弟は学生として私は掃除婦、もとい管理人としての生活が明日から始まる。
弟とグリムは部屋を一緒に使用するらしく、グリムの賑やかな話し声が隣室に消えていった。
オンボロな寮ではあるけれど意外と部屋に入ってしまうと声が聞こえにくくなるなと、ベッドに横になりながら思った。
杖を奪われたショックでしばらくバスルームから出られなかったけれど奪われてしまったのは仕方ないし、くよくよしていても何も好転しないのはよく知っている。
ならば、出来ることや任されたことを地道にこなしていこうと考えた。
それに生活魔法くらいなら杖無しでも可能なので問題ない。
眠りについた頃ドンドンと扉を叩く音が聞こえて一瞬目が覚めた。
今日一日掃除をしたり大釜を磨いたりして疲れていたので再び寝ようとしたが、隣室の扉の音がして仕方なく体を起こした。
何かあれば呼びに来るだろうと重い目蓋をそのままに、ぼんやりしていると帰寮した私を出迎えてくれた弟とグリムの顔が浮かんだ。
念願の学生になれてウキウキと尻尾が揺れているグリムと、その様子を呆れながらもどこか嬉しそうに見ている弟。
世界は違えど魔法学校に通えるようになったからか嬉しそうにしている弟が見れて私も嬉しい。
なんか話し声するな、誰と話しているんだろうなんて思っているうちに寝てしまっていた。
扉をドンドン叩く音が再び聴こえて目を覚ますと朝日が眩しくて、昨夜のは結局何だったんだろうと考えながら身支度を整えて一階に降りていく。
「めちゃくちゃ怒ってるじゃん!」
玄関から聞き覚えのある声がして、こんな朝っぱらから何の用だと顔を覗かせると見知らぬ生徒と喋るエースがいた。
私に気付いたエースが嫌そうな顔をした。私だって朝一番に見る顔が君だなんて嫌なのだからおあいこだ。
「そーいやお前もここの寮だったな。忘れてた」
「なんでエースがいるの。一体何の用事?」
一から説明するのが面倒だというエースにかわって、デュースと名乗った男子の説明を聞いて思ったのは馬鹿だなあだった。
うっかり声に出てしまっていた様で怒り出すエースを丁度よく起きて来た弟が間に入った。
すると、なんか上手いことまとまった。本当に猛獣使い的な才能があるのかもしれない。
弟とグリムに行ってらっしゃいと声を掛けると、特にグリムは嬉しそうに尻尾を揺らしながら玄関を出て行った。
私一人だけが登校出来ないのをエースが小馬鹿にしたように絡んできたので、お洒落な首輪似合ってるよと言い返してやった。
「お前さぁ可愛い顔に似合わず口悪いよな」
もうちょっと毒控えめにした方がいいぜとか言いながら、二人と一匹の後を追うように行ってしまった。
私は思ってもなかった反応に面食らったけれど、余計なお世話だし毒吐く相手は選んでいるからいいのだと心の中で言い訳して寮に戻った。
掃除をしているとお腹が鳴り、昼食どうしようと思った。
昨日朝の時点では昼食は食堂で摂っていいと言われたけれど、昨日と今日では状況が異なるので迷っている。
行って問題起こすより寮にこもって大人しくしておくかと掃除終わりに、図鑑を持って寮の裏手にある林に入った。
見つかった毒のない木の実とかを寮に持ち帰った。野草とかもあったけれど、食べるのに抵抗があって食べたくなかった。
放課後の時間に学園長室に行ったら、会えるだろうか…生活費とか欲しいし、自分の行動範囲とか諸々の制約があるなら決めてもらいたかった。
「あれ、ユウ!そんなに籠持って、今度はゴミ拾いの罰則?」
「今から栗拾いに行くんだよ」
「へー拾って食べるの?」
「ああ、拾った栗でタル」
「ああーー何でもない何でもない!気にすんなって罰則みたいなもんだから!それよりお前はこれからどこ行くんだよ?」
弟が何か言っていたのに、エースに遮られてよく聞こえなかったけれど聞き返すような時間的余裕は私にはなかった。
お腹が空いているのだ。
私はエースに学園長のところへ行くと簡潔に言うと別れを告げて先を急いだ。
コンコンコン
学園長室の扉をノックすると独りでに扉が開いた。
昨日は学園長が居たので全く気が付かなかったが、部屋の主の許可が無いと中に入れない魔法がかかっているのかもしれない。
おずおず中に入るとソファでティータイム中の学園長が居て、私の方を見て一緒にどうかと誘ってきた。
「学園長に相談があって来ました」
「私に直談判なんて、ドキドキしますね。そういう生徒はあまり居ないので。ああ、座って構いませんよ、私優しいので」
「・・・失礼します」
何を考えているのか、口元しか見えなくて表情が窺えないから警戒してしまう。
しかし、ここで臆しては来た意味がないので出された紅茶には手を付けずに話した。
杖を奪われた事による損失と今後の生活費や、私が学園で行っていい範囲はどこまでなのか詳しく教えて欲しいと。
生活費について失念していたようで軽い怒りを覚えたが、何やら考えている様子の学園長がなんて言うのか大人しく待つ。
そして悩んだ末に出た答えが、オンボロ寮以外に出歩けるのは図書館、購買部。
生活費は弟とグリムの分は毎月定額支給され、私の分は給料として毎月支払われる事が決まった。