ねえ、わたしが息をしているこの世界はとても綺麗なのね



小銭を投入し、好きなジュースを選ばせる。ガコン、と音を立てて出てきたサイダーを渡せば「なまえは何がええん」って奢り返された。特別教室ばかりが並ぶ校舎の外階段。コンクリートに囲われ、喧騒から隔絶されている空間に腰掛けてプルタブをあける。


「時間いける?」
「いけんちゃう。まだ連絡こんし」
「そうなん」
「おん」


訪れたのは静寂。それでも気まずさや何か話さないとって焦りは浮かばない。敢えて言葉にするなら落ち着いている。恥ずかしさは随分なりを潜め、体温も戻った。この何とも形容しがたい安心感は、治以外じゃ得られないもの。

皮膚の下でじんわり脈打つ愛しさを感じながら考える。彼がこんなにも独占したがるのは、じゃあ不安だからかって考えつく。

思えば今までたくさんの好きを貰ったけれど、私から口にしたことはたぶんなかった。それは言わなくても伝わるだろうなんて胡座をかいていたのではなく、治があんまりベッタリなものだから忘れてしまっていただけ。別にそうと決まったわけじゃない。元々恋人に対しては心配性なのかもしれない。でももし、少しでも可能性があるなら伝えておかなきゃって思う。惰性で付き合っているんじゃなくて、ちゃんと治が好きだってこと。




「侑な、私に興味ないらしいで」
「さっき聞いたん?」
「うん。お前はないって言われた」
「あいつ失礼な言い方しよんな」
「ほんまに。でもええねん。治しかいらんし」
「……、」


驚いたような瞳と視線が交わる。途端に湧き立つ照れくささ。やっぱり恥ずかしい。それでも真っ直ぐな眼差しからひしひし伝わる期待に背中を押され、口を開く。


「好きやで」


一度音にしてしまえば、なんてことはない。大きく見開かれた瞳がみるみる内に細まり「もっかい言うて」なんて紡がれた可愛らしいおねだりに応じる。どこか安堵するように心底嬉しそうに破顔した治は、缶ジュースも光るスマホもそっちのけで、私を腕の中に閉じ込めた。



君の匂いが、飽和する。


fin.




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