土曜日は隔週で通常授業があり、稀にあるイベント事や部活動などで土曜日が丸一日休みの生徒は少ない。
補修になる生徒は日曜日も休めないみたいだけれど。自業自得なので仕方ないと思う。
休日には、寮長に申請すれば学校近くの街に出掛けることも出来るらしい。しかし、私たち姉弟は学生服くらいしか外出できそうな服を持っていない。
学業に不要な物をお願いしたところで、あの学園長が工面してくれるとは思えないため、サムさんのところからの定期購入割引と森からの食材調達で食費を抑えながら、どうにか急拵えではあるがユウの服を買うことができた。
「ユウ!グリム!準備できてるか?」
「オレ様、街に行くの楽しみだったんだゾ〜」
「なんだ、眠れなかったのか?」
「まさか!むにゃむにゃ寝言いいながら朝までぐっすりだったよ」
服が必要になったのは、二人が街に遊びに行こうと誘ってきたからだ。
服を持っていないと言うと二人が貸してくれそうだったのだが、弟は二人より少し小柄ためサイズが合わなかった。
服が合わないのと街へ行けない事のダブルショックで落ち込む弟のために、私は一肌脱いだ。
「サムさん、手伝いに来ました!」
「待ってたよ、小鬼ちゃん」
食費を抑えるだけでは服を全身揃えるのは無理だった。そこで私はサムさんのお店で二週間働く事で、服の代金を値引きしてもらったのだ。
サムさんには口止めしているので、弟はこの事は知らない。サムさんの口の堅さを信頼しているので、弟がこのことを知る事はないだろう。
サムさんのお店は、品数が豊富な上に在庫もあるので全て覚え切るのは無理だった。サムさんもそれを承知の上で、学生がよく買いに来る物を中心に客の捌き方や陳列方法を教えてもらった。
仕事中に着る制服まで用意してくれて、また何か必要になったら"協力"するからその時も制服を着て欲しいと言ってくれた。
サムさんにとっては私の微々たる労働力が手に入り、私は少しお得に物が買えるという
"win-winの関係"が出来上がった。
土曜日や日曜日はお菓子やジュースなどの嗜好品を買いに来る生徒がほとんどで、私というイレギュラーな存在に皆同様に戸惑っていた。
月曜日になり生徒間で、購買部で性別不明な人物が働いているという噂が広まったようで昼休みや放課後になると生徒が集まってきた。
授業外の時間になると購買部はいつもの1.2倍くらい混雑した。当然、購買部に来て手ぶらでは返さないとサムさんが営業するので、全員何かしら購入していく。
サムさんは、こうなると見越して私の労働を受け入れたのだろうか。商売の嗅覚というものが恐ろしくなった。
「小鬼ちゃ〜ん、ご苦労さま」
「サムさんが私の申し出を受けてくれた理由が、よく分かりました・・・」
「オレと揃いのジャケットが役に立っただろう?」
「サムさんには感謝しかありません」
これだけ噂になってしまえば弟の耳に入るのは必然で、自分の服のためなんじゃないかと申し訳なさそうに言われた。
けれど、私が服を買うためにしている事だよと言い訳したため、本当に買わざるを得なくなり購買部で働く日数が二週間延びた。
この噂は学園長の耳にも入ったようで、弟が登校した後に突然寮に現れた。ノックもなしに談話室に現れたので、心臓が飛び出るかと思った。
用件は、今回のアルバイトについてだった。
「女性だとバレないようにしてくださいね。あなた自身を守るためにも」
「忠告ありがとうございます。
でも、アルバイトしないと"弟が"学生として青春を謳歌出来ないというのがもどかしくて」
「美しい
まあ女性だと知られて困るのは貴方で、私では無いので自由にしてください」
ただし、彷徨くのは約束した場所以外行かないようにと言い残して去っていく学園長に、私ももっと自由が欲しいなと寂しくなった。
私だって本当は学生で、娯楽だって楽しみたいのになと少しだけ憂鬱な気持ちになった。
ミステリーショップで働くのも楽しいなと思い始めて二週間が経った頃、倉庫に普段見ないものを見つけた。
「サムさん、こんなにカップとストロー買い込んでドリンクショップでもやるんですか?」
「ああ、それは新しい商品に使うやつだよ小鬼ちゃん。近々販売するから君からも友達に広めてくれるとありがたいな」
「どんな商品なんですか?」
「ふふふ、『ミステリードリンク』それ以上の情報は飲んでからのお楽しみさ」
それから四日後に発売した"ミステリードリンク"は、ドリンクにしては高い金額にも関わらずその美味しさが口伝てに瞬く間に生徒に広まった。
私も販売前日に特別にもらって飲んだのだが、馬鹿の一つ覚えみたいに美味しいしか言えないほどに美味しかった。
飲んだ後も美味しさの余韻が治まらず、弟に美味しいものを飲んだとバレてしまいグリムにズルイとかわいい前脚でぽむぽむと叩かれた。
販売後から日に日にドリンクを求めてやってくる生徒が増え、私が約束の四週間を迎える頃には店内がすし詰め状態になった。
「四週間お疲れさま、小鬼ちゃん!本当は混雑が引くまでいて欲しいところだけど」
「約束は約束ですからね!」
「う〜ん、非常に残念だ」
約束の洋服を手に、あまり残念そうにしていないサムさんに手を振ってミステリーショップでの忙しい四週間が終わった。