日和

鳥のなく声を遠くに聞きながら、縁側で日向ぼっこをしつつ、お茶と茶菓子を載せた盆を間に挟み、私は一言、

「きみ、疲れてる、でしょ」

そう零せば、目の前の彼はきょとんとした顔で、こちらを見ていた。

今、私は俗に言うお家デートなるものに来ていた。とはいっても、甘味を持ってきてお茶してお話するくらいなんだけれども。
私たちの休日が被るのは久々であったということもある。それでその、煉獄さんの家に来たわけなんだけれど、なんだか少し、お疲れ気味のようなのだ。
いつもであれば声が結構大きいのに、今日は声が抑えられてるのか小さいし、更には少しくたっとしてる。 立場上、連続で任務が入って片っ端から片付けることもあるので、そう疲れがどうしても溜まって、休む時に一気に押し寄せてくる時がやはりあったりするのだ。

「いや、そんなことは」
「いつも、より、声、覇気が、ない」
「ううむ……そういうつもりはなかったんだがなぁ」

ポリポリと頬を掻く彼に、千寿郎くんも心配してた、と言えば、よもや……と声を零した。
よもやと言いたいのはこっちもだよまったく。

「疲れてる、のなら、日をずらして、会いに、来るのに……」

こういう時はゆっくり寝て、疲れを癒した方がいいだろうに……
とりあえず、もし、あれなら日を改めた方がいいかなぁと思っていれば、煉獄さんが、しゅんっと捨てられた子犬のような目をしてこちらを見下ろしていた。

「疲れているからこそ、君に会いたいと思ったのだが……」

その言葉にえっ、と声が漏れた。
だ!!か!!ら!!そういうところだぞ煉獄杏寿郎ッ!!!
いきなりだからそういう爆弾をぶっ込んでくるのよくないと思うよ!!
思わずビシッと固まれば、雅風は嫌だったのか?と、眉を下げて言ってくるのでもう!!この人は!!本当に!!
なんでいつもは兄貴肌であれなのにこうなのかな!? いやでも彼のお父さんが奥さんにとってもでれでれしてた感じのあれだったし……そういう遺伝なのか!?

「別に、嫌、では、ない、ただ、せっかくなら、ちゃんと疲れ、を、取った方がいいと、思っただけで……」

君の体の心配をしているんだよわかれ!!!
体が資本なわけだし、それに、過労死って言葉があるんだからな!!君は働きすぎなんだよ!!もう!!
え?おまえがいうなって?今はいいんだよ!!

「そうか、心配をかけてしまったか……悟られてしまうとは、俺もまだまだということか」
「一応、君の、恋仲、ではあるんだから、わからな、かったら、問題、でしょ」
「うむ!一応ではないな!!」

そこ別に元気よくつっこまなくてもいいかな!
にしても、だとするなら、ここで帰るわけにも行かないんだよなぁ……
帰ったらすごい彼ショック受けるだろうし、とは言っても、寝てといって寝そうには……ないな、起きて話したいとか言うな絶対。
ううん、どうしたものか……疲れを取る……、ストレス発散…………と、考えて、ずっと前に聞いたことのある、一つの方法が頭に浮かんだ。
でもこれするとしたらけっこう、かなり恥ずかしくないか???いや、けどなぁ……

じーっと、彼のことを見ていれば、んんっ?と、小首を傾げられる。見開かれてる目は少しだけ瞼が下がってて、眠そうだ。若干、隈があるように見え、やはり、明らかに疲れが溜まっているように見受けられる。
ちょっとまって??これは早急に休ませる必要がやっぱりありますね!!!
……うん、そうだよ、癒すため、そう、これは治療行為だから!!!治療行為だから!!!
そう自分を納得させ、頷き、真ん中に置いておいた盆を少し避ける。床の上に座りなおし、彼の方に体を向け、はい、と、両腕を広げた。

「?」
「ほう、よう、つかれ、これなら、その……とれるから、」
「!!」

ビシりと音を立てて、今度は彼が固まった。

親しい人との抱擁というのは、三十秒間するだけで一日に溜まってしまったストレスを、三分の一程大きく発散してくれる。その行為を行う事で、幸福を感じるフェロモンが脳から分泌されるからだ。
だから、疲れが溜まった時やストレス発散にはこういう抱擁とかの行為がだいぶ効くのだとか。
実際それでストレス抱えて鬱になりかけの人とか治ったりした事例あるらしいからね……
まあ、それを今試そうとしようとしてるんだけれど……
君真顔怖いからやめろ!!吃驚したのは、その!分かってるから!!そんなじっと見てるんじゃァないよ!!
じわじわと自分の顔に熱がたまっていくのを感じ。ああもう!と、たまらず声を上げた。

「はやく、その、まつのは、はずかしい、から、きてほしい、の、だけれどっ、」
「……う、む!では遠慮なく!!」

固まっていた彼は、次には何故だか覚悟を決めたような表情で、こくりと頷き、すぐに、上から覆い被さるように、優しく腕を回してきた。ふわりと鼻孔を彼の匂いが掠めて、暖かな肌を隊服越しに感じ、羽織がふわりと舞って、私を隠すように包み込む。
目が回りそうになるのを耐えつつ、これは治療行為、治療行為、と心の中で唱え、ゆっくりと、彼の背中に手を回す。
首筋にもぞりと埋められた頭が動き、柔らかい髪の毛が肌をすった。

「ちょっと、擽った、い、よ、」
「、すまない」

そう謝る彼を下から見上げたら、その顔はうっすらと赤く染まり始めていました。初心か!
その表情が、可愛く思えてしまい、口元が緩みそうになるのを、慌てて隠すように、彼の胸元に、その、顔を埋めるように、……密着すれば、少し速鳴りになっている心音が伝わる。
ちょっとずつ、心音がおっきくなってきているのを感じ、段々と伝導するように、自分の音も、早くなっていく。

「ひぅっ」

背に回された腕に力が込められ、また、猫がすり寄るみたいに首元がすられる。擽ったさに肩が跳ねて、思わず目を瞑れば、すん、と匂いを嗅ぐような音が耳元から生々しく聞こえてきた。

「こ、ら、嗅ぐ、な、ばか」
「いや…これは仕方ないといおもうのだが……
それに、……こうしてると、雅風が言ったように、疲れが取れていくような、胸が暖かく、なっていくような気持ちになってな……もう少し、していたいのだが、……だめか?」

甘える様な、不安そうな声でぽそりと呟かれた。そんなふうに言われてしまえば、仕方ない、と言いざるおえないではないか。
はあ、と私は息をついて、背中を回した手でぽん、ぽん、と優しく一定のリズムで優しくたたく。

「……あまり、すらないで、くすぐたい、から、あと、大きな声は、だめ、」
「ああ……分かった」

その返事とともに、煉獄さんは、口を閉じた。暫く、ぽん、ぽん、と一定のリズムで叩き続けていれば、段々とぶっしりとした重みが私にかかる。おや?と思い、ゆっくりと、体を煉獄さんごと横にごろんと寝っ転がるように倒し、彼をしたから覗きみれば、先程まで見開かれていた目は閉じられ、すうすうと、規則的な呼吸音が彼から発せられた。

ーーー寝てる……

やはり、疲れが溜まっていたらしい。あっという間に寝落ちをした様子に、やれやれと肩をくすめた。起こさないように気をつけながら、私は、彼の胸元から顔の見えるところに這い上がり、柔い髪の毛に手を伸ばして、そっと、頭を撫でる。

「お疲れ様、それから……おやすみなさい、杏寿郎」

額に唇を落として、今度は私が彼を優しく抱き込んだ。
そして、次に目が覚めた時、慌てふためくだろう姿を想像しながら、私もそっと目を閉じた。

トップ