9-2
〇〇〇
先の戦闘から雅風が目覚めたことにより、緊急柱合会議を開く運びとなった。
産屋敷の館には既に、彼女以外の柱が集結し、御館様の前に座して向上を述べていた。その中で伊黒が、問題となっている彼女が来ていないことを指摘した。
「恐れ入りますが御館様、撃のやつはまだ来ていない様子ですが?」
「彼女なら直ぐにくるよ。何分、急な集合をかけてしまったうえに、取りに行く物があるからね」
産屋敷はそういうと、もう暗闇しか映さないであろう双眸を柔らかく細めた。
そして、彼の言うとおり、少しとしないうちに、襖が叩かれた。中に入ってきたのは、案の定、いつもの様に満州服の様な隊服を着た雅風だった。
けれど、誰もがその姿に目を見開いた。あの、長かった髪が、まるで少年の様に、すっぱりと切り揃えられていたからだ。
特に、その事に、煉獄と義勇は、肩を揺らしながら動揺していた。
「っ、その髪は……」
声をつまらせ、話しかけてくる煉獄を、気にしないで、とでも言うように、一度、目で制しながら、雅風はすたすたと中に入り、産屋敷の御前にて膝を着いた。そして、頭をたれながら、緊張を解すように、吐息をこぼす。
「この度は、報告、遅れてしまったこと、大変、申し訳、ありません。」
しんっと静りかえる室内に、水面に石を落とすかのように、産屋敷はゆっくりとした口調で、話しかける。
「いいんだよ、雅風、そんなことより、よく戻ってきてくれた……杏寿郎からは事のあらましを聞いてその件については報告をちゃんとしてもらったよ」
「はい」
「君が今から、何の話をしなくてはいけないか……わかっているね?」
「承知しています」
雅風の、重々しい口調に、じんわりと緊張が混ざっているのを柱達は肌で気がついた。一体何が語られるのか、誰かのごくり、と唾を飲む音がいやに室内に響いた。彼女は、布と畳が摺らせつつ、柱たちに顔を向けた。
「では、これより、今回私が行ったこと、鬼舞辻無惨が、求めてやまなかった、彼岸花に、ついての話をさせていただき、ます」
「!!!」
「例の“青い彼岸花”か!」
宇髄がそうハッとしたように声を出す。それに彼女は小さく頷くと、きゅっと一度目を閉じ、開き、また呼吸を整えて、何から話そうか、と思案しながら口を開く。
「まず、なんで、鬼舞辻が、彼岸花をほっしているかわかったかは……」
「煉獄からはお前が十二鬼月が発生した場所と柱の殉職した現場を照らし合わせて……と聞いたぞ」
「うん、そう、あってる」
「いつ、そんなものを作っていたんだ」
「私が、鬼殺隊へ入って、そのすぐ」
「そんな早くに調べていたのか」
驚く宇髄に、頷き、雅風は手の袖から折り畳まれた和紙の束を取り出す。それを開けば、日本地図の上に手書きで書かれたのであろう、古来の柱の殉職場、また、彼岸花の生息域が詳しく書かれていた。
細かい文字に、何度も書き足されたのか、色の違う墨が羅列し、また、それは何十枚にもなっており、途方も無い情報を集めていたことが理解出来る。
その場にいるそれぞれがその紙を手にし、雅風を見る。
「最初は、上弦の鬼、並びにその力を持つ、鬼達が、どんな場所に、現れるか……それを、調べるためだった」
「その結果、お前の言っていた彼岸花の生息域がより多かったと?」
「そう」
「だが、それだけでなぜ探していると断言出来る」
「私が、鬼に何度か拷問をして、鬼舞辻無惨について、その居所を説いた……と、いうこと、それは、知ってる、はず」
「それは初耳だが……お前の呼吸なら鬼を捉えて尋問するのにも適している」
「その際、鬼は、奇妙なことを、言ったの……花、花を、って、うわ言みたい、に、ね、」
「その結果お前は鬼舞辻無惨が花、つまりは鬼や柱の殉職が多かった彼岸花を探してると、そう結論づけたのか」
素早く答えた伊黒に、頷き、全て予想であり、確証はなかったけど、と、俯きがちに古紙を撫でる。
「でも、彼が“どんな彼岸花”を探しているのか、それはわからなかった。だから、さらに、調べた。そしたら、“青い色の花”のある場所にも、出没してるのがわかった。」
「それで、青い色の彼岸花を?」
「極論ではあったけれど、それが一番妥当だった。そして、その花は、いま現在、上弦の鬼を、鬼舞辻を、釣るのには一番いい餌だと、私はそう思った」
雅風のその言葉に、宇隨は怪訝そうな顔で、待てよ、と声をかける。それもそのはず、彼女の言うことには、彼等にとっておかしな点があったからだ。
「じゃあなんでお前はその青い彼岸花を持ってたんだ?本当にアイツ等が欲しがって、何千年とかかって探してたんなら、とっくに見つかっても可笑しくねぇのに、アイツ等はずっと探したままで、お前はそれを持っているなんて…………」
彼の言う言葉はもっともだった。それは、誰でも考えて、分かること。雅風は、その言葉に、最もだというように頷き、懐をゴソゴソと探り出した。
「宇髄のいうとおり、私は“本来”彼らの欲している花は持ってない。だから……作ったの」
「……………………は??」
「私が、青い色の彼岸花を作ったの」
呆ける様な顔をする宇髄をスルーしながら、彼女は、袖から小さな瓶を、一つの瓶を取り出した。その瓶に、煉獄は瞠目した。それは、“あの時に見た瓶”だったからだ。
とろりとした深い瑠璃色の液体の入ったそれには、底の方に黒いまあるい物がみえる。
雅風は、猗窩座にみせた時と同じように、瓶の蓋を空け、そのまま種に生命の波紋を流した。
そして、急速に成長したそれが、美しい“青い彼岸花”になるのを柱達は見ることとなった。
「わ、わわ!とっても綺麗な彼岸花ね!」
甘露寺は興奮した様子で、それを眺め、素敵素敵と声を上げた。それもそうだろう。本来存在するはずのない、真っ青な宝石の様な、海の底を思い浮かべる様な彼岸花が目の前にあるのだから。
「最初に言う。これは、鬼舞辻無惨が“本来求めている花”ではなく、私が作った“偽物の花”」
「あ゛ぁ゛?どういう事だよ」
「…………鬼舞辻が求めるような、特別な花じゃ、ない。何の変哲もない、そこら辺にある、白い彼岸花を
青色に染めただけの偽物」
「よもや、よもや、瑠璃色の液体は、そのためのものだったのか……よく考えついたものだ」
なるほどなぁと顎に指を添え、うむうむと頷く煉獄に、少しだけ、嬉しそうな、得意げな雰囲気を雅風は出したがそれは直ぐにしまい、コホン、と咳払いをして、話の続きをする。
「今回のことで、私が、上弦の鬼の目の前で、“青い彼岸花を咲かせる”事と、“私以外の柱が、隊士が、その事を知らなかった”という事実が必要だった」
「…………貴方以外は“青い彼岸花”の存在を認知していないとうことを鬼に見せつけることで、貴方しか、“貴方だけが、その花の在処を知らない”ものとした……ということですか?」
「うん、そう…………その点でいえば、煉獄はいい反応をしたと思ってる。そして、あの鬼も」
なにかに気がついたのであろうしのぶは、苦虫を噛み潰したような顔をして、雅風のことをじっと見つめた。それを目に映さぬように、彼女は目を伏せ、淡々とした口調で話を続ける。
「私は、やっぱり、鬼舞辻が、太陽を克服したいと願っていることが嫌でもわかった。上弦の参が太陽に感じていた恐怖は、他の鬼よりも酷かった。
恐らく、力をつけるほどに、鬼舞辻の細胞が身体の中に蓄積されて、彼との繋がりが、より強固になり、感情が伝染、していたから…………
でも、それが好都合…………だって、彼にも青い花を咲かせるのを、“見せることが出来た”。」
「まさかっ!、君は、全てを察した上で、自分を、自分自身を餌にする為に、わざとあんなことをしたというのか!!?」
目をカッと見開いた煉獄は、声を荒らげ、雅風に詰寄る勢いで怒声を浴びせた。周りは温和な煉獄の怒りに目をむくが、それを聞きながらも、ただ淡々と、彼女は一言────────
「必要な事だったから」
と、温度を感じさせない無機質な声で平然と言ってのけた。そして、そのまま、彼の言葉をなかったものだったかのように、話を続ける。
「私は、それが今彼らを引き摺り出す一番だと思った。
長年探していた、花を知る者、咲かせるものが、現れたかもしれない。偽物だとも、疑う事は勿論する。
でも、彼等は、私を捕まえて、情報を聞き出さなくてはいけない。聞き出さざるおえない。」
「ですが、貴方のあの状態を考えれば、死んでいると仮定している可能性が高いはずでは?」
「確かに、鬼が最後に見た私は、一般的に見れば、助からないけれど、私は死なない。その事を、何となく彼も知っている。私の波紋をきっと“鬼を通してみてた”から……」
「お前の使っている陽の呼吸は確かにあらゆる怪我さえ治してしまう。だが、だとしても生きているとそう思うか?」
「鬼舞辻無惨なら、私が死んでないと、そう推測するはず。そのために、私は───────御館様の命を受け、あらゆる隊士の怪我を癒し、自分のことさえも鬼の目の前で治してきた」
「……!、雅風……テメェ、そこまで測ってたってことか」
「ど、どういうことなの?宇髄さん?」
戸惑う甘露寺に、雅風へ厳しい目を向ける宇髄。それと同時に理解したのか、しのぶは今にも彼女を殴りたい気持ちにも駆られる。
そう、これは何年も積み上げてきた彼女の計画。御館様さえも巻き込んだ、一世一代の大舞台。
ふふっと、雅風が声を上げて笑う。くすくすと、上弦の鬼にしたのとはまた別の、狂気の渦巻くそれに気圧されるように、いちばんの新入りの柱である甘露寺は、冷や汗を流した。
「私は、この呼吸法のおかげで誰よりも成長が遅れている。そう、説明したよね?
変わらない外見に、どんな怪我でも、大きな欠損がなければ治る身体。
それって───────不老不死、そんな存在に見えたりしない?」
「それは、雅風……お前が、鬼と同じものに見えるようにした……そう言っているのか」
「違う。私は、鬼舞辻無惨にとっての、完璧な存在───────日を浴びることのできる不老不死の人間。生物と思われるようにした」
実際、はたから見たらそうだろう。鬼殺隊に入ってからも変わらぬ身体。どんな傷も治す力。鬼の毒は雅風の陽の呼吸によって無効化され、今迄で何人の人間を治してきたのか。その詳細は御館様しか記憶していないだろう。
「鬼舞辻無惨の求めるものは太陽の克服。つまりは不死になること。なら、私が生きていることを知れば直ぐに、
きっと、捕まえに来る、血眼になって、なりふり構わず……
それが偽物の不老不死と知らないで……」
「が、雅風ちゃん……?」
戸惑う甘露寺を気にせず、雅風は、震え、そして自分の身体を抱き締めるようにして、普段の冷静な彼女からは考えられない圧を、そして、強く光る眼差しを柱達はみる。
「ずっと待ってた……この時を!っ、あいつを引きずり出す、この時をっ!!
無様に私を探すがいい!!醜態を晒すがいい!!
偽物の不死はここにある!一番恐怖している陽の光その物がここにあるっ!
ざまあみろ鬼舞辻無惨!!これ以上アイツの好きにさせてなるものか!!これ以上死者を増やしてなるものか!!
はあ、はあ、と肩で息をして、心の底からの叫びを上げる。ずっとずっと彼女は我慢していたのだ。鬼舞辻を炙り出すその時を。無様に自分を探すその姿を。
そして、それが偽物の花であると知った時のヤツの反応を。
誰よりも隊士の死ぬ姿を見て、自分の力で助けられない人を抱きしめ、治す力があろうと直せない無力感に陥って、尚、雅風は執念深く待っていた。
自分の力で翻弄される奴らの姿を。
いつもと違う、怒りを顕にし、そして、憤怒で燃ゆるその瞳に、眼光に、しのぶや冨岡さえ、言葉を発せずにいた。
柱達それぞれ、背に抱えているものがある。それを滅多に露わにすることが特になかった存在が今、正に己の悲鳴を、背負ってきたものを晒したのだ。
ふう、と、そう息をして、雅風はいつもと同じ、無感情な表情を浮かべた。
そして、御館様に声を荒らげたことを謝罪し、すっと、柱たちに向き合う。
「……以上が、私が先の戦闘で、……今回、してきたこと。質問、ある?」
先程の叫びも何も無かったかのように、平然とした態度で、落ち着いた声で話す彼女へ、一番最初に堰を切ったのは不死川だった。
「おい、撃。そもそもなんでその青い彼岸花を鬼舞辻たちは探している?」
「それは、憶測だけれど、青い彼岸花は……恐らくは最初の原点、鬼となったきっかけ。、太陽を克服する為に必要なもの」
「ええっと?つまり、どういうことなんですか??」
「鬼なる為に、必要な薬を作る材料」
「はぁ!?なんだそりゃあ!?」
その憶測に、素っ頓狂な声があがる。確かに、そんなものが存在するとは、誰も彼も思ったことは無いだろう。
けれど、彼女にはその事を確信している、“何か”がある事を、その場にいる全員が感覚的に察していた。雅風は、しのぶに視線を向け、確認するかのように話を振る。
「どんな薬の開発にも、その主体となる、元となるものは必要…不完全な薬作ってしまった場合にも…抗体を作るのなら尚更……そうでしょ?しのぶ」
「ええ、もし本当に鬼共が“太陽を克服する薬”なる物を作るとするなら、それが何より必須のはずです。
まさかそんな薬が存在するとは思えませんでしたが……」
「鬼を作っているのは鬼舞辻無惨の血液、いわば、彼という“細胞の病原体”、寄生虫、のようなもの……
でも、全く別の見方をすれば、それは、“どんな体でも強靭な肉体にし、不老になる妙薬”…………副作用はゴミ屑だけど」
「ごっ、」
思わず出てしまったのだろう悪たれ口に、ぎょっと目を向かれ、少し恥ずかしそうに、雅風はコホンと一つ咳払いをし、ごめん、話戻す、と空気を切りかえた。
「鬼が元々人だったのだというのなら、鬼舞辻も人であったはず。なら、なんで彼は鬼になったのか。
それはそうなるきっかけになった、体を変質させる薬があったから」
「その元となったのが、その花だと……」
「そういう、こと」
「考えてみれば、確かにその話は筋が通っているかもしれんが……」
「なるほどな……だからさっきの言葉だったわけだ」
「見た目だけとはいえ、不老不死の身体に、何をしても治る傷……隊の中でも異質と言われるお前が何を考えて言ったのか、考えたくもなかったが、理解出来る。撃、お前は自分を生き餌にして上弦の鬼共を引きずり出すつもりだな」
「気に食わねェが自分の継子も作らずその呼吸法を1人で扱ってたのはそのためだったわけだな」
「話をまとめれば、そういうこと」
こくりと頷いた雅風に、それぞれ考え、話し出す。
過去にも鬼が何故増えているのか、鬼を増やす理由はなんなのか。そんなことを彼女は話したことがあった。
眉唾とものだと馬鹿にする者もいた。が、人を食わないで、人を助ける鬼……“禰豆子”の存在や、今回の鬼の反応から太陽の克服という目的が、あながち間違いではないのではないか、という考えが柱達の意識に着実に、根付き始めてきたのだろう。
ざわつく柱達に、彼女は緊張を解すように汗をかいた手を握った。
そして、今まで静かに傍聴していた産屋敷が、小さな吐息を零した。それをきき、ぴたり、と部屋のざわめきは嘘のように静かになる。
「雅風、詳しい話をしてくれてありがとう。やはり、君は、そのやり方を、取ってしまったんだね……」
「独断で判断してしまい、申し訳ありません」
「いや、いいんだ……これで、確実に、鬼舞辻達が何らかの動きをせざるおえなくなったのだから」
そして、悲しげに、目を伏せつつ、産屋敷は、君にとって、とても険しい道を行く事になるのを許しておくれ……と、零すような音を響かせた。
「問題ありません。陽柱として、覚悟の上です」
「そうか…………」
「はい」
その時、部屋に入って初めて、雅風は柔らかな頬笑みを浮かべた。それは、彼女と共に戦ったことのある者にとっては、嫌な予感のするそれだった。
雅風は、向き直ると、ここからが本題だ、とばかりに、深呼吸をし、体の奥から、一筋の糸を慎重に紡ぎ出すかの如く口を開く。
「これから鬼舞辻……ひいては、上弦の鬼の動きが活発化する。
数ヶ月のうちに、確実に。
その際に、伊黒が言ったように、私が生き餌となって、鬼共を誘き寄せる。どんなに隠れていても、“極上の餌”が目の前にあれば、食いつかなくては行けないから。
そして、複数の柱との戦闘で、私を殺さずにそのまま連れ帰ることを優先すれば、それ相応の隙を与えられる。広範囲に被害が及ぶような能力があったりしても、その縛りで彼等は使えなくなる。」
「確かに、鬼は人を殺すことに長けてはいるが、手加減をして、殺さずに連れ去ることには慣れてはないだろうしな……」
「私はこれから常に陽の呼吸で高圧の陽の光そのものを身体に宿すつもりでいる。手足を切り落とされようと、簡単には私に直接触れることも難しい、そう思われる」
「刀がなくても触れれば鬼を絶命させる呼吸は、確かに鬼共には効くだろうなア」
「現に、煉獄さんはそれで致命傷になる傷を負いながらもその上弦の参とやりあえた訳ですからね。さらに、自爆的な行為ではありますが、あと少しのところまで追い詰めることも出来た」
「で、でも、そうしたら雅風ちゃん、大変なんじゃ……」
様々な声の中、甘露寺の心配する様な、おどおどした彼女に、問題ない、平気。と短く雅風は答えた。義勇やしのぶなど、難色を示すような顔色ではあったものの、それが最善であると理解しているのだろう。
それぞれ、思い思いのところはありながら、彼女の出した案を“了承”した。
その様子に、短く息を吐いた雅風は、御館様の方へ向き、1枚の真新しい、折り畳まれた紙を取り出した。
「それと、畏れ多いことではありますが、御館様にお願いが」
「なんだい?」
「私が表に出ていない今、奴らはまだ自力で彼岸花を探しているはず。もちろん私のことも。なので、比較的強い鬼がこれから出てくる可能性を考え、隊士たちには少なくとも甲を一人含む三人で隊編成をしてもらい、鬼の討伐をして欲しく思う。」
「はぁっ!?何甘っちょろいことを言ってやがんだ!!!」
その言葉に、不死川はいてもたってもいられないというように声を荒らげた。
今現在、鬼殺隊の人数は数百人に登るが、それでも人材は“いい”とはお世辞にも言えないものたちもいる。それを育てるためにはなによりも実戦経験を積ませることが1番だ。
更には、鬼は増え続け、人手不足になっている。
そんな中、隊編成をし、そして動かすというのならば、一人で片付けられる様な鬼を殺している間にも、他の鬼が力をつける確率をあげる可能性が高い。
「今の人材でまともに戦えねェ野郎どもが居る中、更に人員を縛って配置するたアどういう了見だ!」
「私がこの印をつけた場所は、私がまだ足を運びきれていない場所でもある。甲の隊士の班であれば生存率が上がり、また、連隊をとる事で確実に鬼を仕留めることが出来る。
それに、上弦の鬼の実力に匹敵する可能性のある鬼がいるかもしれない。
ならば、隊士同士で助け合い最悪逃げればその鬼の特徴、等を知ることができ、次の討伐に有意義な情報が手に入る」
「だからと敵前逃亡を許していい理由にはならねェ!!今の隊士の質が落ちてる上に逃亡後にその鬼が何人人間を食い殺すと思ってやがる!!」
「君の言うことも分かる。けど、人数が限られてるからこそ、今、隊士を死なせる訳には行かない。鬼が人を食べぬよう、隠たちに鬼の出現場所付近を警戒するようにいい、迅速に行動を起こさせればいい」
「だからテメェはあめえんだよ!!この隊服に袖を通したなら敵前逃亡など以ての外!!許されることじゃネェ!!隊士なら死を覚悟してる!!」
「だとしても情報を得ることで死者を減らすことができるはず。甲ともなれば脚も速く逃げ切れる。途中、鎹鴉を使い援軍を送り、対策の上で確実に仕留めてしまえば、死者だって減るはず」
「脚が早い?逃げ切れるだア?!それこそあめぇ考えだろうが!!撃!!テメェ侮辱するにも大概にしやがれ!!」
「対峙した自分たちより鬼が強いとわかった時点で引くべきだろう!!君の言ったように隊士の質が落ちていると言うならば新しい隊士を育てるより今いる隊士を死なせる訳にはいかない!!死ぬと確信したのなら一時撤退だって作戦のうちだ!!
何より死ぬのがわかったと思ったのならできるだけの情報を持ち帰り討伐のための作戦立案を検討して最前の状態で、」
「だからそれが容易く今の奴らに本当に出来ると思ってんのかぁ?!!テメェ見てぇに弱腰の隊士なんて鬼殺隊には要らねぇんだよ!!」
「これは生死の問題だ!!決してこれは弱腰だからでは無い!!これからの隊士のことを考えてのことだ!!」
「これからの隊士だア??!ならテメェは!!今迄逃げずに死んでいった隊士に向けてなんて言うつもりだア!!」
「彼らの死に無駄なんてものは無い!!そう考えたこともない!!けれど!!これから活発化していく鬼たちのことを考えればもう少し慎重にことを運ぶべきだと思って言っている!!」
「だとしてもそう簡単に隊士が鬼に対して逃げを選ぶと思ってんのかァ!!?巫山戯るな!!慎重に事を運ぶだア??!その前に鬼に逃がしてもらえるだなんて屈辱的なこと考えると思ってンのか!!!」
不死川のその言葉に、ひくりと雅風は口元を引き攣らせた。
そして、キッと目尻を険しく釣りあげ、彼を睨みつけた。普段、滅多に声を荒らげることなく、淡々と物事を話す彼女がする、今までなかった攻撃的な反応に、その表情を見た者達は目を丸くした。
それは、不死川も例外ではなく、彼女の肌に刺すような怒気に息を飲んだ。
確かに、不死川の言い分は最もだ。隊士にとって屈辱的な行動だと言わざるおえない。けれど、今迄の死者とは比べ物にならないほどに、雅風という存在のせいで隊士が犠牲になる可能性がある。
屈辱的だろうと雅風は一人でも死者を減らす方に賭けたい。どんなことがあろうと、今の甲の隊士は少なくとも実力者が揃っている。ならば、尚更死を見過ごす訳にはいかない。自分の手に届く命には限りがある。
これからの鬼舞辻無惨の討伐の為にも、一人でも多くの呼吸の使い手が何よりも必要なのだから。
「敵わないとわかってるのに向かうのは自殺しに行くのと同じだ愚か者が!!」
「っ!?な、んだと!!」
バチバチと火花を散らしながら、睨み合う…………まさに一触即発の二人。今にも掴み合いの喧嘩に発展しそうである。殺気とも思える気迫に、嫌な緊張感が室内を包んだ。
そんな中、産屋敷は、すっと、人差し指を口元に指した。鶴の一声ならぬ御館様の人差し指。二人は一瞬で、ぱっと、目を逸らし、直ぐに産屋敷に弾かれた様にお辞儀をした。
「わかった、そのお願いは検討しておこう」
「なっ!!?何故ですか!御館様!」
「実弥の言うことももちろんわかる。丙以上の子供たちを失うのは、こちらの戦力的にも良くない。けれど、それは今から伸びしろのある子達にも言えること……」
「ーー!」
「だけどね、雅風、検討はするが、確実では無いことは覚えておきなさい。何分、人手不足なのは変わらないからね」
産屋敷の言葉に、悔しげに口を噤む不死川。それとは逆に、雅風は深々と頭を下げ、ご厚意痛みいります、と礼を述べた。
それに小さく頷き、さて、他に何かあるかい?と、柱達一人一人を見るかのように、部屋を見渡した。そして、声が上がらないのを確認すると、ひとつ頷き、
「本日の柱合会議をこれで終了とする。できることなら、誰も欠けることがないよう祈っているよ」
そうして、閉会を告げ、締めくくると、童子とともに、産屋敷は退出した。
彼が室内から出ていくと、直ぐに不死川は雅風に振り返ると、その胸倉を掴み上げ、引き摺るように顔を寄せた。その際に、背中が擦れ、ずきりとした痛みに雅風は顔を歪めつつも、何?、と見下ろしてくる彼を下から睨み上げた。
「俺は認めてないからな」
「君が認めなくても、御館様は検討してくれるから……」
「俺は、テメェの、そういう所が大嫌いなんだよっ!!!」
雅風の言葉に青筋を浮かべ、体を怒りで震わせた不死川は、ドンッと突き放すように、掴み上げていた手を離した。 まだ本調子でない雅風は衝撃で後ろに倒れ、尻もちをつく。
そして、その彼女に、舌打ちをすると、大股でその場を去ろうとする……が、それは雅風が畳に手を付き、不死川の脚……脛の部分に鋭い下段回し蹴りを食らわせ、転ばせることで阻止をした。
思わぬ反撃に、膝を着け、脛の響くような痛みに、何しやがるテメェ!!と声を荒らげる。
その声が響く中、ゆらりと立ち上がった雅風は、彼を見下ろすように近づくと、小さな手で頭を掴み、ポソりと呟いた。
「わたしも」
「……あ゛?」
逆光で目元が陰になり見えない中、ドスの効いた声でまた唸り声のようなそれを雅風に向けた。ぐっと、彼の頭を握る力が強まり、それを振り払おうとした時だった。
「わたしも、君のそのいちいち怒鳴るところや高圧的な態度が大っ嫌いだよ不死川実弥…………
それと、言いたくはなかったけど歳上には敬意を払いな糞ガキが」
「、」
を這うような声だった
そして、そこでやっと見えた彼女の表情は、まさに絶対零度といっていいものだった。その、あまりの豹変ぶりに、思わず声を出せなかった不死川は、状況が呑み込めないのか、??と頭に疑問符を浮かべ、困惑する。
その様子に、雅風はふん、と鼻を鳴らし、腹いせなのかなんなのか、不死川の頭をがしがしとかき混ぜ、最後にはペしりと間抜けな音をたてて叩き、ずかずかと早足に退出せんと足を動かす。
一部始終を見ていた周りのうち、しのぶが出る寸前で、雅風!、と声をかけた。ぴくりと肩を揺らし、彼女は振り返らずに
「先に帰る」
ただその一言を残し、その場を後にしたのだった。