ひとりぼっちに差し込む冷気

「はいはーい!道の真ん中に突っ立ってないで、どいたどいたー!」
「ブッチ先輩……なんですかその荷物!?」

鏡の間に直行するかと思っていたのに、大食堂に寄ってクーラーボックスに調理場から買い取った新鮮食材を詰めた。
その荷物を宅配便を使わずに持って帰るなんて、ものすごい根性だと思う。
鏡の間に着くと多くの生徒で賑やかだった。といっても次から次へと鏡の中に消えていくのだが、その中に立ち止まって話し込んでいる生徒がいた。
見送りきたのだろう弟達がエース達と喋っていたのだ。私はラギーくんに荷物を返すとエース達の輪に加わった。

「宅配便使えばいいのに」
「自分の荷物は自分で持つもんで、人任せにするもんじゃねぇだろ」

両手にサボテンを抱えたジャックが大変そうだったが、相変わらず意識が高いなとちょっと呆れた。
スマホと財布しか持って帰らないというレオナさんの、宿題はホリデーが終わってからするという究極の怠惰には感心してしまうほどだ。
宝の持ち腐れとも言える。
こういう先輩を見習わないようにとケイトさんとトレイさんもやってきて、私は慌ててケイトさんに話しかけた。

「ケイトさんごめんなさい!約束守れてなくて…」
「あ〜まあ、しょうがないよね。そのぶん、ホリデーが終わってから楽しもう♪それともホリデーの間家に来る?」

ケイトさんのこういう冗談は私の反応を見て楽しんでいるだけだ。あっさり断るとなんでもないように「残念〜」と言われた。
私は当初の目的を果たすべくアズールさんを探し回った。闇の鏡があるここは、入学式を行えるほどに広いので生徒を探すのに苦労する。
背の高いリーチ兄弟も学生服の群れの中じゃ見つかりそうもない。それにしても、背の高い生徒が多くてもどかしい。

「おっと!もっと周りをよく見ないとぶつかってしまうよ」
「あっ!すみません。ありがとうございます」
当然のことをしたまでさ セ・ノーマル 迷子の子猫ちゃん シャトン 
「えっと…」
「困らせてしまったようだね。迷子のようにキョロキョロしていた様だけれど探し人でもいるのかな?」

人にぶつかりそうになった私の腕を引いた生徒は、あまり聴き馴染みのない言葉を話した。雰囲気がフランス語っぽいなと思いながら、どこかで会ったことがあるような気がしていた。
誰だったかと考えていると誰を探しているのかと聞かれて、アズールさんとリーチ兄弟だと答えた。
それを聞いた彼は周囲を見渡すとすぐ私に向き直り「ムシュー・計画犯とムシュー・愉快犯なら向こうにいるようだね」と教えてくれた。
計画犯と愉快犯なんて言い得て妙だが、彼が指差す方を見ても人波が邪魔して全く見えない。

弟君おとうとぎみと一緒にいるようだから、元の場所に戻るといい」
「そうなんですか!ありがとうございます!よいホリデーをお過ごしください」

私は形式的な挨拶をすると、人波を縫って彼が指差した方に向かって急いだ。すると、人垣の向こうにシーグリーンの頭がチラチラと見えた。
二つ並んでいるのを見てリーチ兄弟だと確信すると、安心する心地で彼らに近づいた。

「楽しいホリデーになりそうですね。いつでもお待ちしています。では…」
「「フフフ…」」

声を掛けようとしたところ、二人が歩き出してしまった。私は声を張って呼び止めるが全く振り返ってくれない。
エース達が私に気付いてどうしたんだと言う声が聞こえたけれど、弟が説明してくれるだろうと構わず二人を追いかけた。
このような場所をものともせず歩いていく二人が信じられない。夢中で追いかけていたら鏡の間を出てしまった。
途中で見失ってしまったんだろうか。鏡の間に入る人は大勢いても出てくる人はほとんどいない。
リーチ兄弟ももう帰ってしまったかと鏡の間に背を向けると、目の前に暗い壁があった。

「ばあっ!あはは、どうしたの?そんなに目をまぁるくしちゃって」
「は、?なん、あれ?えっえ?」
「ふふ、どうしました?驚いた拍子に言語能力まで落としたんですか?」
「えーヤバイじゃん。どこに落としたの?拾ってあげるよ?」

壁のように並んで立つ双子が小馬鹿にしたように笑っている。私の存在に気付いていて揶揄ったのだ。
目の前で笑う双子に湧いた怒りを鎮め冷静さを取り戻すと、二人によく見えるようにマドルの封筒を眼前に突きつけた。
白々しく何かと聞いてきたが、私はそれには答えない。相手のペースには呑まれない。

「二人は帰省しないんですか?」
「帰んない…ってさっきも言った」

怠そうに言うフロイドさんに代わってジェイドさんが、珊瑚の海でも北の方だから冬は面倒だから帰らないと教えてくれた。
つまり、同じ出身のアズールさんも帰らないということだ。いい事を聞いたと思い、二人に別れを告げて足早に立ち去る。
後ろから付いてきてるっぽい二人を無視してオクタヴィネル寮へ急いだ。

「アズールがどこに居るのか知らないでしょ?オレらが預かってあげようか?」
「不安なので自分で渡します」
「クスッ賢明な判断です」

寮に着いても、どこに行くか迷っていると双子が追いついてきた。
私の反応が良かったのか、アズールさんの自室に案内されて無事3万マドルの支払いは完了した。
寮の出口まで歩く間も何事もなく辿り着けた。後から案内料とか取られても怖いので、何もないのかと聞いた。
二人は暇潰し感覚だったようで「ホリデー中も暇だから遊びにおいでよ」と言われた。
私は、気が向いたら来ますとだけ答えて寮の鏡をすり抜けた。
無事に鏡舎に辿り着くと、出入り口の隙間から入り込んできた冷気に体をぶるっと震わせた。