ようこそ、オンボロ寮へ

合宿初日、ヴィルさんが言っていた荷物が届いた。配達員がまさかゴーストだとは思わず、寮のゴーストがふざけてるのかと思って配達員に失礼なことを言ってしまった。
温厚なゴーストだったため怒り出すことはなく、ヴィルさん宛の荷物を代理人としてサインを書いて受け取った。受け取ったのが弟だったら運ぶのに何往復もしただろう。
荷物は冷蔵の物がほとんどで、冷蔵庫をほぼ空にしていたため全て入れることができて一安心した。
夕飯からという話だったけれど、事前に作っておける物は作っておいた方がいいだろうとドレッシング作りに取り掛かった。

「ボンジュール!ユウくん、グリムくん、ミヤくん。手厚いお出迎え痛みいるよ。これから4週間お世話になるね。よろしくたのむよ」

午後になり弟達が帰ってくると、これから荷物を持って来るという人達を出迎えるのに妙にそわそわしながら待っていた。
ヴィーと鳴った玄関扉を開けると、帽子を被った生徒が少し大袈裟な挨拶を述べた。それに続くようにゾロゾロと挨拶をしながら入ってくる。
ジャミルくんのセキュリティが甘いからカリムくんと同室にして欲しいという要望には、部屋が狭くてベッド二つは置けないため隣室を使ってもらうことになった。
主従の問題はそう簡単には片付かないんだろうなと思っていると、エース達が手土産を持ってきてくれたようだった。
トレイさんの気遣いが上手過ぎて保護者みたいだなと、喜びを出し過ぎないように丁重に預かろうとしたケーキの箱は第三者の手に奪われてしまった。

「あっ…」
「まったく、トレイは相変わらずね。"良かれ"で甘やかして相手を駄目にする一番気を付けなきゃいけないタイプの男」

グリムが怒りをあらわに食べ物を粗末にするなんて許さないと言うが、捨てるとは言っていないと呆れるヴィルさん。
荷物を持ったまま談話室に集合するというので案内だけして退室しようとしたが、私にも関係のある話だからとそのまま談話室に留まった。
そこで開かれた彼らの荷物から食べ物や飲み物、魔法薬と薬草、それから分厚い謎のアルバムが出てくる。
荷物がアルバムだけというのに驚いていると、砂糖や小麦粉を使ったお菓子とドリンク類は全て没収になった。没収されることになった荷物の主から非難や疑問の言葉が飛び出す。

合宿用のメニュー表を受け取った時から思っていたけれど、ヴィルさんの『VDC』にかける熱量がすごい。文化祭とはいえ、文化部の大会のようなものだから本気度が違うのだろう。
上級生である彼がここまで本気で準備するということは、参加者は毎年、相当な実力を持った人が出てくるのかもしれない。
管理人である私や弟とグリムまで、メンバーである彼らにストレスを与えないよう注意を受けた。
元からそのつもりだったため大きく頷いたが、グリムと弟はとばっちりだと言わんばかりの顔をしていた。

〜〜〜♪

荷物を置きに行くという彼らを部屋に案内する出番が来たかと思えば、ヴィルさんのスマートフォンが鳴った。
マネージャーから電話だという発言が引っかかった私は、近くにいたエースの肩をちょんちょんと叩き小声で尋ねた。
すると、呆れたような顔でモデルとか俳優とか芸能活動してるんだよと教えてもらった。通りで美しいわけだと、映画とかオファーとか少し嬉しそうな声を出すヴィルさんを見つめた。

「ヴィルはただの芸能人ではないよ」
「えーと、」
「ああ、私はルーク・ハント。愛の狩人ル・シャソゥ・ドゥアムールさ」
「る、しゃ…?」
「ヴィルはとても美しい」

ヴィルさんが電話中というのもあって小声、且つ聴き慣れない言葉がよくわからず聞き返すもスルーされてしまう。
うっとりとした口調で美しいと言ったルークさんは「ヴィルの美しさは見た目だけの話ではないよ」とつぶやきながら、電話するヴィルさんをまっすぐ見つめていた。
それに倣って視線を戻す。見た目だけでなく中身も美しいということなんだろうかと、声を荒げ出したヴィルさんを見つめた。

全員を部屋に案内する。といっても全員同じフロアに部屋があるため、自由に選んでもらった。エースとデュースは寮では四人部屋らしく、一人部屋というのに喜んでいた。
それに比べてエペルくんという生徒は、同じ一年生らしいが細々と喋っていたし、随分大人しい子という印象だ。
それに彼とは一度、校舎の中庭で会っている。男子校だと聞いていたのに女の子みたいに可愛らしい顔をしていたから覚えていた。
ルークさんとも会っていたのを名前を聞いて、何ヶ月か前のマジフト大会の時にポムフィオーレ寮まで見に行ったのを思い出した。

夕飯まで4時間くらい時間があるため、図書館にでも行くかとオンボロ寮を後にする。静かに調べ物をしようとしていたが、試験前でもないのに図書館は生徒で溢れていた。
この学園祭は文化部の大会だというから、最後の追い込みというか最終準備というのをしているのかもしれない。
そんな慌ただしいような空気をすり抜け、人の少ない方へと足を向ける。館内はとても広く、何度か訪れただけでは目的の本棚をすぐに見つけることは当然だが出来ない。
人がいない本棚の辺りを徘徊していると、何列か先の本棚がポゥッと青く光っているのが見えた。

「人…?」

揺めきながら移動している青い光に目を奪われ、誘われるように後を追うと学園の生徒の後ろ姿が見えた。
何かに怯えるように背中を丸めながら、本を抱えて出口に向かって素早い動作で歩いていった。そんな彼を見ているのは私くらいで、みんな今の生徒のように相当忙しいんだろう。
今では開催されなくなってしまったが、三大魔法学校対抗試合トライウィザード・トーナメントで使用されたゴブレットの炎が綺麗な青色をしていたらしい。
髪とゴブレットは全くの別物だけれど、今の生徒のように綺麗に揺らめいていたのかもしれない。
prev | back | next