05.餌付けから始めてみよう

月子に紹介したい人がいると言われた時は一瞬ドキッとした。もしかして俺の知らないところで彼氏でも出来たんじゃないかって。だけどそんな俺の検討外れの想像はすぐに頭の隅に追いやられた。

「お前以外の女子生徒〜!!?」
「え、それってもしかして噂の幽霊?僕、ぜひ幽霊に会ってみたかったんだ!」
「ばばば、バカ言ってんじゃねーよ!幽霊なんているわけねーだろ!」
「哉太、この前と言ってること違ってるよ」

月子以外の女子生徒と言われて思い当たるのは、やはり噂の幽霊なのだ。これはその噂を知っている人からすれば当たり前の反応だ。
しかし、月子が言うにはその子は本当に生きてこの学園に在学しているらしい。

「でね、真白ちゃんの知り合いをもう少し増やそうってことになってそのために今度パーティーするの!それに皆に来てほしいの!」
「Oui!月子のお願いだもんもちろんだよ!僕もその子気になるし!」
「お、お化けじゃねーんだろ?なな、なら会ってやるよ」
「ほんっとに哉太は怖がりだよね」
「うるせー!!」

喧嘩を始める2人を宥め、心の片隅では月子のいう女の子にあうのを楽しみにしながら昼食を摂ってこの日の昼休みは過ぎていった。
そんな大きなパーティーではないが、すこしでも彼女が緊張せずに楽しく過ごしてもらえるように、皆でああでもない、こうでもないと、頭を悩ませながら準備を進めて当日を迎えた。
少しだけ予定の開始時間より遅く始まったパーティーは順調に進んでいた。
彼女にそれぞれ自己紹介をすることが出来たし、少しだけだがそれぞれで彼女と話もしている。まあ、声の出せない彼女は筆談なんだが。
きっとまだちゃんと話せていないのは俺だけ。羊や哉太と違って出遅れてしまった俺はどうやって話を切り出そうかと悩んでしまう。
頭を悩ませながら思いついた方法を実行しようと決意を固め、彼女の好きそうなおかずを紙皿に取り分けて、皿の角にわりばしも添えてから彼女に近づく。

「真白ちゃん、これよかったら」
「これね、錫也が作ってくれたんだけどね、すごく美味しいんだよ!」

こまめに彼女の様子を確認している月子が俺が話しかけたことに気づき、傍に来て俺のことを助けてくれる一言を述べる。
高校に入学してから初めての女子の後輩で友人ということもあり月子は彼女のことを大切にしていて物凄く気にかけている。その様子は彼女の様子を見るまでは過保護だなと感じていたが、俺も月子に対して過保護な自覚があるから言葉にはしなかった。でも、改めて彼女と会うと過保護になってしまうのも頷けた。
俺から紙皿を受け取り、皿を落とさないようにちゃんと両手で抱えながら俺にお辞儀をしてから、改めてお礼を伝えようとしてくれたのか愛用のスケッチブックを持とうとしたのだが、生憎その小さくて白い両手は紙皿を持つのが精一杯そうで、どうしようと目に見えて困ってワタワタと動く姿は小動物のような可愛らしさがある。そんな姿を見ているとつい世話を焼いてあげたくなるのだ。それに声が出せないし人付き合いも得意ではないとなると余計なくらい気にかけてあげたくなる。
月子はそんな彼女の様子に小さな笑いをこぼしながら、彼女の代わりに皿を持ってあげている。俺と月子にスケッチブックに書いたお礼の言葉を見せると、月子から親鳥が雛にするように餌付け...卵焼きを口に運ばれていた。
卵焼きをめいいっぱい口に詰め込んでから咀嚼した彼女は、再び俺にスケッチブックを差し向ける。

『とうづき先輩の玉子焼き、甘くて美味しいです!お料理お上手ですごいです。』

本当に美味しい、すごい、という感情をぴょこんぴょこんと跳ねながら全身で伝えてくれる彼女が可愛らしくて、つい頭に手が伸びて彼女を撫でてしまう。

「ありがとう。真白ちゃんに美味しいって言ってもらえてよかったよ」

そして、良かったらこれから一緒に昼食を一緒にとらないかという提案をする。余程のことがない限り毎日一緒に食べているのだからメンバーに入っているに決まっているのに月子はずるい、私も一緒に真白ちゃんとご飯食べたいと不満をこぼす。
そんな様子に苦笑いを浮かべてしまう俺を他所に彼女はまた嬉しそうにぴょんと跳ねると小走りで星月先生の元に向かう。

『琥太にぃがいいよって言ってくれました!私も皆さんと一緒にお昼食べたいです』

すぐに戻ってきた彼女はどうやら星月先生の許可を得てきたようで俺たちにスケッチブックを向けてから"よろしくお願いします"の意味であろうお辞儀をした。

「うん、これからよろしくね、真白ちゃん」

こくりこくりと少しだけ頬を赤らめながら何度も頷く彼女はやはり小動物のようで、なんだか妹ができたような気持ちになったのは俺だけの秘密だ。