04


「はじめまして。」


日の光に透けて、キラキラと光るような金髪で彼は笑った。


「新しく入った安室さんよ。」

「…はじめまして。」


学生時代の同級生がニコニコと笑いながら紹介してくれた彼は、正直少し怖かった。
褐色の肌と、その光る金髪と、一瞬見せた、私を見定めるようなその瞳。
なによりも、笑わない笑顔を向けてくるその人自身に、何か暗いものが落ちているような気がして。
挨拶を交わしつつも、梓の後ろに半身ほど隠れた。


「もう、夢の人見知りはいつ治るのかしら?」

「…いつ、だろうね。」


それとない言葉を返して、私は彼から視線を逸らした。
それでも痛く刺さる視線に、私は自分が彼にとってどういった存在なのか見定められているんだろうなとまたその身を縮こませた。
私にとっての梓という存在は、保護者なわけではない。
そんな彼女に心配をかけてしまっているな、と申し訳ない気持ちになりながらも、その体を彼に向けることはしない。
私の様子を伺いながら、苦笑する梓の顔を見て、私の胸はとたんに罪悪感で埋め尽くされる。
かといって、彼に対する恐怖がその感情でまぎれるかと言われれば、決してそういうわけではない。
申し訳なさと罪悪感で埋め尽くされた気持ちが透けないように、私はうつむいた。


「…夢さんは、あまり僕のことが得意ではないみたいです。」

「この子、あまり男性に免疫がないみたいだから、ごめんなさい安室さん。」


吐息を多めに吐いて、そう言った彼に、梓も言葉を返す。
私は、顔を上げることなく、その会話に耳を傾けた。
視界にはいる自分の靴のつま先が、すこしハゲてきているのを、薄ら眺める。


「仕方がないことですよ。では、そろそろ上がりの時間なので、僕はこれで。」

「お疲れ様です。」

「お疲れ様です。」


会話もそこそこに、彼はそのまま私が背を向ける扉に向けて歩き出した。
その際に、彼を横目に見れば、鋭く尖った彼の視線と交わった。
それはほんの一瞬だったが、あまりに特徴的で、唐突にナイフに刺されたかのような痛みを覚えた。
悪意、善意、そういった言葉に近い、人間の本質的なものを探る視線。
鋭い切っ先で胸をえぐられたかのような感覚は、しばらく消えることはなかった。


「安室さんはいい人よ。少しでも夢の男性克服の一歩になると思ったんだけどなぁ。」


彼女の期待は、人によってはありがた迷惑のように聞こえるかもしれないが、私を思いやってのことだとわかっているので、代わりにまた申し訳なさが私の心を絞めた。
顔を上げれば、にこにこと笑いながらも、彼女の眉尻は下がっていた。


「…ありがと梓。」

「まぁ、無理しなくていいんだけどね。でも私、夢の結婚式の友人スピーチ諦めないから!」

「…いつになるかなぁ。」

「いつでもいいのよ。達成できれば。はい、夢カフェオレ。」

「ありがとう。」


音を立てて机に置かれたそのマグカップを手に取って、中に入ったそれをゆっくりと喉元へ流していく。
甘くて暖かいそれは、体を巡っていくようなじんわりとした感覚と共に心を落ち着かせてくれた。


「私の分もよろしくしなくちゃね。」

「…なるべく人は少なくしてね。」

「それはどうだろう。超イケメンエリートを捕まえる予定だからなぁ…」


途方も無い彼女のその目標は、なんとなく叶えられるんじゃ無いかなぁなんて、身内贔屓なことを考えながら、穏やかに流れる時間に身を任せる。
この心地の良い時間が、私の至福だ。


「で、仕事はどう?」

「うーん…可もなく不可もなく…って感じかな。」

「新作楽しみにしてるね。」


にっこりと笑う彼女の笑顔は、大人っぽく見える彼女を少しおぼこく見せてくれる。
それがかわいいな、なんて思う。
なんだかんだ言ってこの付き合いの長さだ。
私はそれなりに…なかなかに、彼女のことが好きだと思う。
彼女も、私のことを気に入ってくれてはいると思う。
大切にしたいと。
穏やかな日差しの中、マグカップの中にあるカフェオレを飲んで、私はうとうととした微睡みに変わらず幸せを感じていた。




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