04.初めの挨拶が肝心です

「ぬぬ!真白発見なのだ!」
「えっ?翼、誰それ」
「ぬわ〜!梓には教えちゃいけなかったのだ、ぬいぬいとそらそらに怒られる〜!!」

翼が窓の向こう見て知らない女の子の名前を呼ぶ。最初は月子先輩しか女の人はこの学校に居ないのに翼が変なことを言い始めたなんて思ったのだが、ふと、それこそまさに学園には月子先輩しか女性はいないのに最近噂される女子生徒の幽霊のことを思い浮ぶ。

「もしかしてそれって噂の幽霊のこと?」
「真白は幽霊なんかじゃないのだー!!」

ほら、と翼が指さす窓の向こうを見ると女の子がいた。そう、月子先輩以外の噂通り真っ白な子。

「翼、説明して」
「ぐぬぬ〜実は...」

翼が説明されたことをまとめると、彼女は星詠み科の生徒でその見た目と声が出ない病気のため、普通の生徒と一緒に過ごすことが難しので隠れて学園生活を送っているらしい。だから、彼女の存在を知っているのは教員と生徒会、星詠み科の生徒とあとほかの数名の生徒だけ。
だがずっと隠れて学園生活を送り続ける訳にはいかないので、暫くはその数人の生徒達だけと関わりそれに慣れたら徐々に関わる人を増やしていくとのこと。
本当はそろそろもっと色んな人と関わらせる予定だったのだが、彼女の生徒達に対する恐怖がなくならないことと想定外の幽霊の噂で先生達も生徒会も手をこまねいてるらしい。

「ねえ、それって僕なら大丈夫?」
「ぬぬ?梓が真白に会うのか?」
「そう、ダメかな?」
「分かんないからぬいぬいと素足隊長に聞いてみるのだ!」

少しだけ彼女に興味が湧いた。


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「ということで、真白の知り合いを増やすパーティーを始めるのだー!!」

月子先輩と翼が鳴らしたクラッカーの音を合図に始まったパーティー。
主役である彼女は不知火会長の小脇に抱えられながら息を整えている。ちなみに不知火会長もかなり呼吸が乱れており疲労が目に見える。
青空先輩の話によると、ここ、パーティー会場である生徒会室に来るまでに嫌がり逃げた彼女と校舎全てを使った盛大な鬼ごっこを繰り広げてきたらしい。青空先輩の後ろでソファに横たわり屍と成り果てている星月先生と陽日先生の姿は見なかったことにした。
しかし、今日が日曜日で校舎には生徒がほとんどいなないからいいものの、もし他の人に見つかったらどうするつもりだったんだろうか。いや、見つかりまくってるから幽霊の噂があるのか。本当に隠す気あるのかななんて考えながら、僕は小脇に抱えられた彼女に視線を合わせるべく少しだけかがみ手を伸ばした。

「僕、翼の友達の木ノ瀬梓。よろしくね?」

彼女は恐る恐る僕の掌に自分の掌を重ねる。出だしは上々だね。
優しく握り返して握手をすると、僕に続いて他の人の自己紹介が始まる。

「お、俺は月子の幼馴染の、ななな、七海哉太だ!」
「哉太どもりすぎ。そんなんじゃ彼女が怯えちゃうよ」
「俺も月子の幼馴染の東月錫也、それでこっちが」
「土萌羊だよ!よろしくね!」

呼ばれたのは僕と月子先輩の幼馴染の3人、それに宮地先輩と金久保先輩だ。
金久保先輩は1度だけ会ったことがあるようだが改めて挨拶をしていた。
皆の自己紹介が終わると、屍...もとい星月先輩がスケッチブックを彼女に押しつける。

『初めまして。深海真白です。よろしくお願いします』

簡単で定型文な挨拶。でも彼女はこれだけでもういっぱいいっぱいのようだが、まだまだパーティーは始まったばかりだ。