神妙な顔をして戻ってきた私を心配する弟に、私も食べすぎたかもと言い訳をした。
弟はグリムと同類だねと言われて、どういう意味だと言い返したけれど笑われて終わった。
談話室のソファにボスンと座ってぼーっとケイトさんに言われた事を思い出した。
「ミヤちゃん、女の子でしょ」
「そんなわけないじゃないですか」
「もう、そういうのはいいからさ〜お願いがあるんだよね」
焦りが顔に出ないように笑って誤魔化そうとしたけれど、ケイトさんは確信しているらしくエース達の時のように誤魔化すことは出来ないんだと肝が冷えた。
いつものへらへらした明るいケイトさんの顔は表情が抜け落ちたような真顔だった。私からも笑顔が消える。
それを見たケイトさんは打って変わって口角を上げると笑った。
「オレと週一でいいからお茶しよう♪」
一体何を要求されるのかと早鐘を撞くように胸が高鳴っていたのに、お茶をするだけだなんて少し拍子抜けした。
それでも何か思惑があるのかと思ったけれど、いつもの調子に戻ったケイトさんは"学園生活に華があった方が楽しい"というような理由しか言わない。
さっき一瞬見せたケイトさんの顔が頭に残っているので、どれも私には脅しにしか聞こえなかった。
断ればケイトさんにとって面白い展開になるようにバラされるんだと思った私は頷くしかなかった。
「そういえば、ケイト先輩は何の用事だったの?」
「ん?あーなんか、ミヤちゃんかわいーからマジカメやらない?って言われただけだよ」
「僕たちスマホないから何も出来なくて不便だよね」
「マグル界のスマホってめちゃくちゃ便利だよね!魔法界でも誰かそういう魔法生み出してくれないかな?」
「ミヤは詳しいんだからやってみたら?」
私にはそんなすごい研究とか出来ないし、やってる途中で挫折すると思う。弟に「自分じゃなくて誰かにやって欲しいの」というと呆れたようなため息をつかれた。
こういう魔法関係の会話は弟にとって辛くないのかなと顔色を伺うけれどいつも通りの表情で、本当に感情を隠すのが上手いなぁと思った。
部屋に戻りドレッサーに置いてある香水を手に取った。1/4くらい減った香水は獣人属の鼻を誤魔化すための匂い消し効果のあるものだから、直感は騙せないし確信的な物を見られれば隠しようがない。
ケイトさんはたぶん女性と関わることが多くて直感で気付いたんだと思う。家族に姉や妹がいるんだろう。
学園長に性別がバレたことを話した方がいいんだろうかとベットに横になりながら考えた。
ケイトさんが黙っていてくれれば知られているという事を知られる訳ではないし、未成年とはいえ学生でもない人の面倒を逐一報告するというのもどうなのかと思う。
悩んだ末に私は言わないと決めた。
それから何も問題が起きることはないまま平和な日々を過ごした。
購買部へ定期購入している商品を受け取りに行き、サムさんとの軽快なトークを楽しんで購買部を出るとデュースに会った。簡単に挨拶だけして寮に戻ろうかと思えば呼び止められた。
「今日、エースと寮に泊まって映画鑑賞する事になったんだが大丈夫か」
「了解。談話室と客室を綺麗にしておくよ」
「あ、ああ。ありがとう・・・それじゃ放課後」
「うん、後でね」
なんだか釈然としない様子だったけれど、いつもより丁寧に客室を掃除しようと気合を入れて寮に戻って掃除をした。
作業着はもちろん着ない。この前みたいな事になるのは避けたい。もう次は誤魔化せないだろうから。
弟と一緒にエースたちが来て、寮が一気に賑やかになった。明日は土曜日だからたぶん夜通しワイワイガヤガヤするんだと思う。
映画は何を観るのかと思えばホラー映画だった。ちょっと遠慮したい気持ちがあったけれど、エースが怖いかと煽ってきて癪だったので観る事にした。
恐怖がぞくぞくと迫り上がってくるような演出のある映画で、終始ぞわぞわとした不快感があった。
途中どうしても怖くて「喉が渇いた」と言って再生を中止させた。飲み物が無かったのでジャンケンに負けたグリムが買いに行く事になった。
手洗いから帰るとエースが怖かったんだろと揶揄ってきたので、完全否定したけれど騙されてくれない。
そうやってふざけていると、グリム遅いなとデュースが溢した一言で弟とエースが様子を見に行く事になった。グリムはトラブルメーカーなところがあるから、ちょっと心配だった。
「お前さ、隠し事あるだろ」
「そりゃ秘密の一つや二つあるでしょ」
「隠し事って、性別のことだろ」
「性別って」
「僕は、お前が男だろうが女だろうが態度変えたりしないから。
あんまり気を張る必要はないからな」
有耶無耶に誤魔化したつもりが全く誤魔化せていなかった。
しかも、エースもたぶん気付いてるとデュースが言った。エースは妙に鋭いところがあるからもしかしたらとは思っていたけれど、態度もその後追求して来なかったから安心していた。
それって少なくとも友人の一人くらいには入ってるんじゃないだろうか。
「ありがとう」
「おう」
態度を変えないってことは言いふらしたりしないって事だ。それ以上に嬉しいって気持ちで胸が暖かくなった。
title by : ユリ柩