07


久しぶりに仕事が長引いて、少し怠さを覚えた体で駅から家まで早歩きで帰れば、自室の隣の電気は煌々とついていた。
私の方が仕事が終わることが早く、ここしばらくは私の部屋に来ることが多かった。
珍しいとか、久々だなとか、そんなことを思いながら着替えて、彼の家の扉を開ける。
すると、今まで廊下や玄関に置いてあったものがいくつか無くなっていた。


「あぁ、おつー。」

「おつかれ…。」


扉をあけて、彼が顔をのぞかせたその部屋に入れば、今まであった小物類がごっそり無くなっており、小さい棚なんかも小さく隅に分けてあった。
質素で、生活感のない部屋。
代わりに、段ボールがあちこちに置かれていた。


「…あー、準備か。」

「まぁ、そんなに日は空けないつもりだから。」

「そう。」

「というわけで、夢の家行こ。」

「へ?」

「そっちのがくつろげるっしょ。」

「あ、あぁ…そういうことね。ちゃっかりしてるわ、ほんと。」

「まぁまぁ。」


段ボールで溢れた部屋を背に、先ほど出た部屋に二人で戻る。
ここには、乱雑に置かれた段ボールもなければ、その中に仕舞われた家具も小物もない。
いつもと代わり映えのない部屋。


「いつだっけ?」

「んー、決めてないけど、まぁ早いうちかな。」

「そっか。」

「なに?寂しい?」

「しばらく静かになるなってホッとしてるくらい。」

「それは残念。」


恋しがったり寂しいって泣いたり、そんなことができる関係でもないのに、なにを聞いてくれるんだこの男は。


「まぁ、どうせまた来るから、寂しいもなにもないか。」

「変わらない顔してヒョコッと現れるんでしょ、どうせ。」

「まぁまぁ。」

「まぁまぁじゃないっての。」


身勝手に振り回されるこの距離感が、心地よくて焦れったい。
でも、それをどうにか変えたりできるほどの勇気も持てない。
ならいっそ、もう少しでもいいからこのままで。
甘い蜜をすすっていたい。
できるだけ。
できることなら。
もう少し。


「あ、そういえば夢。」

「ん?」

「この前の武器出した?」

「ん。」


お望みであろうものを選択して画像を見せると、彼はクエストをこなしながら器用に確認する。


「うわ、なにその数値。」

「ぶっこわれでしょ。」

「いや、イベ限でもないのにこれはヤバイ。」

「まぁ、出した私を敬えよ。」

「は?今からコンビニ行こ。」

「え、マジで言ってる?」

「マジマジ。これ終わったらすぐ出るから。」

「ちょ、待って。」


思い立ったら即行動。
ただそれに付き合う身にもなってほしい。
ラックにかけてあったショールを手に取り、鏡の前で軽く髪を整えて、最後にマスクをする。
その頃には彼もクエストが終わったようで、鏡ごしに目があった。


「変装?」

「いや、すっぴん見られたくないだけ。」

「今更。」

「あんたじゃないわ。」


軽口を叩きながら、二人で家を出て、鍵を締める。
春先とはいえまだ夜は肌寒い。
息が白く濁るとまではいかないけど。
コンビニについて、彼は真っ先に魔法のカードの前に向かう。
私は温かい飲み物を探しに行く。


「決まった?」


目的のものが決まっている彼はそそくさとそれを手にとって私の元へ来た。
私はというと、なにが飲みたいか悩みながら見ている。


「カフェオレか、ミルクティーか。」

「両方。」

「んー?」

「俺カフェオレ飲むから、あげるよ。」

「…なるほど。」


彼のありがたい提案を受け取り、両方手に取れば、それを横から持っていかれた。


「取られた。」

「めんどいから一緒でいいでしょ。」

「じゃあそれで。」


お互い働いているので、多少の出費にゴタゴタ言うほどでもない。
ただ、たまにあるこう言う優しさに、なんだか不思議な気持ちを覚える。
ずるい私は、それに気づかないふりをして、コンビニを出る。
甘い蜜を、すすっていたい。



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