カリムくんの好意でスカラビア寮に泊まることになったのだけど、オクタヴィネルの三人も寮へ帰らずにスカラビアに残ることになった。
アズールさんの提案した合宿を続けるようで、その間はジャミルくんにしっかり休息を取ってもらうため朝食の準備からカリムくんの身の周りの世話までやるらしい。
恩を売っておいて損はない。みたいな事だろうなと勝手に考えている。
そうして数日が経ち出されていた課題も終わった頃、ジャミルくんの体調が良くなったこともありホリデーの宴をしようとカリムくんが提案してきた。
ホリデーとはクリスマス休暇の事だ。それらしい事なんて全くしていなかったので、弟とグリムとハイタッチした。
雪は降っていないしプレゼントもないけれど、美味しいご飯を食べてみんなでワイワイ騒ぐことを想像して胸を弾ませた。
私の料理スキルはリーチ兄弟からすると中の下らしく、ご馳走の準備もカリムくんと鍋を混ぜるくらいの事しかさせてもらえなかった。
鍋を混ぜながら、今まで美味しそうに食べてくれていたユウとグリムに申し訳ない気持ちになる。美味しいというのはお世辞なのか、いやでもグリムはガツガツ食べていたじゃないかと、スープと一緒に思考もぐるぐる回った。
「それじゃあ…象もクジャクもみんな連れてオアシスまでパレードだ!」
「出発進行!!!なんだゾ〜!」
同じ砂漠。同じ人間。同じ隊列。
なにも変わらないのに、砂漠の行進をこんなに楽しく感じれるなんて宴の力はすごい。
みんなの表情も明るいし、ジャミルくんだってオーバーブロットする前は常に気を張っているような、硬い表情をしていた。
気のせいかもしれないけれど、今は荷を降ろして一息つけたようなスッキリした顔をしている。
オーバーブロットが話し合うきっかけになって、むしろ良かったんじゃないかと思ってしまった。
「さあ宴の準備は整った。みんな好きなだけ食って、歌って、踊って、今年の嫌なこと全部忘れちまおう!!!」
砂漠を歩くのはとても疲れる。宴開始後すぐに目の前のジュースを飲み干した。パイナップルジュースは甘くて、疲れた体に染み渡る。
みんな思い思いに食事と会話を楽しんでいる。大勢で楽しく食事をするのは賑やかで騒がしいかもしれないけれど、そう言う経験が遠い昔の事のようで少し羨ましくて、眩しいなと感じた。
自動演奏の楽器の音色を聴きながらの食事なんて、映画に出てくる貴族のような高貴な気分になる。
食事のマナーなんて大した事は知らないけれど、アズールさんの食事の仕方をキレイだなと思いながら、つい見過ぎていたようだ。
「僕の顔に何か付いてますか?」
「あ、いえ、素敵だなと見てただけです」
「はぁ!!?」
「急に大声出して、びっくりしたんだゾ!」
「おやおや、まるで茹で蛸のようですよアズール」
「え、なになに?…うわ、アズール顔真っ赤じゃん」
「なんだ?どうしたんだ?」
勘違いさせてしまったと、大慌てて謝罪した。食べ方というか、所作というかよく分からないけど、とにかくキレイな食べ方するなと思っただけだと捲し立てた。
アズールさんは眼鏡のブリッジを上げると、いつも通りの声量で紛らわしい事を言うなと注意してきたが、視線が合わない。
私は再び謝ってそれで終わりにしたかったのにカリムさんが話を広げてしまった。
「確かに、米粒一つ残さないのは見ていて気持ちがいいな!」
「あ、あのカリムくん。この料理ってどうやって食べるの?」
「ん?それはな…」
目の前の見たことない料理の食べ方なんて別にどうでも良かったけど、カリムくんの意識を逸らすことができて一安心した。
それから途中でエースとデュースが合流して、さらに賑やかになって、みんなで踊ったり歌ったり、オアシスで泳ぐ人もいたり。
とにかく馬鹿みたいに燥いで騒いで、いっぱい笑った。ここの学生では無いけれど、ホグワーツにいた頃よりも学生を謳歌した。
それも、いつかは終わる。
宴もお開きになり、私たちはオンボロ寮へと帰ることになった。
帰り際に、また遊びに来いよと言ってくれたカリムくんと面倒は持ち込むなよと視線を投げてきたジャミルくんに手を振って、鏡を抜けた。
「ほぁ〜〜〜やっと寮に戻ってこれたんだゾ」
「なんだかホッとするなあ」
確かに肩の荷が降りたというか、面倒な事もあったけど楽しい数日間だった。それでも疲れるものは疲れる。帰ったらベッドに倒れ込もう。
寒いから早く建物の中に入りたかったが、中に入ってからでいいのにゴーストはわざわざ外に出てきて話し出した。
ゴーストには暖炉の火の妖精の番のことや、学園長からのプレゼントの話をされた。
暖炉のことは完全に忘れていた。それにしても、学園長が私達のことを忘れていなかった事が意外だった。
約束事をよく忘れる人だから、ホリデーのご馳走なんて全く期待していなかったのに。
ご馳走と聞いて走り出したグリムに続いて、寮へと急いだ。スカラビアの暑さに馴染んだ体に冬の寒さは堪える。
ふと、弟がついて来ていない気がして振り返ると見慣れない生徒が弟と話をしていた。
随分小柄な生徒だなと見ていると、その人はまるで姿くらましを使ったように、パッと消えていなくなった。
私は寮の外では姿くらましや姿現しが出来ないのに、なぜ。集中してオンボロ寮へ姿現しをしようと試した。
けれど、やっぱりイメージはできても、寮内に向かう感覚が戻って来てしまう。とても不思議な感覚だった。
「ユウ〜〜!!ミヤ〜〜〜!!早くしないとご馳走全部食っちまうんだゾ〜〜!」
グリムの声に釣られるように、弟と一緒にオンボロ寮へと足を早めた。
足元の新雪をきゅっきゅっと踏み荒らしながら、冷えた体を抱えてご馳走よりシャワーが先かななんて、考えた。