風邪をひいてしまった。それも、40℃の高熱になるくらいの風邪である。
農園で水あげの際に、たまにあるポケモンたちの喧嘩が始まり(どちらかがぶつかって木の実を落としてダメにしたらしい)、仲裁のために入った瞬間両ポケモンから水でっぽうをくらい、「そういうことする子にはもうご飯作ってあげません」と、しばらくお説教したのがダメだったのか。
翌日には喉をガラガラにして崩れ落ちる私に、リオルは大変驚いたようでがうがう!?と、凄い声をかけられたが何を言ってるのかわかんなくて大丈夫大丈夫、ご飯今作るねーそしたら寝るねーといえば、いや、お前もう寝てろやとばかりにチリーンと共に連体をとられベッドに戻されてしまった。
なんてこった、君らいつの間にそんなに仲良くなったんだい。
暑いはずなのにどこか寒く感じて、じんわりとした汗と段々と強くなるがんがんと殴るような頭痛がして気持ち悪い。
あーー、と、チリーンに見張られながら、声を出せば小さな手をぺちりと額に当ててくれる。ひんやりして気持ちいいそれにありがとうといえば、チリーンはどういたしましてとでも言うように鳴き、次には〈いやしのすず〉を繰り出してきた。
ポケモンの状態異常を回復するその技。優しい音色に包まれて少しだけ頭痛が楽になったように感じられる。
こんな体験は初めてで、こういうのも人にきいたりするんだなぁと感心していれば、きいっと部屋の扉が開く。
そこにはフーディンが救急箱と、氷枕の袋、リオルが林檎とお水を持って来てくれた。
フーディンは前に治療した時からちょくちょくと遊びに来てくれる常連さんだ。
少し私に大丈夫?というように声をかけてくるフーディンに、大丈夫だよと返せば、ため息をはかれる。
なぜだ、フーディンよ……私はこんなにも元気だと言うのに……
その思考を読まれたのか、今までにない呆れ顔をしてきたリオルに解せぬとばかりに顔を向ければ、拗ねたようにそっぽを向かれる。
フーディンは、そんな光景を見つつ、サイコキネシスで私の上半身を起こさせ、人に使う風邪薬を見つけ出すと、それを渡してきた。
飲むにはなにか胃に入れてから、と、一応薬を受け取れば、その横でリオルは、まさかのアイアンクローで器用にリンゴを捌き、芯をぬくと私にそれを渡してきた。皮と身の間は栄養たっぷりなのでそのまま食べる派の私はありがたくそれを頂くことにする。
りんごを2切れ食べ、これ以上は食べれないからみんなで分けておたべと残りの6切れが乗ったお皿をリオルにわたし、風邪薬を飲み終えれば、ゆっくりと体が倒れる。
いつの間にかセットされていたらしい氷枕が頭の下にジャストフィット。フーディンさんの手腕よ……
覗き込んでくる三体に、ありがとうとお礼をいえば、いいから早く寝ろとばかりにチリーンの身体に目を覆われる。
そんなことをされれば、いつのまにかストンと私は眠りに落ちてしまった。
目を覚ました時、わたしはいつの間にやら聞きつけたらしいポケモンたちに囲まれていた。一緒にねいっていたらしいムックルやコリンク、ひんやりとした身体のヌオーは私の額に手を当ててくれて、ウパーが頭の上にいた。
床に寝転ぶスボミーやチェリンボたち、ミノムッチは天井にぶらさがってじいっとこちらを見ていて少し怖い。
チリーンは窓にくっついて心地よい音を響かせてくれていて、フーディンは直立にたったまま目を瞑っている。
極めつけは、リオルが私の手を握りながら、ベッドの少し空いた壁側のスペースで眠っている事だった。
私から触れることは一応できたが、こんな風に、自分から触れてくれることは初めてのことで、驚きと、そして嬉しさでわあ、と声を上げそうになった。
感情の揺れに気がついたのか、ピクリと耳を揺らしたリオルは眠たそうに目を擦りながらこちらを見てくる。
その姿が可愛くて口パクで『おはよう』と、いえば、ぱちぱちと瞬いたリオルは、次にはだばっとなぜだか涙を零し始めた。え゛??と、私は肩を揺らして驚きながら、ちょっとリオルさんと、ヌオー達を起こすことになるが止むを得んと起き上がり、声を上げて泣き出したその子の手を引いて腕の中に閉じ込めた。
とんとんと背中を叩きつつあやせば、ぎゅっと幼い子供のようにその子は私の寝間着をつかみ、ハグをしてくる。
「なんだなんだ、怖い夢でも見たのかい?」
私の問いかけにぶるぶると頭を肩にこすりつようにふる。ううん、もしかて……
「みんなの心配が君に伝わってしまったのかな?みんなは案外心配症だからね、不安にさせて悪かったよ。ほら、熱もだいぶひいたんだ。君たちが看病してくれたおかげさ。
だから、怖いことも何も無いから、ゆっくりおやすみよ。心配することは何もないからさ」
私の熱が落ち着いたらみんなでカレーを食べよう。そうだな、次は君が好きな具材を選ぶといい。毎回私が決める時以外は争奪戦になって大変なんだ。この間なんてドンカラスとロズレイドが甘いリンゴか酸っぱいリンゴかで争って……と、そんな風に、楽しかった時の話をすれば、泣いていたリオルはいつの間にかなきやみ、喉を鳴らしながら笑い声をこぼしていた。
他の子も寝っ転がりながら聞いていたのか、どこか身体がふるふると震えている子や、耐えきれずぷっと声を漏らす子がいて、隣にいたムックルにちょっとはたえなよとばかりに羽でちょんちょんされている。あらやだかわいい。
だが空気を読んで寝た振りに徹するこの子達順応性高くないだろうか。君らはポケウッドの役者かなにかか。そういえばロズレイドは私がテレビでそれを見た時に熱心に見てたな。考えるのはやめよう。
よしよしとリオルの頭を撫でていれば、次第に視界の隅で黒いものがゆらゆらと揺れているのが見える。
それはリオルのしっぽで、あらヤダこの子めちゃくちゃ喜んでるじゃないですかーっ!!と、嬉しさで心の中でマイムマイムを踊れば、それに気がついたらしいリオルに肉球スタンプを食らう。香ばしいい匂いがしますね。
けれど、ごめんよーと、左手でよしよしと撫でれば、つぎにはしょんもりと耳としっぽをおろす。え?なして???
どうしたの、という前に、リオルの視線が私の腕の包帯に向いていることに気がつき、あーーー、と合点がいった。
この傷のことを、この子はもしかしてずっと気にしていたのだろうか。
がう、と左手を両手で握りだしたこの子は、ごめんなさいとまるで言っているようだ。
「リオル、このくらいの傷なら気にしなくてもいいんだよ。」
「がう……」
「傷つけられて、怖いと感じるのは当たり前なんだ。それはあの傷の酷さを見れば、人が信用出来なくなるくらいのものだと分かるよ。」
「……」
「なのに、君は今こうして心配して私の手を握るまでに信用してくれてる。あの時二激目を入れずにいたのは、それは君がとても優しいからできることなんだ。
私だったらなんだコラー!ここどこだおらー!って家中暴れ回って大騒ぎしてるもん。」
「がうう」
こくりと頷くリオルや、リオルから向こうにいるポケモンたちがうんうんと頷くのがみえる。いや、そこは否定してくる所やないの?てかみんな揃いすぎだわ。
じわじわとわらいが込み上げてきて、ふふ、と声をこぼす。それに不思議そうにするリオルに、だからさ、と、言いながらぎゅっと小さな体を抱きしめる。
「ありがとう、リオル。私を信じてくれて。この傷は君と会えた証のようなものだよ。傷はブリーダーの勲章なんてね。だから、わたしは君にこの傷をつけられたことは気にしていないよ。後から聞くのってとっても勇気がいると思う。だから君はすごいよ、すごくて、とっても優しいいい子だ。」
ありがとう、そう続けながらまた背中をとんとんと叩いたりすれば、堰を切ったように声を上げて泣き始めた。ぎゅっと私の腕に抱き着きながら、鳴き声をあげるその子をあやす。
そして、泣き終える頃には人間の赤ん坊のように幼い顔をしたその子はすやすやと眠りに落ちていた。腕を抜くのは嫌がるので、そのままにさせながら、私も横になろうか、と、フーディンを見る。
今までサイコキネシスで楽なように上半身を支えていてくれたのだ。
口パクでお礼をいえばふるふるとスプーンを振られる。ゆっくりと身体が倒れ、横向きになりつつ、リオルにも布団を掛ければ、首後ろにウパーががよりかかり、程よい冷たさが伝わってくる。
ああ、これは風邪が治ったら、そしたらみんなにはたくさんなにか食べさせたいな。ポフレというカロスのお菓子はどうだろうか。みんなお菓子は大好きだから、きっと気に入ってくれるかな。
遊ぶのが好きな子も多いから、なにかブランコのようなものを作ってあげたい。ロズレイド達に少しお願いすれば手伝ってくれるだろうか。
わくわくと、想像するだけで心が踊る。ああ、早く治したいな。治るといいな。そんなことを思いながら、わたしは眠りにつき、気合と根性翌日には完治させたのだった。
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