リオルが怒って飛び出してから、一応家に用意している部屋には帰ってきてるが、私に顔を合わせることが少なくなった。
顔がぱっとあった瞬間にばっとそらされたり、私が近づいた瞬間に林に逃げ込んだり。
あーー、これは大分やっちゃったかなぁ?と、流石に心にダメージが来てうっと胸を抑えれば、チリーンに自業自得だバカめとばかりに頭突きされた。酷い。
けれど見るに見兼ねてというか、チリーンは仕方ないなと、私の腕に巻き付きながら、くいくいと引っ張って、家の中に引きこもろうとした私に窓際から外を見ろとジェスチャーしてきたのだ。
窓からは私やポケモンたちが作ったバトル用のフィールドがある。なぜこんな物があるのかといえば、ポケモン達が元来バトルが好きということがあり、それについて偶に観察をするためにも自由に使っていいよと整備したのだ。
だから、毎日昼頃には何かしら衝突音や爆発音がし、誰かバトルしてるなーーと、 思っていた。

そんなバトルフィールドに何があるのか、こっそり覗き見るように窓からは少しだけ顔を出せば、そこにはドンカラスとリオルが戦っている姿があり、野次馬ならぬ野次ポケにはいつも遊びに来ているポケモンたちがいて、審判には何故かフーディンが立っていた。

「チリーンこれは?」
「ちりーん」

小さい手で見てみなよ、とリオルを指さす。
ドンカラスはリオルに効果抜群の〈つばさでうつ〉を放っていた。多少は手加減されているのだろうそれは、ギリギリで避けるリオルにじわじわとダメージを与えている。
あのドンカラスはここらのヤミカラスを仕切るドンの様なものだ。羽を怪我して落ちていたところを治療し、恩返しかなんなのか、時折光り物を持ってきては、木の実をつまんでいく子で、たまに悪戯をするやんちゃな子だ。
ロズレイドが進化するきっかけを作ったのもドンカラスで、持ってきていた光り物の中にロゼリアの進化に必要な石が入っていて、触れた瞬間進化したんだっけな。

そんなドンカラスは、見たところ、レベル差を考えギリギリ、リオルがよけられるスピードで効果抜群の技だけを放っているようだ。

野次ポケがリオルに向かって何かを叫ぶようにいい、リオルはがうう!と空に向かって咆哮する。
ドンカラスが一直線にリオルに向かう。そして、それにリオルの手が技を発動しようと手に力を込める。それは、驚くことに〈はっけい〉をするために貯めていた力だったらしい。
ドンカラスの攻撃が当たる瞬間、同時に技を放つ。
衝突音が響き、土煙が上がり、上からの力や勢いが強かったためか、踏ん切りが足りず、リオルの小さな体が後に吹っ飛んだ。

思わず窓から身を乗り出してリオルの名前を呼ぼうとすれば、それをチリーンにとめられた。
なんでと思いつつ、でも確かにバトルに水をさすかもしれないと口をつぐみ、彼らの様子を見れば、ひっくり返ったリオルが次にはぶるるると頭を降って、がうがうと何やらドンカラスに話しかけているところだった。
ケラケラと笑うドンカラスは、羽先でリオルをつつき、またひっくり返す。それに文句を言いながら、リオルは羽を叩き落とすと、いつの間にか近づいて、オレンのみを持って来てくれたナゾノクサにお礼を言い、それを食べる。
まさかの一口でいったリオルはもぐもぐと口を動かし、ゴクリと飲み込むと立ち上がり、もう1戦!!とばかりにぴょんと跳ねた。
それと同時にいいぞやれやれと空に向かって水鉄砲を打つブイゼルたちが騒ぎ立てる。

元気な姿にほっとしつつ、座り込めば頭に乗ったチリーンがくいくいと髪の毛を引っ張って、頭の上でチリンチリン鈴がなった。
はいはいもう、分かってますよーーー。

「こんなに楽しそうにしてるのに、引き裂くような真似は出来ないよね……」

故郷がいいなんて私のただの押しつけだ。

反省しますとチリーンに両手を合わせれば、よろしいとばかりに〈いやしのすず〉が鳴り響く。
リオルにどう謝ろうかな、と考えつつ、今出ていくのは違うだろうと、私はチリーンとともに自室に戻ったのだった。
そして、その直後、まさかのシロナさんからの今から行くねコールが1時間前にあったことを知るのだった。