はじける前のしゃぼん玉は

エースとデュースにメイドの格好を見られた。
あんな特徴的な服を目の錯覚というには苦しいし、女装が趣味だとは思われたくなかった。
もちろん正直に女ですなんて言ってしまったら、いつ他の人にバレるかわかったもんじゃ無い。

誤魔化し切れる訳が無いだろうけれどやるしか無いと気持ちを切り替え、いつもの学生服に着替えて談話室に行くと全員の視線が注がれた。
私は何食わぬ顔で今会ったばかりのように、みんなにお待たせと言った。

「は?いやいやいや、もっと他にあるだろ!」
「え?何だろう迎えに来てくれてありがとうとか」
「さっきの格好はなんなんだよ。お前女だったのか?」
「何言ってんの?さっきって何?声が聞こえたから降りてきただけなんだけど」

訳わかんないこと言われて戸惑っていますという演技をした。
もちろん、エースとデュースも混乱している。弟は真実を知っているグリムがうっかり言わないように、必死に抑えてくれている。
本当にあるかもしれない弟の猛獣使いの才能に大変感謝した。

あやふやにしたまま二人を急きたてて寮に通じるという鏡がたくさん置いてある建物に来た。
学園までの通り道にある建物の一つが、こんなに神秘的な所だとは思っていなかったので口から凄いという感想が漏れた。
ハーツラビュル寮へ行ける鏡の前に立つと鏡に吸い込まれる感覚になり、目を開けると目の前に荒れた庭園が広がっていた。

元はきちんと剪定された生垣があったんだろうけれど、木が根こそぎ倒れていたり枝が折れていたり薔薇の花は無惨な姿になっていた。
寮生総出でやってるのかは分からないけれど、この状態を元通りにするのは骨が折れそうだった。

「監督生ちゃんにグリちゃんも手伝いに来てくれたんだね!ありがとー!ミヤちゃんも来てくれて助かるよー」

ケイトさんに案内された場所は庭園の入口より酷い有様だった。まさかここを私たちで担当することになるなんて荷が重いと感じた。
根こそぎ倒れた木は再び土に埋めればいいだけだけれど、折れた枝の修復は杖一つで解決するものじゃ無い。

掘れデイフォディオ
「ミヤちゃん、いいねいいね!」

木を植え直すために地面を掘った。
それを見たケイトさんが感嘆の声を上げると、別の場所で作業をし始め弟達もそれぞれ出来ることをやっている。十分掘れたところでエースとデュースに木を支えてもらうように頼んで木を浮かせて、掘った穴まで運ぶ。

「!凄いな」
「おおー!ミヤちゃん即戦力じゃん!」

優しく地面に下ろすと二人に支えてもらい、その間に弟とグリムと私で土を被せていく。
この調子で、倒れた木を植え直していった。
何本目かの木を植え直したところに、この寮の寮長と副寮長がやってきた。

「部外者のキミにまで手伝わせてしまって、すまない」
「久しぶりに杖が使えて楽しいです」
「?気を使わせてしまったみたいだね。
庭園の修復が終わったら"なんでもない日"のパーティのやり直しをするんだ。良ければキミも参加するといい」
「そうだな。これだけ修復に貢献してくれてるんだ、歓迎するよ」
「ありがとうございます」

わざわざ挨拶に来てくれたのかよく分からないけれど、寮長はまだブロットが完全に無くなっていないようで十分な休息が必要なようだった。
魔法の使い過ぎて溜まるブロットというものが私の世界には無かったので、自分にも起こり得ることなのかは分からないけれど寮長を見て辛そうだなと感じた。

それから数日かけて庭園を綺麗に整えていって、薔薇の木がかわいい白い花を咲かせた時はちょっと感動した。
せっかく白薔薇が咲いたのに例のルールで赤に色変えしなければならないなんて、1〜10まで(法律は810条まである)ルールで決められていて息苦しくなりそうだった。

ポンポンと薔薇の色を変えていたらデュースに感動されたので、そんなにこの世界では難しいことなのかと思った。
けれどケイトさん曰くこの世界では初歩中の初歩らしいので、一年生のデュース達にはまだまだこれからじゃんと励ましの言葉をかけた。
エースは私の励ましが気に入らないようで、ムキになってポンポンと色変え魔法を放って薔薇をカラフルにしていた。

明日は"なんでもない日"のパーティだ。私は再び学園長室を訪ねていた。
惜しいけれど杖を預けなければならず、エースには「そのままにしてたって学園長も忘れてるかもしれないぜ」と言われたけれど、忘れておらず大事になったら嫌だったしパーティに参加したいので許可を貰わなくてはならなかった。

「失礼します。学園長、杖を預けに来ました」
「素直に返しに来るとは思っていませんでした。ここの生徒なら、そのまま持っていましたよ」

もしそうしていたなら、学園長が取り返しに来ていたかもしれない。やっぱりエースの言う通りにしなくてよかったと一つ胸を撫で下ろした。
そして、本題に入る。
庭園建て直しに協力した功によってパーティに招待されていて、それに参加したいから許可が欲しいと訴えた。

「ええ、構いませんよ」
「他寮に行かないように行ったのは学園長なのに、そんなにあっさり許可してくださるんですね」
「おや、私"行くな"なんて言っていませんよ。行く必要がありそうな場所への立ち入りを許可しただけです」

許可のない場所へ勝手に行くのはダメだけれど正当な理由があり許可が貰えれば何処でも行けるということだった。
拍子抜けしたまま寮へ帰ると弟とグリムに吉報を報告して、パーティへ胸を膨らませ眠りについた。