#01#

「ん〜……」

今日もよく働いた。
1日の終わりの、熱めのお風呂が身に染みる。お風呂の中でグッと伸びをすれば、ちゃぽんと小さな音を立てて水面には波紋が広がって行く。そして深く息を吐けば、疲れがお湯に溶けていくようで、最高に気持ちがいい。

それに何と言っても、明日は待ちに待った休日だ。今日は早めに寝て、久しぶりにコーヒーを淹れてのんびりしようか。それとも部屋着でゴロゴロ……、なんて言うのもそそられる。普段が忙しい分、こんな時だけはゆっくりしたいなぁ、なんて思いながらお湯に肩まで浸かった。

「ふぁ〜……、」

肩までゆったりとお湯に浸かっていると、急激に眠気に襲われた。これでは湯船で寝てしまう可能性があり、私は湯船から立ち上がり、ノロノロと寝る支度を始めた。ふと時計を見れば、時刻はそろそろ日付が変わる頃になっていた。

もうこんな時間か、長時間働いていると、1日が終わるのも早く感じるな…。と、呑気な事を考えながら、もそもそと布団に入り、抗えない眠気に私は目を閉じた。


***


ヴゥー、ヴゥー、ヴゥー。

「んっ、………」

布団に入って、どのくらい経ったのだろうか。枕元でけたたましくなるスマホの音で、私は目を覚ました。時計を見れば深夜の午前3時。全く、こんな時間に誰よ。非常識にも程がある。多少イラつきを感じつつも、もしかしたら実家からの電話かもしれないと、嫌な予感に若干ヒヤヒヤしながらディスプレイを見た。

「……降谷、何て読むの。れい?みおだっけ?」

未だにぼーっとする頭でスマホを見つめた。手の平の中のスマホの着信は途切れる事はない。
けれど、おかしい。ディスプレイには私のスマホには登録していないはずの名前が出ていているのだ。が、これは出た方がいいのだろうか。こんな時間だし、出会い系とかだったら嫌だな…そんなサイト見た心当たりないけれど。

「あ、切れた…っうわっ!」

悶々と考え事をしていると、スマホは留守電に切り替わると同時に、着信が切れた。ホッとするのもつかの間、再び鳴り出す着信音。世にも奇〇な物語かな。

これは出た方がいいのかもしれない。こんなにしつこく電話をかけて来ているのだ。この降谷さんて人は、何か困っている事があるに違いない。と、生唾を飲み込み、通話をタップした。

「…も、もしもし?」
「!、はぁ。井上、やっと起きたか。こんな時間にすまないが事件が発生した」
「ぇっ、は?事件…?でありますか?」

電話の相手は男性だった。
それもいきなり事件だ!なんてどこぞの刑事ドラマみたいな言い方をされて、寝起きの頭はさらに混乱し始めた。自分でもでもよく分わからない返答をしてしまったのは、重々わかっている。

「……。お前大丈夫か?寝ぼけるなんて珍しい事もあるもんだな。それより、今すぐ本庁へ来てくれ。僕もすぐに向かう」
「え、…本庁?って何処でしたっけ?」
「…………」
「…………」
「…。わかった。今から迎えに行くから、支度をしておけ」

気まずい空気の流れる中、相手の降谷零さんは一方的に要件を告げると、スマホを切った。

「迎えに、来る?…!!?」

しばらく呆然としていたけれど、どうやらその降谷さんて人が家に来るらしい。そこで私の思考回路は一気に覚醒した。布団の上でボケらと座っている場合ではないのだ。部屋の明かりをつけて一気に立ち上がり布団を片付け…あれ?ベッド?何でどうして布団がベッドに変わったの?!掛け布団を畳んで足元を見れば、今まで眠っていた布団ではなくて、ベッドだった。なんでどうして?!

気になるけれど、すっごい気になるけど今はそんな場合じゃないのだ。急いで支度をしなければ。

「全部スーツって…マジかよ」

急いでクローゼットを開けば、ブラウスと、グレーやブラックのスーツが所狭しとかけられていた。

あ、そうなんだ。
これは夢だ。きっとものすごくリアルな夢なんだきっと。だからお願い。早く目を覚まして私の頭。
そんな事を願いつつ、私はガムシャラに着替えて行く。えーと、下はパンツでいいや。それから髪はシュシュで簡単に纏めて、それから…警察、手帳?

さり気なくポケットに手を突っ込んだら、ICカード入れみたいな手触りがしたので取り出して見れば、警察手帳の写真には、紛れもなく私が写っていた。