目の前の光景に募るのは焦りや不安ばかりで、脳裏によぎるのは「一回戦敗退」の言葉だった。そんな弱気な気持ちを切り替えるべく、データ収集に訪れていた体育館を後にして誠凛への帰り道を駆け出した。
今の誠凛では間違いなくインターハイどころか初戦すら突破すらできない。あくまで"今の"だが。
ならばどうするか、答えは単純だ。
「ただいま戻りました」
「おかえりー!どんな感じだった?」
誠凛に戻ると丁度、予選リーグの組み合わせ表を確認しているところだった。
本当に丁度いい。
フリに頼んでホワイトボードを持ってくるように頼んで私はひとまず先にリコさんへ資料を渡して報告に専念する。
「...これは、まずいわね」
「ええ。だからやっぱり必要なのは──」
「──確かに、うん、その方向で練習を進めよう」
手早く報告と今後の練習方向の打ち合わせを済ませて、フリが運んできてくれたホワイトボードに資料を貼り付けたり、必要なことをメモをする。その間にリコさんが私が報告した内容を皆さんに伝えていた。
「よーく聞いて!咲良ちゃんが調べてくれたことによると初戦の新協学園にやっかいな選手がいるみたいなの」
「それがこの方で、」
ペタリ、とその選手の顔写真をプリントした紙をホワイトボードに貼ると先輩たちから驚きの声が上がる。
「名前はパパ・ンバイ・シキ。身長200cm、体重87kgのセネガル人の留学生です」
「セネガ...でかぁ!?200cm!?」
「ありなの!?」
「留学って...てゆーかセネガルってどこ!?」
「西アフリカのサハラ砂漠南西端にある国ですね」
伊月先輩の素朴な疑問に返答をしてから次の説明に移ろうとするが、
「なんだっけ、ぱぱんば、い?」
「パパンババ」
「話が進まん!黒子くんなんかあだ名つけて!」
というように、誰も名前がよく覚えれないために中々話が進まず、ついにはリコさんがキレて黒子くんにあだ名をつけるように命じた。
そうして命名されたのが「お父さん」なのだが、その黒子くんの妙なセンスにツボに入ってしまった先輩たちがリコさんにシバかれたのは言うまでもない。
「彼はとにかく"高い"その一言に尽きますね。背だけではなく手足もとにかく長いです」
戦力アップのために外国人選手を留学生として入れる学校は増えてきている。正に新協学園高校がその例の一つだ。昨年までは中堅校という印象だった新協学園は彼の加入で全く別物のチームへと変化している。
小柄な日本人選手とガタイの良い外国人選手が相手をした時はどうしても高さがネックになってしまうのだ。
「"届かない"。それだけで難しい試合になってしまいます」
「だからと言って何もしないわけじゃないわ!」
「そうです。難しい相手なら対策をして相手の長所に備えてしまえばいいだけの話です」
「そうよ!だから明日から黒子くんと火神くんは別メニューよ!」
リコさんからの活入れが合図となりミーティングが終わり、各々の自主練タイムに戻る。
予選初日は5月16日。本番までに残された時間はあまり多くはない。だが、今やれることを全力で取り組む。それが私たちの成すべきことだ。
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そうして迎えた当日。
試合が楽しみで眠れなかったという小学生が遠足が楽しみで...みたいな理由で火神くんが目を充血させてきたものの、各々の準備は万全で迎えた予選初日である。
だが、相手はそうとも言えないようでお目当ての選手「お父さん」の姿がどうにも見当たらない。
「いませんね?」
「目立つからすぐに見つけれるはずなのに」
そうしてアップも終わりかけの時にやってきたお父さんはどうやら寝坊のようで相手校のキャプテンに叱責をうけていた。そんなお父さんにいつもの様に気づいてもらえずぶつかってしまった黒子くんが子供に間違われるというハプニングもあったものの無事に試合は開始された。
「やっぱり実物をみると圧倒されちゃうわね」
「...ですね」
やはり2mの高さは伊達ではなく、スタートのジャンプボールで火神くんが高さ勝負に負け早々に先制シュートを決められたり、完全にフリーだった日向先輩のシュートをブロックされてしまう。
だが、黙ってやられてあげられるほど私たちは優しくない。お父さんを抑えるために火神くんは水戸部先輩と一緒に猛特訓をしたのだから。
その猛特訓の内容というのも、お父さんに自分のプレイをさせたいためディフェンス法だ。
体格差のある相手でも、ブロックが届かなくてもシュートを止める方法がある。それが、相手にシュートを落とさせるということだ。
やりたいことをさせない。
行きたいところに行かせない。
そうやって相手の苦手な体制に追い込んでプレッシャーをかけて楽にシュートをさせない。
そのためのディフェンス法を火神くんは水戸部先輩から徹底的に教えこまれた。その効果は絶大だったようでお父さんのシュート成功率は格段に落ちている。
「練習の効果がでてますね!」
「うん!良い感じよ。咲良ちゃんが考えてくれた方向性で練習を進めて良かったわ」
15点差で第1Qが終わり黒子くんを温存してからも火神くんは練習の効果が出すぎなくらい絶好調だった。
途中、点差が1桁になった時もあったがそれも再度黒子くんの投入で再び点差を開くことが出来た。最終的には火神くんはお父さんのシュートをブロックしてしまうくらいに凄まじい成長を見せてくれ67対79で新協学園の試合は無事で終えることができた。
「1回戦突破!」
「やったな!咲良!」
「うん!」
隣にいたフリとハイタッチを交わしていると挨拶を終えた黒子くんが傍にやってくる。
「ボクともお願いします」
「うわっ!!黒子!?驚かすなよ!」
「すいません、驚かすつもりはなかったんですが」
「ふふ、黒子くんやったね!」
「はい。勝ちました」
パチンっ!ハイタッチのいい音が鳴る。
互いに笑いあって勝利の喜びを噛み締める。
1回戦突破。これで日本一の夢に1歩だけ近づいた。
「さあ、帰ったら次の相手の対策よ!」
「はい。お任せ下さい、リコさん」
でもまだまだ長い道のりの1歩だ。
私たちの夢はまだ始まったばかりだ。
夢への第一歩
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