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「それでは改めてよろしく。シュトロハイムでもいいけど長いから豪か烈子って呼んでくれると分かりやすいかな」
「よろしく、ご存じの通りわしはジョセフ・ジョースター。こっちは孫の──」
「空条承太郎だ」
「僕は花京院典明です」
「おれはポルナレフ。ジャン・ピエール・ポルナレフ──」
「おい、カッコ付けるんじゃあないまったく──モハメド・アヴドゥルだ」

目を覚ました船員達によって、ようやく船が港へと動き出す。
ジョースターさんが人払いをした部屋で改めて自己紹介を始めた。
国籍がバラバラなので大変おもしろい。

「なっなんと!やはり君はあのシュトロハイムの孫!確かに奴は“孫に波紋の才能があるッ!”などと手紙で散々自慢していたが──」
「そ、そんなこと言ってたんですか……」
「波紋か……吸血鬼のDIOといい世の中にはまだまだ知らないことがたくさんありますね」
「ほんとかよぉーおれは信じらんねぇぜ」
「波紋のエネルギーが形を持つから『幽波紋』と呼ぶのだ。チベットの方に何人か波紋を使える人を知っている。スタンド使いではないから今回の旅には誘わなかったが……」
「アヴドゥルは顔が広いなぁ〜」

さっきまでの出来事が無かったように和気藹々と話が進む。

「しかしあの赤ん坊がのう……そういえば君はどうやって波紋を習得したんじゃ?」
「実はスタンドが出現した時に何かわかるかも、と祖父がリサリサ先生と連絡を取ってくださって、そのまま修行することになったんです。私はあなたの妹弟子ですね」
「むう……シュトロハイムの奴、わしには何にも言わなかったのに母さんとは連絡を取っていたのか」
「いえ、祖父もリサリサ先生たちも連絡するか?とは聞いてくれていたんですよ。でも私が口止めしていたんです!私がもっと強くなったらお会いしようかと……はぁ、貴方とはこんな形でお会いしたくなかった……」
「豪……だったか?このジジイのどこをそんなに気に入ったんだよ」
「なにィ〜この方の功績をッ!柱の男との死闘を知らないとはッ!!あなた本当に彼の孫!?」
「残念ながらな」
「キィー憎たらしい!」

フン、と鼻で笑った空条に腹が立ったが、まぁまぁと言いながら花京院がお茶を勧めてくれたのでありがたくいただいた。

「うーむ、まさか今の時代波紋の修行をする子がいるとは……しかもこんな若い子が」
「祖父からあなた方の話をうんと聞いていたので憧れが──はあ、惜しいですね。あなたが波紋の呼吸を続けていたらDIOなど敵ではなかったでしょうに」
「だって……あれ……疲れるんじゃもん」
「そんなに強かったのか?ジョースターさんは」
「当然!私たちが吸血鬼のことを何も知らずに過ごせるのはジョースターさん達のおかげなんだから!フン、究極生命体カーズに比べればDIOなどただの食料!けれど私は思い上がっていた……奴に勝てませんでした……お恥ずかしい」
「DIOに挑んだのか!?」
「そのことを言いに来たんだろ?何があったか詳しく教えてくれ」
「もちろん──少し前、あなた方が旅に出る前、リサリサ先生からDIOの事を聞いたんです。私のスタンドは情報収集に優れている。どうにか情報を集めてお役に立てないか、と」

私はスタンドのお告げに従い、単身エジプトのカイロに向かってスタンド使いを捜すために行動したことを話した。

「うーむ、初めて見たときにも思ったが、なんだか君とわしのスタンドは似ておるのう」
「おそらく波紋戦士にもっとも適したスタンドがこのカタチなのではないでしょうか……というわけで、私はDIOと戦ったんです。その時のことはこの手帳に詳しく書かれています」

私は懐から手帳を取り出しテーブルの上に置いた。……空条の足跡がうっすら付いている。
アヴドゥルさんがそれを受け取り、ページをめくる。

「なっ!これは──」
「この手帳には出来る限り調べた敵の情報も書いてあります。一番後ろ──DIOとは何が起こったかどうなったか、ありのままを書き記してあります。残念ながら、私のスタンドではDIOの事は見れなかったのですが……奴の能力を知る手がかりとなるはずです」
「な、なんと……こいつは!聞いたことがあるスタンド、初めて見るスタンドもいる……九栄神だと?こんな奴らまで……!きっ君はこれを一人で調べたのか!?」
「……それはノーコメントで」

ほとんどホル・ホースか祖父の情報を頼ったとは言わないでおこう。

「DIO──何なんだッ!奴の能力は!」
「【たった一瞬で私のスタンドは引き裂かれ、額には肉の芽が“すでにあった”】超スピードか敵の動きを止めるのか……」
「まるで時間を止めているかのようですね」
「そんなこと出来るスタンドがいるわきゃね〜だろぉ〜」

手帳を見ながらあーでもないこーでもないと話し合う男達を尻目に、ジョースターさんが話しかけてきた。

「肉の芽を植えられたのを逆手に情報を集めたってのは分かった。奴と戦った時は波紋は使わなかったのかな」
「えぇ、波紋使いだと知られたらDIOは何が何でも私を殺したでしょう。情報を貴方に渡すまでは死ぬ気はなかったので……くっ奴が普通の吸血鬼なら倒せていた!悔しい!私にもっと力があったならッ!!」
「ホントに女かこいつは」
「何だと?」

空条のあんまりな言いように腹が立ったが、また花京院が「こら承太郎、女の子にそんなことを言うもんじゃない」とか言って諫めてくれたので大人しくすることにした。花京院はいい奴。

「そういえば──豪、さん?あなたはいくつでしたっけ」
「十六。もうすぐ十七だけど」

そう答えると花京院と空条がぎょっとした。

「てめー意外に年近いんだな」
「どういう意味なのそれ」
「き、君、僕と同い年なのか……同い年でそんな映画のスパイみたいな……」
「え、学生服着てるから学生だと分かってたけど……花京院って同い年なの」
「じゃあ二人ともおれの一個下か」
「はぁーッ!?空条って一歳しか違わないの!?」
「それは僕もちょっと驚いた」

学生らしい話題にわいわい騒いでいたら、アヴドゥルさんが「君のスタンドはタロットの暗示を持っていないのか?」と手帳を指しながら聞いてきた。

「【死神】と【世界】の項目は何も書かれていないが……君はこのどちらかなのか?」
「いいえ、私のスタンドには名前もないので──皆DIOかエンヤ婆が名付けているそうですが、私が仲間になった後はすぐにあなたたちが動いたのでそれどころじゃなかったんでしょう」
「ふむ、そうか。ならば占い師であるおれが君のスタンドに名前を付けてあげよう。一枚、引いてくれ」

タロットカードの束を差し出され、適当に一枚引いた。

「んーとこれは……」
「それは『隠者』のカード!君のスタンド名は『隠者の黒ハーミットブラック』!でどうだ?」
「隠者の黒……それ、いいですね!お揃いですジョースターさん!」
「お揃いじゃな妹弟子よ!ハッピーうれピーよろピくねェ〜」
「ハッピーうれピーよろピくねェー!」
「くだらねー」
「こら承太郎」

「ねぇーっ!もうすぐ港に着くってー!」と女の子が呼びに来るまで話し合いは続いた。