夢には人だけでなく動物や空想の生き物まで登場し、場面ごとに切り取られた映像はいかにも"夢"というような内容だ。
ひとつ面白いのは、日を跨いで見る夢は繋がっていて一つのストーリーになっているところだ。
3話構成の短い御伽話。起承転結の結だけ夢で見ることはない。
普通の物語ならばもやもやするところだけれど、これは夢だ。しばらくすると忘れてしまう。
それに、現実世界でいろいろありすぎて夢を気にしている余裕なんてなかった。だから、現実とリンクしているように感じても"そんな気がする"くらいで特に気にしていなかった。
夢の中の人物が僕に話しかけてくるまでは。
今までにも鏡が光って誰かが話しかけてくるような夢を見たことがあった。鏡に写る影と声はおぼろげで、そういう夢だと思っていた。
ホリデー明けの初日、グリムに言われた「昨日の夜、寝ぼけてオレ様の尻尾を踏んだだろ」という言葉。
それは、あの夜見た夢が夢ではなく現実に起こったという事に他ならない。
光る鏡、映り込む影、はっきりとした声、成立する会話。夜中にだけ起こる現象。これらは一体なんなのだろうか。
エースとデュースに相談して得た結論は、とりあえず次同じことが起こったらゴーストカメラで撮影をする。
忘れないように、枕元に置いておかなければならない。
「総合文化祭?」
「うん。全国の魔法士養成学校から代表生徒が来て、美術、音楽、研究発表、弁論大会とか2日間かけて行うんだって」
「ふうん、マジフト大会みたいなのかな?出店とか出る?」
「あはは、グリムと同じこと言ってる」
「え〜だって、それくらいしか楽しめること無さそうだし」
姉は別にグリムのように食い意地が張ってるわけではない。姉は学生ではないため、学園内の催しにはあまり参加できない。
マジフト大会のように学園が一般解放された時くらいしか楽しみがない。僕をグリムとセットで学生と認めてくれたのに、姉を生徒として認めない学園長の考えが分からない。
姉は学校にも通えず行動も制限されている。僕は不自由する姉に余計な心配をかけたくなかった。だから、不思議な夢のことは黙っている。
本当に余計な心配なのだ。姉は僕を過剰に心配し過ぎている。それが、たまに、本当にたまに嫌になることがある。
この世界に来てから顕著になった姉の僕に対する過剰な心配。不快に思っても姉を咎めないのは僕たちのために頑張ってくれているからだ。
今日も寮の裏山に入って食べられる木の実や山菜を採ってきたようで、キッチンに笊に入ったそれらが置いてあるのを見た。
毒のあるものを購買部で売っているのを見たこともある。
行動を制限されながらも異世界での生活を潤わせる努力をしている姉に、嫌だからやめてくれと言うよりは、僕が心配かけないようにする事を選んだ。
だから、僕が姉にするのは楽しい話題だけ。
「ご、500万マドル!!!?」
「うん。まずはオーディションに受からないとならないんだけど…課題が山積みって感じかな」
「えぇー望み薄そう」
「それがさ、スカラビアのカリム先輩とジャミル先輩が一緒に練習してくれることになったんだ」
「オアシスで踊ってるの見たけど、雰囲気あったよね。ジャミルくんも楽しそうだったしダンスが好きなのかもね」
エース、デュース、グリムと僕で『VDC』に出て優勝するためにオーディションを受ける話をした。
ダンスはやった事ないし、歌は凡人程度の僕が受かるとは思えなかったけれど、ジャミル先輩の教え方が上手いから数十分レクチャーされただけで動きが良くなったのには驚いた。
好きかどうかは知らないけれど、熟練していなければ的確な指導はできないだろうねと話す。
姉には半分だけ期待していると言われて、ちょっとだけやる気が出た。
125万マドルもあれば、自分たちの生活も豊かになるし姉も少しは気晴らしできるかもしれない。
明日からの特訓頑張るぞと、気合を入れた。
まあ、結果はダメだったんだけど…なんで矢文だったんだろう。時代劇でしか見た事ないし、鼻先すれすれを飛んできたからめちゃくちゃ怖かった。
エースとデュースが合格して喜ばしいのに、不合格な僕まで名指して呼び出されたことに嫌な予感がする。絶対に雑用とか、いいように使われるんだろうなって考えてうんざりした。
「この週末から『
僕の想像を超えた範囲の要求が来てしまった。寮ということは姉も巻き込むってことだ。休暇前も巻き込んでしまい、先月ようやく無償奉仕が終わったところだというのに。
仮にも僕たちは学生という身分をもらってはいるものの、学園長にいいように使われてしまっている。
そして、今回も約142万マドルという美味しいエサや住設備の快適さをぶら下げられて頷かないわけがなかった。
ああ、姉はきっと呆れるだろう。せめて姉にも学園長から直接説明をしてもらうように頼んだ。
ため息が出てしまう。どうか、みんなが優勝しますように。
title by : 溺れる覚悟