私は手すりに座って、余裕を見せつけるかのように笑って見せた。
「奴らに勝てるほど強いかどうか確かめさせてよ。そうだなまずは……ジョセフ・ジョースター!アナタからだ!」
「えっ、わしか!?」
「確かめるだと?」
「一番弱っち、いや、戦闘力の無いスタンドのジョースターさんにナニ言ってやがる!」
「ポルナレフ、それはちょぉーっとわしに失礼すぎやしないか?」
「おい!貴様ッ!
「はあ!?」
下心からジョースターさんを指名したが、彼に対するあんまりな物言いについつい言い返してしまった。彼らはそろってきょとんとした表情を浮かべている。しまっったッ!!!!
「敵──だろう?何を言ってるんだ彼女は」
「いったい彼女は……何者じゃ?わしのことを知っているみたいだが」
「よ、よくわからねぇーが知り合いか?ジョースターさん」
「ううむ……分からん」
「わ、私が誰かなど!そんな事はどうでもいい!いくぞ!」
私が茨を出せば、最初に動いたのは銀の戦車だった。
「女の子にゃあ攻撃したくねぇが……肉の芽を抜いてやるためだ!ちょいと大人しくして貰うぜッ!」
「おぉっと」
奴のスタンドが繰り出した突きを私は手すりに座ったままの姿勢で躱した。
「な、なにィっ!?」
「ほぉ、座ったままの姿勢でジャンプしやがった」
「スタンド……ではない!なんという筋力!」
「いや、あれは──まさか」
「ハッ!だが空中に舞えばおれのチャリオッツの攻撃は避けれまい!」
続けざま攻撃してきたスタンドのレイピアを指に巻き付けたスタンドと一点集中させた波紋で受け止めた。
銀の戦車は再び手すりに降り立った私の指からレイピアを剥がそうともがいている。
「こ、これは!?突けもしねぇ!離れもしねぇ!」
「フフフ……私のスタンドは“この力”の伝導率が良くてね……茨のスタンドだけじゃ受け止めきれない攻撃も難なく止められる……そしてなおかつゥ!!」
──近距離系のスタンドにならこのまま波紋を流せば本体にまで届く!
指からさらに強い波紋を流すと、銀の戦車の男はすかさずスタンドを消してよろめいた。
「どうしたポルナレフ!」
「わ、わからねー、電気でも流されたかのような衝撃が……たまらずチャリオッツを引っ込めちまった」
「フフ、勘のいい奴!もう一瞬スタンドを消すのが遅かったら、そのままお前は再起不能になっていた。貴様らのスタンドは本体から切り離せないだろう?スタンドでも素手でも私に触れればそれで勝負は着く……つまり貴様らは私にダメージを与えることは出来ないッ!」
「──これならどうかな?“エメラルド・スプラッシュ”!!」
「うわっ、と!」
私の茨がはじき返したが私は衝撃で手すりから落ちた。
「やるなァ!花京院」
「油断するな!海に落ちただけだ!」
「おかしい……水面に落ちた音がしねーぜ」
男たちが船から身を乗り出して私を見下ろす。
平然と海の上に立つ私を見てまたもや驚きの声を上げた。
「なんだぁーッ!?水面に立ってやがる!」
「足の下から波紋が広がっている!きっと何か仕掛けがあるはずだ!」
「奴のスタンドはいったい……」
「能力の予測が付かない……くっ、手加減をしていたらこちらがやられる!やむを得ん!
「待つんじゃアヴドゥル!あれは──あれは、スタンド能力ではない!!」
「なっ!?」
ジョースターさんが待ったを掛けたが、すでにスタンドからは炎が吐き出されていた。
「あぁ!しまった!」
「大丈夫じゃ、わしの考えが正しければ彼女は……」
「──
私は波紋疾走で水面を弾き、向かってきた炎に海水を当てて逸らした。
「やはりあれは“波紋”っ!!彼女は波紋の呼吸をしている!」
「波紋ですと!?あんな若者が!?」
あのアラブ風な男──魔術師の赤はどうやら波紋を知っているらしい。
ネタばらしも済んだようなのでもう遊ぶのは止めよう、と私は水面からジャンプをして再び船の上に戻った。
「オラァッ!」
「うわァー!」
戻った──途端に、体に輪状の何かがいくつも被せられ、そのまま甲板に転がされた。
「ったく手間取らせやがって」
「イテテ、これは……浮き輪?」
「その変な力は使うなよ。俺のスタンドは素早い……妙な動きをしたら二人がやられる前にてめーの頭を砕くぜ」
「くっ、星の白金……噂通りいけ好かん奴……」
「手荒な真似はしたくない。肉の芽を──ん?肉の芽が消え──ハッ!波紋の呼吸を使ったから消えたのか!」
「えっ!じゃあ何故彼女は正気に戻らないんだ」
「これが正気なんだろ」
「ふ、……ふふフハハハハ!」
私が笑い出したことで彼らは再び警戒を強める。
星の白金が私の頭を砕こうと構えたが私は両手をどうにか出して降参の意を示した。
「待って待って降参、ジョースターさん一行の強さが気になってつい。あなた方は強い!負けを認める!本当の目的は戦うためじゃなくって、これを、ジョースターさん、あなたにお渡ししたくて」
動きづらいがなんとかポケットから手帳を引きずり出し、彼らの方にほうり投げたが、黒の学ランの男は一瞥をしただけで誰も拾わないようにそれを踏みつけた。
「……見もしないのはひどいんじゃない?」
「てめー、肉の芽は途中から消えていただろ。なのに何でおれ達を挑発するのを止めなかった?」
「そういえば……波紋を使えるなら肉の芽などすぐに消せたはず」
無理矢理拾おうとしたジョースターさんはハッとして手を引っ込めた。
「色々事情があってね──肉の芽は植えられたふりをしてた。挑発したのは悪かったけど、どれだけ強いか試したかっただけ」
「ふん、どうだか」
「波紋使いでもDIOに魅入られる場合がある──君はまさか、DIOに忠誠を誓っているのか?」
「肉の芽で操られているように見せかけて何か企んでやがるんじゃねぇのか」
それを聞いた前髪の長い男がアラブ風の格好をした男と目配せをした後、スタンドを船へと這わせ始めた。仲間なんて待機させてないのに……抜け目がないとは聞いていたが、さすがの警戒心だ。
こっそりやっているようだが私のスタンドも船に巻き付いているので筒抜けである。
「まさか!私は誇り高き波紋戦士!せいぜい柱の男の餌にしかならない吸血鬼風情に忠誠を誓うですって!?ありえない!」
「な、なぜ“柱の男”を知っているんじゃ!?それにいったい誰から波紋を教わったんだ!」
「フフフ、私はあなたの妹弟子!豪烈子……またの名を烈子・ルドル・アドルフ・フォン・シュトロハイム!」
「シュトロハイムじゃと──ま、まさか君はあのッ!」
ジョースターさんが驚く一方、他の男達は話が掴めないのかきょろきょろと私とジョースターさんの顔を交互に見ている。
「なァ〜ジョースターさん、やっぱり知り合いみたいだけどよ、うぉっ!?」
「うわ!」
「な、なんだ!?この揺れは」
船がいきなり揺れたと思ったら、何かに吸い込まれるようにぐるぐると動き始めた。
「てめー、やはり仲間を待機させていたか」
「だから誤解だって……あいつ何か喚いてるけどあんた達の知り合い?」
私が指を差した方向を男達も見る。水面に誰かが顔を出して騒いでいるのが見えた。
あっと誰かが叫んだ。
「オーノー!あいつは偽船長のスタンド使い!
「生きていたのか……」
「ちっ、とどめ刺しとくんだったぜ」
「へーあいつが月のカードの……」
「とぼけんじゃねー!てめーの仲間だろ!」
「違うってほら」
私は暗青の月が喚いているのを聞くよう促した。
『くハハハハァーー!!まぁ〜だ海の上をうろちょろしてたとはなァ〜おれが船を爆破してやったおかげだなぁーっ!香港沖での恨み!晴らさせてもらうぜ!』
みたいなことを喚いているのがうっすら聞こえる。
「あいつ……ここまで自分のスタンドで泳いで来たのか?」
「おいおいなんつー執念の持ち主じゃ」
奴の口振りで自力で来たと分かってくれたのか仲間だと疑う声は出なかった。
しかし、そんな呑気していたらいつの間にか船は大きな渦に巻き込まれて今にも飲み込まれてしまいそうになっていた。
あんなに離れていた暗青の月が近くに見える。奴は渦の中心で笑っている。
「くくく──こんなちっぽけな船くらいなら怪我を負ったおれでも沈められる!この渦の恐ろしさは貴様らも覚えているだろう!もう同じ失敗はしねー……このまま纏めて死にな!!」
「奴め!船ごと我々を葬る気だ!」
「くそっ!水中には飛び込めん!だがこのままでは!」
「あの野郎、もういっぺんおれが」
「止すんじゃ承太郎!今飛び込んでも奴はお前が溺れるまで近づきはしない!」
彼らは水面にいる暗青の月には手が出せないようだ。
無理もない。
だがあれくらいジョースターさんであれば、波紋で水面に立ちつつ強力な波紋を流すことで敵を倒すことが出来ると思うが……波紋の修行を止めた今の彼では無理かもしれない。
私は急いで浮き輪を脱ぎ去り、ジョースターさんの元へ走った。
「じゃあどうするってんだジジイ!」
「それは──」
「私に任せて貰える?」
「あ?」
私の申し出に黒い学ランの男が睨んできた。ガラが悪いな。
「てめーになにが出来る。そのツタみてーなスタンドじゃあいつに近づけただけでウロコで八つ裂きにされるぞ」
「私のスタンドは応用力が売りでね……波紋戦士と相性は抜群なんだよ」
私はスタンドを大量に出し、丸く固めた。
直径五メートルは優にある茨の固まりに波紋を込めていく。
「コォォォォ……」
「おいおい何やってんだァ!?」
「おいてめーまさかそれ、」
「フハハハ!これだけ大きければウロコなぞで切れまい!喰らえ!全力で込めた波紋をッ!」
「!……な、なんだ!?何だそれはどうする気だァァーーーーッ!!」
「ぶっ飛ぶほど!──シュートッ!!」
私が敵に向かって茨を海に投げ込むと、海面は衝撃で波打ち水面が膨らみ、そして大きな泡のように弾けた。船は大きく煽られ振り落とされそうなほど揺れる。
辺りに飛んだ水飛沫が美しい虹を描く中、私の高笑いが響く。
暗青の月の姿は見えなくなった。
「ブワーハッハ!シュトロハイム家は世界一ィィ!!」
「な、な、なんと……」
「やれやれ、なんつー力業だ」
「おっかねー……」
「彼女が最初から船ごとやる気なら我々は全員やられていたな……」
「でもまあ、どうやら本当に敵じゃないようですね」
私が自慢するように満面の笑みで彼らを見ると、全員に目を逸らされた。