視線を移した先には、数人の男子高校生。体育の授業中だろうか。「おまっ、危ねぇべや!」とボールを追いかける賑やかな笑い声に、つられて笑う。
入道雲が浮かぶ、真っ青な夏空の下。グラウンドで駆け回る男子生徒の中からいち早く見付けることができた岩泉くんは、相変わらず皆の中心にいて、ずいぶん楽しそうだった。屈託のない笑みに心が揺さぶられて、同級生とじゃれ合う姿をつい目で追ってしまう。
ああ、窓際の席でよかった。この教室が、グラウンドの傍でよかった。授業中も彼の笑顔が見れるだなんて、とても贅沢で幸せなことだ。
黒板を書き写すことすら忘れ、穏やかな気持ちのまま今日の差し入れを考える。
差し入れ、といっても、直接渡すわけではない。メモを貼り付けて、岩泉くんの靴箱へこっそり忍ばせるだけ。きっと私のことなんて覚えていないだろうから、差出人は書かない。部活の邪魔はしたくなかったし、本人を前にして上手く話せる自信もない。あくまで一方通行な自己満足。それでいい。教室の窓から眺めるこれくらいの距離間で、私は充分。
一昨日はスポーツドリンクだったから、今日は甘いものにしてみようか。夏にしては少し涼しく、たとえばチョコレートを入れていてもギリギリ溶けずに済むだろう。苦手じゃなければいいんだけれど。まあ、購買で何か仕入れて、そのまま届けよう。
皆がご飯を食べている間の靴箱は、意外と人目がないものだった。
チャイムが鳴る十分前。号令がかかったのか岩泉くんが見えなくなったところで、猫の形をした付箋を取り出す。お気に入りのボールペンに持ちかえて先生に見付からないように綴るのは、たわいないコメントとお決まりの一言。
『今日はちょっと涼しいね。部活、頑張ってください』
それからちょっと考えて、端の方に『甘いもの苦手だったらごめんなさい』と小さく付け足した。