異世界に連れて来られて三日目が終わろうとしている。
オンボロ寮では今、弟が連れてきたエースとデュースと一緒にトランプ大会をしていた。というのもエースが寮の決まりで帰れない為、デュースと一緒にオンボロ寮に泊まりに来たのである。
明日の"なんでもない日"のパーティにマロンタルトを持参し、寮長に謝罪して首輪を外してもらう作戦らしい。
上手くいくといいねと他人事のように言った(実際他人事である)。
そんな事より私も食べたかったなって考えていると、弟がさり気なく渡してくれるからつい声高に喜んでしまった。
デュースは私のテンションの高さに驚き、エースは声の高さに耳が痛いと言い、グリムにはオマエのそんな笑顔初めて見たんだゾと三者三様の反応を見せた。
何て思われようが三日ぶりのスイーツに心が躍った。
部屋に戻ってスイーツ食べたり寝る支度をしていると、グリムの声が一階から聞こえてきた。まだ起きているのかと呆れながら様子を見にいくと談話室のテーブルを囲むようにババ抜きをしていた。
グリムが弱くてつまらないからお前も混ざれよとエースに誘われて今に至る。
「ふな"ー!!また負けたんだゾー!!」
「お前顔に出るからババ持ってるのバレバレなんだよ」
「ババ抜きばっかり飽きたんだけど」
「しょうがないだろ、グリムがルールわからないんだから」
「・・・・・・眠い」
私が来てから何回目のババ抜きだろうか。
グリムにババが回らないと誰が持ってるか読めない為結構楽しいのだが、グリムが持つと顔や態度に出る為簡単に勝ててしまう。
途中ババをJoker以外にして続けたりしたけど流石に飽きてきた。
「そろそろ部屋に戻って寝る」
「はあ?俺たちが談話室で雑魚寝するってのに自分だけふかふかのベッドで寝んのかよ」
「いいでしょ別に。じゃ、おやすみ〜」
「薄情なやつ」
私が男だったら一緒に雑魚寝しても良いんだけどなと思いながら部屋に行って、ベッドに倒れ込んだ。
本当なら今頃ホグワーツで授業受けたりガヤガヤした食堂で友達と食事したり、寮のベッドでお喋りしてたんだろうなと思うと寂しくなる。
目が覚めてオンボロ寮じゃなくて、本来の寮のベッドだったらいいなと目を閉じた。
四日目の朝もドンドンと玄関のドアを叩く音で目が覚めた。
オンボロなのにどうして毎日来訪者が居るのか意味がわからないし、こんな慌ただしい朝ばかりでうんざりしてきた。
けれど、ここの管理人になったからには出ないわけにはいかないと簡単に身支度をして玄関に向かった。
玄関に目をやると昨日のように知らない生徒が来ていて、どうやら弟達を迎えに来たようだった。
少し離れた場所で様子を伺っていた私に気付いた男子生徒に、軽く頭を下げると驚いた顔をした。
何か不味いことをしてしまったのかと考えていると生徒は一人納得したように、軽く自己紹介をしてきた。
「君も確か魔法使えたよね?これから、うちの寮でパーティがあるんだけど来ない?君みたいに可愛い子がいたらマジカメ映えすると思うんだよね」
「ごめんなさい。寮の掃除をするように学園長から言われているので」
「そっかー残念だけど、また今度遊びにきてよ!歓迎するよ」
社交辞令のような言葉を言ったケイトさんは弟達の準備を早く早くと急がせて、エースやデュースもみんな連れて出て行った。
慌ただしい朝が続くなあとため息をつくと、朝食の準備に取り掛かった。
材料は昨日購買部で買ったものなのだが、恐ろしい購買部だった。なんでも売っていて売っていないものは人間くらいなんじゃないかと思う。
食事は簡単に済ませて、余っている部屋の掃除に取りかかった。
寮を追い出されたエース達にいつまでも不便な思いをさせていたら文句を言われると思ったからだ。
寮の管理は私の仕事なのだから、住人には少しでも快適に過ごしてもらえるようにしなければならないだろう。
慣れない手作業での掃除はとても時間がかかって、気づけば午後2時を過ぎていた。
あと1時間で3時のおやつだなあと思ったら昨日食べためちゃくちゃ美味しいマロンタルトを思い出して食べたくなってしまった。
購買部でスイーツ買って食べようかな、でも無駄遣いかなどうしようかなと寮を出て購買部までの道を歩いていると、頭に耳の生えた生徒が植物園から気怠そうに出てくるのが見えた。
ーーー獣人属の生徒は鼻が良い者が多いので
脳裏に話し合いの時に言っていた学園長の言葉が過って、咄嗟に物陰に身を隠した。気を付けろと言われてもこの程度で良い訳がないので姿くらましをしておく。
獣人属が感じる匂いというのがどのレベルで感じるのかが分からないので臭い消しの魔法は意味が無いように思えた。杖がないと効力も弱くなるので今はやるだけ無駄だろう。
褐色肌の生徒がこちらをチラッと振り返った時は心臓が飛び跳ねたが、そのまま何もなく行ってくれたので一安心した。
やっぱり、人の匂いとか気配とかに敏感なんだと思う。購買部にそういう臭い消しみたいな便利なアイテムは売っているんだろうか。
「臭い消しのアイテムだね、OK!今出してくるよ」
本当にあった。サムさんすごいと感動している。
見た目はちょっと怪しげな雰囲気があるので昨日初めて来た時は妙に緊張してしまったけれど、私の事情を察していろいろと融通を利かせてくれて本当に感謝している。
この世界で一番サムさんが好きだ。弟の次だけど。