オーバーブロットしてしまったジャミルくんは強かった。同じクラスだというアズールさんも彼の魔力に驚いていた。
ジャミルくんは寮長の座を奪うために、魔力をコントロールし決して目立つことなく、じっと息を潜めて機会を伺っていたのだ。
彼が倒れる瞬間、「これで一番に」「やっと自由に」と苦しそうに零れた言葉は彼が今まで望んでも掴みきれなかったものなのだろう。
その全てはカリムくんという存在があったからだ。
国や文化の違いは当然ある。けれど、学校では同じ学生なのに身分とか家柄なんてもので上下関係が出来るなんて、なんて馬鹿らしいんだろう。
彼ら二人の関係に私がこうしたらいいとか口出しをするのは違う気がするので、彼らの中で折り合いをつけてやっていくしない。
今回のジャミルくんの行動は非難されるもので擁護出来るような物ではない。まあ、それでもカリムくんならば簡単にジャミルくんを許してしまうんだろう。
それに、ここの学生は相手の抱える悪を理解しながらも上手いこと人間関係を構築している。
今まで自分の周りにはいなかったタイプの人達だなと思ったが、私はそもそもホグワーツでは人間関係が破綻していたなと自嘲した。
「絶っっっ対にお断りだ!!!!」
改めて対等な立場で本気で一番を奪い合うライバルになろう、そして対等に友達になろうとジャミルくんに声をかけたカリムくん。
無事だったジャミルくんに安心して涙を流して喜んでいたせいで鼻声になっているカリムくんをジャミルくんは思いきりフッた。
利害関係がないなら、1ミリたりとも関わり合いたくないとまで言われていてちょっと笑ってしまいそうだったけれど、そんなこと言われると思ってなかったカリムくんは衝撃で酷い顔をしている。
完全に吹っ切れたジャミルくんをニヤニヤして見ていたアズールさんは、ジャミルくんが如何に優秀で器用かを語り出した。
それを受けてカリムくんも誇らしげに嬉しそうに賛同の声を上げた。
アズールさんは続けて僕と友達にと誘っていたけれど、こちらもあっさりフラれていた。次々と散っていく様子は面白かった。
「ミヤさんはジャミルさんがした事に気付いていたようですが、どうやって知ったんですか?」
くすくす笑っていると、ジェイドさんに蒸し返されてしまった。これについては誰にも言いたくなかった。
カリムくんなら許してくれるだろうけれど、知られてしまったら信頼を失ってしまう。
どう取り繕うかと言葉に詰まっていると、ジャミルくんが意地の悪い笑みを浮かべて口を開いた。
「ミヤとは仲良くしたかったが…他人の過去を覗き見する奴とも友達にはなりたくないな」
「ちょっ、えっなんで知って…?」
「あの日の夜に教えてくれたじゃないか」
「………あっ!」
ジャミルくんは知っていたのだ。カリムくんに魔法を掛けて何をしたのか、洗脳された私がジャミルくんに素直に答えてしまったのだ。
だから次の日の夜も私が何かする前に、ユニーク魔法を使ったんだろう。なんて恐ろしいユニーク魔法だろうか。
私はカリムくんに向き直って頭を下げた。
誰かに何かをされた記憶がないか、魔法を掛けてカリムくんの過去を覗いてしまったと正直に謝った。
カリムくんは、見られて困るような事はないから別に気にするなと言ってくれた。この人は本当に心の壁が薄い。
「他人の過去を覗くなんて」
アズールさんの呟きに振り返ると、オクタヴィネルの三人が私を見て顔を強張らせているのがわかった。
やっぱり、どんな理由があろうと私の行いは褒められたものではないのだと実感した。ジャミルくんの言う通り、こんな事をした人と仲良くはしたくないだろう。
私は、どうして言ってしまったのかと非難するようにジャミルくんを睨んだ。彼は私を見るとしたり顔で笑った。
「たが、まあ…」
「他人の弱みを握り放題じゃないですか!やはりミヤさん、あなた素晴らしい魔法をお持ちですね!」
「「…はぁ?/えっ?」」
ジャミルくんが何か言い掛けたところで、アズールさんが声高に私の魔法を褒めた。ジャミルくんも彼の発言が信じられない様子だ。
今すぐ僕と契約しましょうと言い出しそうな勢いで、私の魔法の特異性について語り出した。
他人の過去を覗くという魔法は禁術として存在しており、個人が使用できるものではない事。
また、他人を回復させるには魔法薬が主で呪文による回復は珍しいらしい。まあ、これは私達の世界でもそうだった。
だから私は呪文の研究をして、独自の物を生み出したのだ。この世界でいうユニーク魔法と似ているのかもしれない。
「あなたがカリムさんにした事は僕の秘密コレクションに加えておきますよ」
「別名・他人の弱点コレクションね」
「フフフ、相談に来る日が楽しみですね。ミヤさん」
私は身震いした。アズールさんのどんな隙も見逃さず、自分の利益に繋げようとする根性が恐ろしい。
グリムが契約で魔法を奪うのは禁じられたはずと言っていたけれど、アズールさん曰く"生徒から"奪うのを禁じられただけで生徒でない私は例外とのことだ。
これまでも何度か、この世界の魔法を学びたくて学園に生徒として通えないだろうかと考えてきた。
その度に無理だろうなと諦めてきたが、もう今すぐにでも生徒になりたいと強く思った。