説明するよりも色々と把握している琥珀に任せた方が得策だと判断した藍は全てを琥珀に任せ、この場には居ない家入にも同じように知ってほしいからと場所を教室に変える。まだ自室には戻っていなかった家入は藍達が教室に入ってくるなり気怠そうにおかえりーと声を掛けた。

「んで?おまえらは何なの。呪霊でも式神でもねェよな」
[我らは藍様に仕える者で御座います。名は琥珀と申します。五条様の仰る通り我らは呪霊でも式神でも御座いません。藍様を御護りする守護霊とでも言いましょうか]
「コイツを護る?誰かに狙われてんのか?」
「五条からじゃん?」
「確かに悟からだね」
「はあ?狙ってねェよ!」

そして、紫藤家の娘には巫女の霊力が代々受け継がれてきた。もちろん藍にもその力が継承されており自分達はその力を持つ者に代々仕え、護ってきたのだと最低限の事実だけを琥珀は話した。

「という事です」
「………今の話し嘘じゃねェよな」
「不服なのかい?」
「ガキの頃、似たような話をどっかで見た気する」
「嘘か本当かなんて別にどうでもいいけどさ、藍には霊力が備わってるから呪力じゃない力を纏ってることに納得できんじゃないの?」
「硝子の言う通りだ」
「っていうか、五条は藍に興味ありすぎ。アンタ藍のこと好きなの?」
「ハ?んなわけねェだろ!!!!!!」
「ん〜〜〜、硝子。それはあり得るかもしれない」
「ないでしょ!ないない!あるわけないから!もう変なこと言わないで」
[ドンマイ]
「あ"?」
[やめなさい、菫蒼]

琥珀のあの話しに納得したのかこの日以降、五条から執拗に追いかけ回される事は無くなり良かったと心底安心していた藍に飛び込んできた到底受け入れ難い話しに今度は藍が五条を探し回る事になるのだった。