ルカリオに進化したのなら、お互いかくとうタイプが効果抜群になる。はっけいを一撃くらっただけでも危険だ。
急に体の、腕や足の長さが変わったなら動かす時には多少の誤差が出る。
それをどうカバーするかにかかってる。

さらに言えば、リオルの時に使えなかった技が増えるということ。
ならば、進化の時に必ず覚える“アレ”は使えるはずだ。

「ルカリオ!〈はどうだん〉を足元に向けて放って!」
「るおッ!!」

青い光の玉がシロナさんのルカリオ目掛けて飛んでいく。後ろに飛ぶように避けられたが、それでいい。
地面に衝突した〈はどうだん〉は爆発と同時に土煙を立てる。相手と、そして自分たちの視界が悪くなるがそれでいい。

「そのまま連続で〈はどうだん〉!!貴方なら相手が見えるずよ!」

波導で生き物を察知するなら、土煙の中のあの子も察知できるはず。
もちろんそれは相手も同義だが、〈はどうだん〉は生き物の放つそれが凝縮された気の塊。
視界を遮られたルカリオへの撹乱にはもってこいだ。
さらに言えば〈はどうだん〉は相手がわかっていれば必中の技。効果抜群でもあるので、これに対して必ずシロナさんは……

「ルカリオ!〈はっけい〉で全て打ち落としなさい!」

そう、そういう行動を起こしてくれるよね。
自分で〈はっけい〉しか使わないと縛りをかけていた。なら、シロナさんは本当にそれしか使わない。
〈はっけい〉は技を発動してから数秒保てるが、連続で来る〈はどうだん〉を落とすには数回使う必要がある。
ポケモンは連続で技が使える回数が限られている。それは、体にとてつもない負担がかかるからだ。
小さな体に未知のエネルギーを詰め込み、それを“技”として放射するのだから当たり前だろう。

ルカリオの〈はっけい〉が〈はどうだん〉を弾けさせ、衝撃波が起き、風が砂を巻き上げる。

「やられっぱなしは性にあわないの!ルカリオ一気に行くわよ!」

シロナさんの声がフィールドに響く。
さすがと言うべきか、それを聞いて直ぐにルカリオは動き出した。〈はどうだん〉を弾き落としつつ、それを飛んできたものに当て爆発を起こし、その爆風に紛れて懐に入り込んだ!

「きついのをお見舞させてあげなさい!〈はっけい〉!!!」
「ルカリオ〈はっけい〉で迎え撃って!!!」

咄嗟だったために威力は弱い。
急所を狙って打たれたそれの軌道を逸らしたが、技の強さに後方に飛ばされた。

「ルカリオ!ルカリオ大丈夫!?」
「ぐるるッ!」

呻き声のような声が上がる。体を庇ったのだろう腕は腫れてるように見える。
体力もギリギリで、あと技を放てたとしても1回ポッキリ。
きっと最後の一撃になる。
けれど、相手の手数を十分に減らせた。それだけでもすごい事だ。
顔をあげればシロナさんと目が合う。ニヒルに笑う彼女に、ああ、そうか、と私も口の端が上がっていく。

そう、どうせなら、心躍るような最後の一撃を。

「「ルカリオ!!!」」

お互いの声が重なる。
ルカリオ達は足に力を込め、地面にヒビを入れながらお互いの懐目掛けて跳んでいく。

「〈はっけい〉!!」「〈きしかいせい〉!!!」

肌に突き刺さるような激しい音を立て、技と技が、衝突し、爆風が巻き起こる。

ルカリオに進化した時、何が使えるのか、何が使えたのか、なんとなくだが理解ができていた。それは、ルカリオが私に伝えていてくれたから。
〈きしかいせい〉はHPが少ないほどに強力になる技だ。
シロナさんのルカリオ相手には一番有効な、もろに当てることが出来れば大ダメージが与えられる技。
だから、最後の切り札として、隠し玉として残しておいたのだ。


舞い上がった濃い砂煙に、ふたつの影が見える。
どきどきと、大きく鼓動がなる中、段々と煙が晴れていき、私の目に映ったのは────倒れるルカリオと、膝を着くシロナさんのルカリオだった。