朝起きて談話室へ行くと気合の入った顔つきのエースとデュースがいて、ちょうど弟とグリムを連れて寮を出るところだった。私は良い報告待ってるねと彼らを見送った。
これからハーツラビュル寮の二人は現寮長と寮長の座を賭けて決闘するのだ。
昨日寮に帰ってきた弟達を見て、初見の演技をするのが大変だった。
エースの首輪が外れるどころかデュースとグリムも首輪着けていたり、寮長の座を賭けて決闘するとかハーツラビュル寮に変な法律がある事とかもう既に知っていたのだ。
昨日の放課後、早速購入した臭い消しの香水を使用して元の世界に帰る方法がないか調べる為に図書館にいた。
そこで、図書館だというのに普通に会話をし始めた人たちがいた。聞き覚えのある声に室内を探すと目的の人達が話しているのが見えた。
首輪を外してもらいに行ったはずなのに、逆にみんな首輪をつけられるなんて馬鹿にも程があると思った。
けれど、そんな単純な話ではなかったしエースの歯に衣着せぬ言葉に胸を打たれて、私はとても恥ずかしくなってその場から動けなくなった。
普段の気さくで冗談を言い合っているエースからは想像していなかったのだ。
こんなに確りとした意見を持ち、尚且つそれを面と向かって言える強さがエースにはあって私には考え付かなかった言葉だ。
親のせいで植え付けられた価値観のせいで周りから孤立してしまっても、友であれば本当に友を思うのであれば諭したり注意したりしてあげるのがその子の為だなんて思い浮かばなかった。
エースにとってはそれが当然であるように言っていて、その時から私のエースを見る目が変わった。
弟達が寮を出てから帰ってくるまで、ずっとそわそわしながら建物の修繕を行ったけれど全く捗らなかった。
そして、玄関の扉が開く音がして私は駆けていくと首輪の外れたエース達がいた。
寮に戻ってきた弟達はとても疲れた様子だったけれど万事上手くいったようで、すっきりとした顔をしていた。
「オーバーブロット?」
「強力な魔法を立て続けに使用すると、ブロットが溜まってなるらしい」
「もうホント闇落ちバーサーカー状態で超ヤバかった」
「そんなところにユウが居たの?怪我とかしてない?」
「そんな心配しなくても何も無いよ」
「あっそうだ、寮の庭がめちゃくちゃでさーミヤも手伝いに来て欲しいんだけど」
手伝うのは別に構わないけれど、杖は学園長に取られて持っていない上に契約上他の寮に行けないことを話した。
この話は弟にも言っていなかったので驚いている。私がこの契約を破ると生活が危ぶまれるので絶対に守らなければならないと思っていた。
「そんなん学園長にお願いして限定的でも返して貰えば良いじゃん」
だからエースのような考えなんて一度も思いつかなかった。人助けだと言えば学園長も杖を返してくれるだろうというエースの言葉に、私はとても感謝した。
私の殊勝な態度にエースが戸惑って、昨日までの私ならムッとして毒のある一言が飛び出したかもしれないけれど全然そんな感情にはならなかった。
「そうですねえ、ハーツラビュル寮生が貴方に助けを求めたと。そして貴方はそれに応えたいんですね」
「寮が片付くまでで構いません。杖を返してもらえませんか」
「そういうことならいいでしょう」
エースが言ったようにちょっと大袈裟な態度で言ってみたら成功した。
数日ぶりの杖の感触にホッとしていると、丁度渡そうと思っていたものがあると一着の服を手渡してきた。
それは、黒を基調とした服で白いフリルのエプロンまで付いている所謂メイド服だった。寮内で仕事をする時はこの作業着を着用するようにと学園長が言った。
「絶対着なければいけませんか」
「貴方が学内を彷徨く時は学生服を着てくださいね、目立ってしまうので。制服は大事ですよ、決まった服を着るとまず自分の意識が変わりますしその人の身分も一目で分かる」
何事も形からですと、何を考えているのか全く分からない仮面の男を凝視した。
何か特別な意図があるのか、それとも特に意味はなく着て欲しいだけとか。もし後者なら、意識が変わるというよりも気持ち悪いという感情になるも作業着を受け取り学園長室を出た。
「エース!」
「ミヤじゃん、学内で会うなんて珍しいな」
「学園長から取り返したよ。限定的だけど」
「へえ、よかったじゃん」
放課後に行くからよろしくとだけ言って、自分の寮に戻った。
久しぶりの杖に私は嬉しくなって、次から次へと魔法で寮の壊れた場所を治して行く。手作業とは比べ物にならないくらいスムーズに進むのが嬉しくてしょうがない。
初めて杖を手にしたときに近い感情に支配されていた。
寮の修繕が捗った分魔力も消耗した為、倒れ込むように談話室のソファに横になった。時計を確認すると1時を過ぎたくらいだったので、そのままソファに身を委ねた。
玄関が開いて私を呼ぶ声がした。ぼんやりする頭がエースとの約束を思い出して飛び起きる。
「ごめん!寝てたー!」
「みんな待って・・・うわ、ミヤその格好は今マズい」
弟に言われて自分の服を見て血の気が引いた。
学園長にもらった作業服を律儀に着るなんて馬鹿だった。時間に余裕があるからって談話室で寝たのが不味かった。
私が部屋まで姿現しするより先にエースとデュースが来てしまったのが一番マズかった。
「は・・・?え、お前女だったの?」
「まじかよ」
今更だけど"姿くらまし"して部屋まで逃げた。
title by : 溺れる覚悟