「「あっ」」

病院からの帰り道、出会ってしまった黄色い人。改め、黄瀬涼太。

「え〜と、あの、」
「黄瀬くん、よかったら少しお話できないかな?」
「...!はいっス!」

訪れたのは近くの小さな喫茶店。
店主さんからお好きな席にどうぞと言われたので窓やドアから離れた席を選び黄瀬くんと向き合って座る。飲み物を注文して落ち着いてから、私は彼に頭を下げた。

「まず最初に、ごめんなさい」
「ええ!なんで謝るんスか!?」
「どんな理由があったにしろ、最初に手を挙げたのは私だから。それにもしかしたら選手に怪我をさせてたかもしれないから、だね」
「...っ〜」

なんで、と黄瀬くんがボソリと呟く。
テーブルに顔を伏せて震えていたかと思うと当然顔を上げた。

「なんでそんなにいい人なんスか〜!!木吉っち〜!!」
「え、」
「もっと性格悪かったり、弱いやつとかだったらもっと良かったのに!!オレのほうこそごめんなさいっス!!」

えぐえぐと涙を零しながら叫び出す黄瀬くんに戸惑いつつも、途中聞こえた名前のあとの言葉に彼のデータを思い出して認めてもらえたのだと分かり少し嬉しくなる。

「黒子っちから全部聞いたんスよ。それでオレ、めっちゃ酷いこと言ったなって思って、ホントにごめんなさいっス〜」
「うん、私も。ムカついてつい顔だけ男って言っちゃってごめんね」
「それは真面目に傷ついたっス」
「はは、ホントにごめんね。ねえ、誠凛(ウチ)は宝の持ち腐れだった?」

その問いには彼は左右に思いっきり顔を振る。その様子に嘘はなさそうで、純粋にただ嬉しくなる。

「そっか、ならよかった」
「もう、試合の結果聞いたんスか?」
「ううん、薄情なことに誰もメールくれないよ。でも知ってるよ」

キミのところのゴールを火神くんが壊したことやキミが黒子くんに怪我させたこともね。と告げると先程まで血色のよかったはずの顔色が青ざめていく。

「こわっ!何で知ってるんっスか!?」
「企業秘密かな〜」
「まさかの桃っちと同じタイプ!」
「あ、その子、帝光の時のマネージャーだよね。今は桐皇だけど」

色んな意味で敵に回したくないっスと呟いた黄瀬くんはアイスティーのグラスを私に差し出す。何となくその意図が掴めた私は同じように自分が頼んだオレンジジュースのグラスを差し出すと、彼はグラスを合わせてカチンッと音を鳴らせた。

「仲直りの乾杯っス!これでもう言いっこなしってことで!」
「うん、そうだね」
「じゃあ、仲直りしたところで聞きたいこと聞いてもいいっスか?」
「いいけど、」
「木吉っちって、昔から黒子っちがしょっちゅう口にする"咲良さん"っスよね!?」
「え、うん?確かに私の名前は咲良だけど」

目を爛々と輝かせる黄瀬くんに戸惑いを隠せない私はついそれを顔に出してしまうが私のその様子に気づいてないのか、黄瀬くんは次々に質問を投げかけてくる。

「じゃあじゃあ!中学のころよく部活終わったあととかに黒子っちと会ってたっスか!?」
「ああ、私の夜間稽古に通ってた場所が帝光に近かったから時間が合う時は会ってたよ」
「やっぱり!やっと黒子っちが絶対に会わせてくれなかった"咲良さん"に会えたっス!」

未だに黄瀬くんの勢いについていけない私は首を傾げながらもオレンジジュースを飲みほしていると黄瀬くんはバイブ音がなったスマホを確認して再び青ざめて慌て始めた。

「げっ、そういえば、今日は姉ちゃんに用事を頼まれてたんだった!せっかく会えたのに〜!」
「これかも試合とかで会えるでしょ?」
「それだと黒子っちいるから聞けないじゃないスか〜!」
「何を?」

そう聞くと口を塞ぐ黄瀬くん。そして明らかに悩んでますって感じに頭を抱え始めた。

「うーん、絶対に黒子っちに怒られる。でも気になるし〜!」
「どうしたの?」
「やむを得ないっス!木吉っち、連絡先交換してほしいっス!」
「いいよ」

メアドと電話番号を互いに交換してから、お店を出る。ちなみに何度も払うと言っても黄瀬くんは頑なに伝票を渡してくれずに先にさっさと会計を済まされてしまった。仕方ないのでご馳走でしたと伝えて大人しく奢られることにする。

「木吉っち、次は絶対に負けないスから!」
「ふふ、誠凛だって負ける気はないから!」

夕日に照らされて、赤く染まるその笑顔にはもうあの時みたいなムカつく感情は湧いてこなくて、心の底から次の勝負が楽しみになる。

「「またね(っス)!」」

今度はわだかまり無くまたねができた。
次に試合で会えるとしたら、インターハイの舞台でだ。そのためにはインターハイ予選を勝ち上がる必要がある。予選まではの時間は決して長くない。
今度は日本一を決める大舞台で再び試合をするために私はまた歩き始めた。



仲直りはいますぐに
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