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────────時は遡る

 ▽▽▽

 雷兄弟を見送った後、案の定、私はしのぶに怒られていた。
 夜に水の中で殆ど傷を治したのもバレ、朝に塗る薬はゴリッゴリっと音を立て、これでもかと言うほどに塗りこまれ、音のない悲鳴をあげれば自業自得です、と、しのぶに酷く冷たい声で言われ、涙目になる。
 だって痛いものは痛いんだもん。ありえないくらい痛いんだもん。

 「薬で直すとあれほど言っていたのに!」
 「うう、ごめんなさい。でもつい……早い方がいいかなって……」
 「雅風のそういう所本当に変わりませんね。全く、体力回復の訓練ももうできるでしょうが、貴方が絶対に無理するから、態々薬で直しつつ、無理のない程度に回復していこうと思っていたんですよ?」
 「わー、それは、初耳」
 「どの道、それを言ったら先程のようにそれなら万全な状態でやった方がいいと治すのが目に見えていたから言わなかったのに……」

 頭が痛いと額に手を当てるしのぶに、それは申し訳ない……とは思わないがなんかごめんなさいと、心の中で謝る。
 そして、もう仕方がないなあと、溜息を吐いた彼女はじっと私を見つめてきた。なんだろうか。

 「それにしても、なんであの二人を使いと言いつつ育手の元に送ったんですか?」
 「それは…」
 「それに、善逸くんに膝枕をして、獪岳くんには抱き枕にされたそうじゃないですか」
 「えっ」

 なんでその事を知っているの?!と思ったが、朝のあの善逸くんの大声では全て筒抜けになっても仕方ないこと。
 じーっと、私を見つめるしのぶの笑みは怖いもので、視線をそっとずらし、両手を膝の上に揃える。

 「2人には、自主鍛錬、付き合ってもらった、でしょ?で、眠れないらしかったから、それで……」
 「でも、膝枕や抱き枕になる必要ってないですよね?
 あなた、自分の年齢や外見分かっておいでですか?」
 「うっ、確かに、その通り……はしたない行為だった」
 「そうですよ、全く。結納を考えている殿方隣はいざ知れず、あの子たちは幼子でもないのですから添い寝も何もすることはありません。
 伊之助くんについては……まあ、考えなくもないですが」
 「伊之助はいいの?」
 「だって彼、性欲とかそういったもの何も知らないでしょうし、なにより、そういったことを知らないでしょうから……そもそも、膝枕だのなんだのを考えるような子ではないでしょうし」

 下心全くなしと判断した子はいいのか。そしてしのぶは伊之助のことをなんだと思っているんだろう。まあ、確かに否定はしないけども。

 「それに……なにか寝ずらいことがあって困れば、私の元に来ればいいでしょう。同性ですし、同じ布団で眠っても全くなんの問題もないんですから」
 「……じゃあ、何か、あったら、しのぶのお布団に、お邪魔する、ね」
 
 次からそうする、気をつける。と、言えば、ああ、もう、と、何故か少し恥ずかしそうに、しのぶは頬を少し赤らめた。
 あ、可愛いしのぶだ。そう思えば、彼女渾身のデコピンをくらい、頭が揺れた。

 「いっーーーーーっ、」

 額を押えて、あまりの痛さに涙目になる。これ、後でこぶになるんじゃないだろうか。可愛いと思っただけなのに、しのぶの照れ隠しが恐ろしすぎる。

 「はあ……もう、話を戻して、どうして彼等を送ったんですか」
 「それは、彼らの成長に、必要……そう、判断した、から」
 「成長、ですか」
 「そう、唯それだけ」

 じっと見つめられ、逸らさずに藤色の双眸を見つめ返せば、やれやれと彼女は肩を落とした。

 「……それだけと言うなら、それだけなんでしょうね。あんな無茶をやらかしたのも、それが理由なんでしょう?」
 「うん」
 「全く、本当に馬鹿なんですから」
 「言い返す言葉も、無い」

 不貞腐れた雰囲気のしのぶに、椅子から立ち上がりぎゅうっと抱きしめた。は、と声を出す彼女に、心配をかけたね、と小さく囁くように言えば、ぎゅうっと抱き締め返してくれた。

 「全くです。次やったら、私の特に怖い怪談百選を貴方に聞かせますからね」
 「それはやめて、ほんとうにやめて、しのぶの布団にずっといることになるらやめて」
 「……まあでも、今回無茶もされましたし、先に10選いっときます?」
 「ひっ!?」

 抱きしめてしまったのは失敗だった。恐ろしい笑みを浮かべたしのぶは、私をがっしりと捕まえ、ふふふ、と恐ろしくも可愛らしい声をこぼす。これは、本当に私に聞かせるときのしのぶである。
 冷や汗をかく私を他所に、しのぶは抱きしめあったその体制で話を開始しようとする。それを止めるすべは私にはなく、恐怖の怪談巡りが始まり、私はその日から暫くしのぶとしのぶの布団の世話になることになったのだった。




とっぷ