05
誰か教えてください。
私はこれをどうしたらいいのでしょうか。
目の前にあるスマホには、開かれているLIMEアプリ。
そのメッセージ欄の一番上には以前登録した[幸くん]の文字が書かれている。
とは言っても、特に何かやりとりを交わした形跡はつい先ほどまでなかったはずだ。
ということは、つい先ほどまで友人との連絡を交わしていたはずのこのLIMEについ先ほど幸くんからメッセージが送られてきたということだ。
【今暇?】
暇かと問われればそれはもう学校もお休みですしこの花の休日に予定も入れずにただ延々とベッドでごろついてるだけなわけで、これ以上ないくらいには暇です。
そりゃもう暇です。
しかもその休み中に暇かと自分の最推しから問われれば、暇じゃなかったとしても暇だと答えましょう。
私はそう言う女です任せてください。
勢いを付けて幸くんからのメッセージを開き、少し緊張で震える指で返事を返す。
【めっちゃ暇です。むしろ幸くんに言われれば暇じゃなくても暇になります。何かございましたでしょうか。】
三回見直して、変わらず緊張に揺れる指で送信ボタンを押す。
なんの緊張かと問われれば、これが幸くんに届いてしまう事実だ。
文明の利器ありがとう。
でも緊張するものはするんだ。
踊りつつも躊躇いが残るこの心模様をウンウンと楽しんでいると、LIMEにメッセージが届く音がなる。
画面に目を向ければ、幸くんから新しいメッセージが届いたところだった。
【買い物行くんだけど、付いてきてくれない?】
【今すぐ行きます】
そそくさと準備を始める。
服も自分が好きなものにして、軽く化粧もする。
髪の毛に櫛を通して、その髪を軽く縛る。
そしてカバンに必要なものを入れて行く。
この間わずか10分。
人生で一番素早く動けた時間だったと思う。
そうして私は家を出て、早歩きで駅に着いた。
電車を待っていると、カバンからLIMEの着信が聞こえた。
危ない、マナーモードにしなければ。
ケータイを取り出し、先にマナーモードにしてからLIMEを開く。
そこには幸くんからの新しいメッセージが届いていた。
【いつ着く?】
【もう電車乗りました。5分で天鵞絨駅に着きます。】
【早すぎでしょ。駅で待ってて。】
電車が到着し、それに乗り込む。
天鵞絨駅に着くまでの五分が永遠のように感じられた。
その間、延々と頬が緩むのが止まらない。
ケータイを握って胸元で祈るように抱えて、その幸せを噛みしめる。
そうこうしていると、天鵞絨駅にやっと到着した。
一時間くらい電車乗ってた気がする。
改札を出て、隅にある柱に身を寄せると、しばらくしてから目の前にはスカートを履いた幸くんの姿が見えた。
その姿は制服姿とはまた違い、いや違えど変わらず可愛い。
本当、やはり天使か?
『あんた早すぎでしょ』
「幸くんに呼ばれたので、当たり前です。」
『意味わかんない。…あ、鼻先にまつげついてる。』
そう言いながら、彼が私の顔に手を伸ばした。
優しく私の鼻先を払って、まつげを落としてくれたようだ。
それに対して私はどんな顔をすればいいかわからず目を思い切り閉じる。
すると、目の前から吹き出したような笑い声が聞こえてきた。
同時に手が離れて行く気配がして、私はおずおずと目を開ける。
すると、目の前の彼はなぜかめちゃくちゃ笑っていた。
「えっと…あの…?」
『今の顔、ひっどい』
そんなに面白い顔をしていたのか分からないが、幸くんが私なんかで笑ってくれた。
その事実に覚悟を決める。
「幸くんのためならいつでもやりますから!」
『あーはいはい。今日もウザイし。ほら、行くよ。』
幸くんからの言葉なら罵詈雑言も愛しい。
幸くんが駅から歩いて行くのを眺めて、いつもと変わらない5メートル後ろから歩き出す。
すると、少し進んだところで幸くんが足を止めた。
私も足を止める。
『あのさ。』
「はい。」
『今日はオレが誘ってるんだから、別にそんなに離れなくていいでしょ?』
「私なんかが幸くんの隣を歩くだなんて許されるわけないじゃないですかそんなまさか。」
『あーもう、面倒臭い。いいって言ってんの!早くこっちに来て。』
いかにも面倒臭そうに、私に詰め寄って私の手を引く。
私はもれなく内臓が飛び散りそうな気持ちになる。
まさかそんな手を触れるだなんておこがましいことこの上ないことをして、さらに隣を歩くことを求められるだなんて申し訳ないとかってレベルじゃないなこれ。
▽
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