シンドロームにかかりましょう

それは本当に突然で、お昼上がりの蝶屋敷の縁側で、いつかの日と同じように、お団子を食べている時の事だった。


「好きです」


一瞬、時間が止まったようだった。は、と思わず零れたとでも言うような顔で、初心な少年が、恋慕の情を私に直球でぶつけてきたのだから。
その言葉を聞いた時、言った時の彼の表情を見た瞬間、ああ、失敗したな、と心の底から思った。
私は恋愛に疎くなく、逆に敏感な方だ。できる限り、自分に向けられるそいう感情の芽は摘むようにして来たし、無理ならば無視したり、からかい半分なことを言って無かったことにして来た。

そして、今日はたまたま、思わず溢れるように出てしまったのだろうその炭治郎の恋慕の情に、失敗したと思ったのだ。出てしまった言葉は戻らない。なにより、二人きりの、周りがこんなに鎮まってるこの状況で、聞いてないのはおかしいのだから。
度々、まさかな、と思うところがあり、うまくはぐらかしてきたというのに、なんで口に出して言ってしまったんだ。頭を抱えたいおもいになりながら、どう、言ったものか、と瞬時に考える。
私は彼の言葉を、そもそもの話、受け取る気は無いのだ。だって、歳だって肉体的には七つも離れているし、傷物だし、そんなものより同い年ぐらいの可愛い女の子の方がいいじゃないか。
恋愛の前に、私にはすべき事があるし、彼にも禰豆子ちゃんを元に戻すという大事なやりたい事がある。これから激化する戦いを考えると、彼の想い人に私がなってしまうのは大変いただけない。彼を最後に傷つける形で終わってしまうだろうから。
けれど、ここで断る事で今後に変に支障が出るのも考えものであるし……と、思考をめぐらせた私は、ひとつの決断に達した。


「そう……炭治郎のことは弟みたいで可愛くて好きだよ」


そう、微笑みながら返し、その告白を無かった事にしたのだ。
好きの枠組みにもたくさんのものがあるのだから、私がくっっそ鈍い振りをすれば、受け答えによっては告白とは言えず親愛のそれになる。


「いや!そうではなくて!俺は、雅風さんの事が、」
「大丈夫、大丈夫、わかってる、いいこ、いいこ」
「っ!」


弁解を図る炭治郎の言葉を遮り、よしよしと、その形のいい頭を撫でる。そして、スン、と鼻を動かした炭治郎は、びたりと動きをとめた。
そう、炭治郎は、“いい子”だから、分かってくれる。本当に、彼の言った言葉の意味が“わかっている”事を、匂いで理解してるはず。なんで私がわざとそんなふうに言ったのかも、同様に察してくれるだろう。それを証拠に、彼は一言も言葉を続けることが出来ないのだから。
狡い大人でごめんね、でも、こうした方がお互いのためだから、言ったことは、無かったことにしよう?
俯いてしまった彼に、少しだけ、申し訳ない思いになりつつ、空になった皿を持って立ち上がる。


「それじゃあね、炭治郎」


一言だけ声をかけて、その場から厨の方に向かおうと一歩踏み出し、もう一歩、行こうとした瞬間、ぐいっと、服の裾を引かれた。
え、ちょっと、なに??!と、思い、引いたであろう、炭治郎の方に振り返れば、俯いたまま、私の服の裾をぐっと力を込めて握りしめている所だった。膝の上で握っている拳も、見るだけで少し、震えるくらい、力が籠っているのがわかる。
無言を貫くの彼に、炭治郎?と、声をかけてみれば、勢いよくばっと顔を上げた。そして、あのっ!という、大きな声が廊下に響いた。


「俺、諦めませんから」


猛禽類が狙いを定めた様に、紅蓮を思い起こす双眸のギラギラとした眼光が、私を射止める。え、と声を出すまもなく、彼はすくっと立ち上がると私が手に持っていた皿をかっさらい、厨への道をスタスタと歩き出す。その背を見送りながら、よろよろと私は、また、先程まで座っていた縁側に腰をかける。

いや、ちょっと待って?????

あの子、諦めないって、言わなかった?え、意味、分かってくれたんじゃないの?
……いや、あれは分かってた。確実に理解してた。理解してた上での、あの発言かぁ……
はあーー、と、ため息を吐きつつ顔を手で覆う。


「しっぱい、した…………」


どうやら私はまた選択肢を間違えたらしい。
後ろに倒れ、まだ痛む背中を気にすることが出来ないほどの脱力感にかられ、今後のことを考え、頭が痛くなったのだった。



そして、その翌日から、炭治郎は昼夜問わず私を見つけると突撃をかましてくるようになりました!
私ほんとに舐めてました。この子、やばいくらいに頑固というか、粘り強い。雅風さん雅風さんと呼んできながら、カルガモよろしく引っ付いてくるのは大変可愛いらしいんだけど、その彼の内心を考えると、そうも言ってられなくなる。更には二人きりの時には砂糖をガムシロップで煮詰めたような声で好きです!と、笑いながら言ってくるのだからたまったものではない。その度に誤魔化してはぐらかす私の身にもなってくれ!!!お願いだから!!!
四日目くらいから告白については総スルーかましても、めげないで好きがゲシュタルト崩壊するくらいに言ってきてなんなの?なんなの???
そして本日で十日目、一週間以上経った現在……


寝入ってた私のベッドの上に乗り上げて、律儀に夜這にきました。と言ってくる彼はなんなんですか??
いや、確かにこの時代は夜這文化がまだ根付いてるのはしってたけどそんなのってある!?夜にくるなんて流石に予想外で、眠気が一気に飛んだけど思考が停止したからね?戸惑いながら起き上がったからね??ていうか君って純情ボーイだったよね?!なんでそんなこと出来んの!?
という、そんな私の思いなどつゆ知らず、彼は、なんでこんな時間に来たの、何で夜這いにきたの、と聞けば、もっと攻めるべきだと煉獄さん経由で宇髄さんという方から助言を頂きました!!と元気よく話していた。まさかの!?いや納得だけどなんでよりによってそこにいったんだ!!
頭を抱えた私に、彼は追い打ちをかけるように


「好きです、雅風さん」


そう、相変わらず照れ笑いをしつつ熱の篭った声で言ってきた。夜のしんとした個室には嫌なくらいに、それはよく響いき、私の耳に浸透する。
もう、もう、ほんとの、ほんとに、勘弁してぇ!!!!
そんなゲロ甘な告白私にしてこないでほかの可愛い女の子にしてくれ!!!なんで私なんだよ馬鹿じゃないのか!?人生棒に振るようなことしてるの分かってるぅ!?
ああああああああぁぁぁ!!もう、なんなのさもう!!しかも夜這いって求婚に来たって事なのこの子わかってるの!?わかってるね!!しってたよ!!
いいよ分かったよ根負けですね!話すぐらいならしようじゃァないか!というか、今の状況でどう追い出せばいいのかわからないってのもあるんだけどネ!!!直ぐにお断り入れるからネ!!!
そうして私は、色んな感情が入り交じったふっかい溜息を吐きつつ、こちらを未だにじーっと見てくる彼を見上げた。


「……炭治郎、ほんとに、飽きないね」
「!、はい!諦めないと決めたので!」
「なんでそんな、頑ななの?そもそも、きみ、言ってる意味わかってるの?」
「勿論わかってます。貴方とお付き合いをしたいです。」
「君をそういう目で見れないから、お断りします」
「断られるのを断ります!」


ごめんちょっと待って、お姉さん何言われたのか少しわかんない。え?断ったよね??
え???と困惑しているうちに、剣だこの出来た硬い手が、布団の上に置いていた、私の両手を包んできた。ひぇっ!?


「俺は諦めないと決めました。どんなに無視されようと断られようと、貴方が頷くまで何度だってお伝えします。好きです雅風さん、お慕い申し上げております。」


真正面で、熱を持った瞳で言われ、息詰まる。じんわりと顔が熱くなっていくのを感じて、あわてて顔を下に向け、絆されてしまいそうになっている自分に嫌になる。
やめて、やめて、お願いだから、そんな感情私に向けないで。そんな事受けられる資格なんてない、あるわけないんだから。君の[[rb:宝物 > 家族]]を見殺しにした私に。
空気が張りつめて、息をするのが苦しい。どうしよう、と考え、もう、こうなれば、骨が折れるけれどどうにか説得をするしかない、と思い、寝起きで少し掠れた音の出る喉をふるわせる。



「………………かりに、」
「はい」
「仮に付き合ったとして、君は何がしたいの?
私には、それの有用性が理解できない。生物本能の一種としてそういう感情が命の危機が多い場所で吊り橋効果としてでてしまうのはわかるけど、それを私に向けられても困る。非常に困る。
私にもし、そういう欲をぶつけたとしても、こんな貧相な体の何がいいのかも理解できない。ぶつけるとしても、同年代の可愛らしい女の子に向けるべきだ。私は君の言葉に一生頷くつもりはない、人生を棒に振るようなもの。考え直せ。
それに、今後の戦闘や禰豆子ちゃんの事を元に戻すのなら、そのことに集中しないとダメ、今はそんなことに現を抜かしている時ではないでしょ。」


一息にそう私が言うと、少しの間も開けないで、彼は一度私の手を包み込む力を強め、ぐいっと、布団から離れたそれを自分の方へと引っ張った。彼の胸元に飛び込むような形で倒れ、あわてて、胸元を押して離れようとするも、頭と、傷を気遣ってなのか腰の方に回された、力強い腕に阻止される。その腕は、体は、嫌な程に男の子、ではなくて、男性を感じさせるそれになっていた。鼻腔をくすぐる彼の匂いに、今までにない予想外の行動に、脳のキャパシティを超えそうになる。
手を着いた胸元からは、肌に直接触れてるんじゃないかと言うくらい、心臓の早い鼓動がして、耳飾りの布と少し擦れる音が耳に届く。


「こうやって、腕に閉じ込めたいです。抱きしめ合ったりして、声を聞いて、笑顔を見て、すぐそばに居たいです。雅風さんと、契りを交わしたい。」
「は、」
「ほかの女の人じゃ嫌なんです、棒に振ることなんてしません、雅風さんだからいいんです。」
「まって、」
「あなたの瞳が好きです、髪が好きです。伸びていくそれを見ていたい。髪をいじるのは得意なので、毎日でも髪を梳かして貴方のそれに触れていたい」
「まってったら!」


至近距離で、抱きしめられた状態で、耳元に囁かれる。炭治郎は次々とダムが決壊したかのように、激流のように溢れ出た仁愛を私にひとつ残らず注ぎ込もうとしている。まったをかけようと、いいえ待ちませんとまた口を開く。羞恥心で死にそうだ。
今の私は人様に見せられないくらいに、彼の情熱のせいで顔が驚く程に赤くなってる事だろう。炭治郎にも伝わってしまうのではないかという程に、心臓がばくばくと音を立て、早鳴りになり、密着したことによって上がった体温のせいで、じんわりとした汗をかく。


「禰豆子のことはちゃんと戻します、戻してみせます、そして、ちゃんとあなたの元にも帰ります」
「わたし、が、戻らなかった、ら?」
「いいえ、戻りますよ、雅風さんも、だって、あなたは優しい人だから、きっと、生きようとしてくれる」


優しいと聞いた時、さぁっと、血の気が引いたように、今までの熱が一気に下がっていくのを感じた。違う、違う、ちがう、ちがうっ!!


「私は、優しくなんてない」
「優しいですよ」
「わたしは、君の家族を、見殺しにした」


ひゅ、と、炭治郎の息を飲む音が聞こえ、力が緩んだのを感じ直ぐさま彼の胸元をドンッと、音がたつくらい強く押し、離れる。戸惑う彼は、赤みがかった瞳を揺らしながら私を映す。
本当はいつか言おうと思っていた。出来るなら、こんな形で言うだなんて嫌だったけれど、でも……


「……どういう、こと、ですか」
「鬼舞辻が、君の家が目的かも、しれないと、わたしはわかっていながら、藤の花の香と、香水しか渡さなかった。それだけしかしなかった。見張ることをすればよかった。でも、しなかった。君の家族を見殺しにしたのと同じなんだよ」
「!、あの時の人、雅風さんだったんですか」


目を見開いて驚く彼に、そうだよ、と頷く。


「私は優しくなんてない、ただ臆病者の、自己中心的な、浅はかなやつなだけ」


自分の都合のいい未来が欲しかった。自分の居場所が欲しかった。離れてもいたかった。救いたかった救えなかった。今後のことと言いながら、道筋を変えることを恐れた私は藤の花の香と香水を与えるだけ。
少し考えればわかる事だった。いや、分かってた。香は鬼を近づけにくくするけれど完璧ではないことを、自分はすぐに思いついた筈だ。でもそれをどこか無意識に無視していた。炭治郎の家族は禰豆子以外死ぬ運命であると、そうしなければ二人が鬼殺隊に入ってこないことを知っていたから。知っていたからそれだけ与えてエゴを満たすだけ満たして放置した。ああ、なんて度し難い。


「私は目を背けて君の家族を殺したのに加担したのも同じ、ただの人殺しなんだよ」
「違う!!」
「違わない!!」


気がつけば頬を涙が流れてた。溢れ出てくるそれは、狡いやつ、卑怯者と、わたしを責め立てているように思えた。私の出した大声か、涙か、それともその両方か、炭治郎は目を見張って、動きをとめた。


「もうやめて、おねがいだから……君の家族に顔向け出来ないような、狡い女に、そんなもの向けないでくれ。おねがいだから、もう、私の中に、入ってこないで……」


ああ、なんでこんなことになったのだろう、こんな事なら、炭治郎からすぐに離れてしまえばよかった。火傷の治療とかなんて、自分で出来るのだから、告白されたその次の日にでもどこかの藤の家にうつって、そこで療養すれば良かったのだ。ああすれば良かった、こうすれば良かったという後悔ばかりが頭の中を埋め尽くす。
泣き崩れた私は、その場でみっともなく蹲って、もう何も聞きたくなくて、目を閉じて両耳を塞いだ。




〇〇〇


ーーー心臓が、壊れてしまいそうな程の、後悔と、悲しみとの匂いだ


炭治郎は、胸が締め付けられるような、今にも自分も泣きたくなってしまうようなその香りに、酷くやるせない思いになった。
今思えば、彼女はいつも日向に咲いた花のような、暖かな陽射しの香りに巧妙に隠しては、その香りを、特に禰豆子と触れ合っている時に時々漂わせていた。それがなんなのか、今ようやっとわかった。
頑なに彼女が、好きだと言ったその時から、漂うようになってきた恋慕の甘い香りをなかったことにしていた理由がやっとわかった。


ーーーずっと、そんな思いを抱えていたのか


耳を塞ぎ蹲る雅風はピクリとも動かない。頼もしく凛として、優しげに微笑む姿はなく、ただ、か弱い少女の様な女性がそこに居る。
炭治郎はゆっくりと、布団の布を擦らせながら近づいた。綿の布で包むように優しく、彼女の髪を梳かすように撫で付け、雅風さん、と呼びかける。


「やっぱりあなたは“優しい人”だ」
「ずっと、思っていてくれたんですね、俺の家族のこと、忘れないでいてくれたんですね……」


ぽつぽつと、小石を水面に落とす様に、静まり返った室内に、言葉をこぼす。拾われるか分からないけれど、でも、それでも炭治郎は雅風に向けて、小石を落とす。


「あなたは人殺しではない」
「もう、いいんですよ、雅風さん、背負わなくても」


ぴくっと、彼女の手が動いた。


「あなたは十分、背負ってくれました。忘れないで、後悔をして、思ってくれた。それだけで十分なんです。」
「後からこうすれば良かった、こうすれば助けられたと思うのは俺も一緒です。ぬくぬくと布団で寝入った間に家族が惨い目にあっていた。そのまま帰っていればよかったと、何度も思いました。花子たちに連れて行ってと言われた時に、その我儘を聞いてやれば良かったと何度も悔やみました。」


その言葉に、やっと顔を上げた雅風は、泣き腫らした顔でふるふると頭を降った。そんな事ない、十分だなんて、一緒だなんて、そんな事ない!言葉に出されずとも、そう、言っているという事は、炭治郎にはすぐに理解できた。


「同じですよ、だから、もう、負い目を負わなくてもいいんです。それに、それに、俺の家族ならみんな、そう言うと思うから」


だから、いいんですよ、雅風さん


そういった炭治郎の言葉に、ぐっと、唇を噛んだ。拭いても拭いても、とまらない涙に、裾で擦る力が強くなる。彼女のその手を止めさせ、彼は、両頬を包み込み、親指で優しく拭った。潤んだ翠がかった藍色は、情けなくゆがめられている。
それを見て、ドキドキと早く鳴る鼓動を感じて、抱き締めてしまいたい思いに駆られて、ああ、愛おしいなぁと思ってしまうのは、いけない事なのだろうか。


「雅風さん、あなたを愛しています。どうか、俺の隣で笑ってください、一生をかけて大切にします」


これがきっと最後の告白。これがダメなら、もう一生、彼から雅風に愛を囁くことは無いだろう。
彼女は目を閉じて、瞼の裏で考える。本当にいいのかな、許されても、いいのかな、と。でも、次に目を開けた時見えた、炭治郎の優しくて、切ないその表情に心臓がきゅーんと締め付けられ、それに、もう、誤魔化しきれない程の恋慕の情が自分に積もっていたことを自覚してしまう。


ーーーこんなの、断れるわけがない


暖かな自分の頬を包む炭治郎の手に、雅風は自分の右手を重ね、そして、左手を炭治郎の頬に当てた。
手から伝わる熱は、なんだか、火傷しそうに暑く感じ、胸のところが酷くざわついた。


「すき」

「すき」

「好きよ、たんじろう」

「好き、愛してる」


泣きながら、花が綻ぶように雅風は微笑んだ。湧き水が湧くように、溢れ出した恋心。それは、甘く濃厚な、でも、堪らなく愛おしく感じてしまう香りになって、炭治郎に届く。
零れる涙は窓から入り込む、淡い月光できらきらと反射する。白い頬を紅色に染める彼女は間違いなく、恋する乙女だった。その姿に、堪らなくなって、炭治郎は、彼女を掻き抱いた。


「嬉しいです、ほんとに、」


感極まった、泣きそうに震えた声音で、彼は、嬉しいです、と、また言った。雅風は、ゆっくりと炭治郎の背中に腕をまわし、その温もりの、重なった胸元から伝わる鼓動の心地良さに、力が抜け、まぶたを閉じた。


ーーー本当に、優しい子だね、炭治郎






▽▽▽


起きると、炭治郎の寝顔が目の前にあった。どうやら、彼に抱きしめられて眠っているらしい。そして、眠る前の醜態を思い出して、のぼせそうなほどに顔が赤くなるのが自分でもわかった。
好きだと自覚すれば転がり落ちるだけとはよく言ったもので、なんかもう自分でも分からないくらいに感情の制御も何も出来なくなった。それでその、す、すきとかなんか恥ずかしいことを……ああああああああぁぁぁ誰か私を埋めてくださいお願いだから!!
あんな、そんな、ああああああああぁぁぁ!!!


「ん、」
「!」


私が百面相をしているうちに、もぞりと炭治郎が動き、呻いた。それに、体が緊張で固まる。待って、ほんとに待って??
ゆっくりと目を開けた彼は、私のことを目に収めると、まじまじと見てきて、すぐに、にっこりと笑って、おはようございます、雅風さんと声をかけてきた。
ひええ!あ、やめてまって、なんか色々おかしい。へんなの!鼓動がこう、不整脈おこしてるみたいになってるから!!
焦る私のことなどお構い無しに、彼は、腕に力を込めた。


「大切にしますから、覚悟してください」


その言葉に、ぱくぱくと、口を動かし、はいと消え入りそうな声で返事をする。クラクラするほどの熱を覚ますにはどうすればいいのか考えるが、炭治郎に白旗を上げた私は、ただ、この燃える様に熱くて、でも優しい恋慕の情にのまれるしかないのかなと諦めたのだった。

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