飢えをゆるさないヴィラン

『Mr.Sのミステリーショップ』
通称購買部は通常業務の他に生徒の宅配便の手配などで多忙を極めていた。
明日からウインターホリデーに入るため生徒が実家に帰るのだが、荷物の多い生徒や安全に荷物を運びたい生徒が宅配便を利用する。
いつも思うけれど、この世界は私がいた世界より技術が進歩している。マグル界にあるものが普通に存在するのだ。
私たち魔法族はどうしても魔法に頼った生活をしているため、マグル界では当然の技術や便利道具がない。
魔法も進化しているとは言え、魔法が使えない故に進化、進歩していくマグルの技術には感心していた。

「ミヤくんじゃないッスか。シシッまだ支払い終わらないんスね」

宅配便を利用する生徒の対応をしているサムさんの代わりに店頭に立っているとラギーくんが来店した。
彼の言う"支払い"とはオクタヴィネル寮の宿泊料金のことだが、実はお金は用意できていた。
昨日の無償奉仕後に手渡そうと思っていたのだが、アズールさんはやる事があるとかで何処かに行ってしまい、代わりにリーチ兄弟に渡そうと思ったのだが、あんなに背が高いのに見つからず未だに渡せていない。
今日、これからラウンジに行くので確実に渡そうと思っている。

「渡せるといいッスね」
「えー怖いこと言わないでよ」
「まあ、アズールくんと取引なんてした君が悪いってことで」

そう言うと、ラギーくんは一区切りついたサムさんに話しかけた。私は会計に来た生徒の対応をする。
ほぼ一月近く働いているので会計や商品の陳列作業は慣れた。ただ、倉庫の商品や在庫に関して把握しているのは2割にも満たないと思う。
昼休みというのもあって、飲食物の会計が多いなと思っていると商品と一緒に文字が書かれたメモが紛れていて、慌てて相手に返した。

「これは君へ。僕のマジカメIDだ」
「ごめんなさい、マジカメやってないんです」
「あっそ、そうなんだ…じゃあ、始めたら登録してよ」

そう言って生徒は私にメモを押し付けて購買部を出て行った。
何度か購買部で話をしていた生徒からマジカメIDを渡されたり、聞かれたりするのは初めてじゃない。
明日からホリデーだからか、ここ数日特に多い。その度に申し訳ない顔で"やってない"と断るのだけれど、強引だったり執拗な生徒が多い。
もらったIDメモは粉微塵にして捨てている。個人情報だろうから、そのまま捨てるのは気が引けた。

「トレイさん、こんにちは」
「ん?ああ、ミヤか。どうしたんだ?こんなところで」
「モストロ・ラウンジに行ったんですけど、今日は営業もしないし棚卸しも無いって追い出されちゃったんですよね」

他寮をウロウロする訳にもいかないので、帰りながら探したけれどアズールさんもリーチ兄弟も見つからず結局渡せなかった。
まさか受け取らずに永遠に無償奉仕させるつもりかという不安を無関係なトレイさんにこぼしてしまった。
嫌な顔をせず話を聞いてくれるトレイさんは頼れる先輩っていう雰囲気が強い。
鏡舎の前で出会しただけの相手に愚痴を聞かされて嫌な顔をしないなんて、聖人君子の素養があると思う。

「んー、それなら明日鏡の間に行けばいいんじゃないか?帰省する生徒はみんな闇の鏡を使うんだ」

だから鏡の間に行けば必ず会えるだろうと言われた。私はトレイさんに感謝して寮へ戻った。
次の日、寝ぼけ眼の弟達を見送った後購買部へ向かった。宅配業者が朝学園に着くから手伝って欲しいとのことだ。
約束の手伝いはマドルが貯まるまでだったが、ホリデー直前な上に忙しかったので手伝わせてもらう事になったのだ。
業者は各国からやってきて、それぞれ預かった荷物が吸い込まれるように荷車に入っていく。
荷車と言っても、国によって様々で馬車だったり巨大な鳥のような生き物だったりした。

荷造りが終わり、最後の宅配業者を見送るとサムさんから労いの言葉をかけてくれた。私も一ヶ月もの間、迷惑をかけてしまった謝罪と受け入れてくれた感謝を述べた。
鏡の間に向かおうとする私をサムさんが引き留めた。最後にこれから来る小鬼ちゃんの荷造りを手伝って欲しいということだった。
早く行かないとアズールさん達が帰ってしまうかもと、少し焦る気持ちがあった。
断ろうとする私の後ろにその小鬼ちゃんが来たようで振り返るとよく知った人物がいた。

「サムさーん!今年もよろしくッス」
「待ってたよ小鬼ちゃん!こっちも買い取ってもらえて大助かりさ!」

昨日、購買部にやってきたラギーくんがサムさんと話していたのは期限切れ間近の食品などの買取の話だったようだ。
私も知り合いの荷造りならばと手伝った。
大きなリュックからクーラーボックスまで様々なバッグに、約束の商品を詰めていく。ラギーくんは終始嬉しそうにしている。タダ同然の価格で購入したらしい食品達は、家族や近所の子供達に配るそうだ。
意外と仲間思いというか、思い遣りのある人なんですねと言うと「それがオレたちの当たり前なんスよ」と言われた。
それが国の文化の違いなのか種族の違いなのかは分からなかったけれど、当然のことを普通の事だと思えるのは素敵な事だと感じた。
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