取り留めもない侵略



人当たりの良いクラスメイト。
中学二年の頃、みょうじの印象はそれ以上でも以下でもなかった。ただまあ、薄々気付いてはいた。俺のこと好きなんだなって。

もちろん確証も何もなかったけれど、頻繁に目が合ったり、なんとなく緊張していたり、ちょっと話しかけただけで嬉しそうに笑ったり。そんなことが二年も続けば、さすがに俺じゃなくても分かる。元より鈍いつもりもない。だから卒業の日、みょうじから受けた呼び出しは告白だろうなって予想していたし、実際驚きもなかった。

やっぱりか、有難うね、でもごめん。色好い返事はしてあげられない。そんな感じ。


連絡先を交換したのは、半ば餞別程度の軽い気持ちだった。だって悪い子じゃない。むしろ控えめで、我を通そうとしない――少なくともクラスメイトとして過ごした二年間ではそう感じた――優しい良い子。別にアドレスなんて減るモンでなし、最悪変更すればいい。フラれたばかりの、きっと居た堪れないだろうこのタイミングで勇気を振り絞ってくれたせめてもの申し出くらい、受けてあげたかった。

結果的に良かったと思う。

みょうじと続く文字のやり取りは穏やかであったし、たとえば嫌な気持ちにならないよう添えられる前置きだったり、『忙しかったら無理しないでね』なんて気遣いも、挨拶や労いの一言さえも欠かさない。およそ同級生とは思えない、どこまでも透明な人間性が窺える文面は、まるで春の陽射しのように暖かく微笑ましい。その内、文中に付属する絵文字を見るだけ。たったそれだけで彼女の笑顔まで浮かぶようになってしまった時は、思わず自分自身に苦笑した。フったくせに何してんだ、俺、って。

たぶんみょうじはまだ俺が好きで、正に今、来るか来ないか分からない俺からの返事ひとつで一喜一憂している。こんなに良い子が一途に想ってくれている。そう考えると、なんとも優越的でくすぐったかった。


最初はそんな、小さな快感だったのだ。それがいつの間にか大きく膨らんで、やがて胸を占めていった。

きっと俺を追って青城に入学していたことや、一緒に帰ったり出掛けたり出来ることが嬉しくて仕方がないって様子なんかが拍車をかけたのだろう。電話の声だって、いつもほんのり弾んでいる。おまけに何度断ってもめげないものだから、最早"みょうじは俺を嫌いにならない"って確信にも似た過信が根底にこびり付いていた。時折剥がれかける度「俺のことまだ好きなの?」って確認しては、いじらしく肯く声で補強する。

一生懸命で可愛い告白を繰り返し聞けることだってもちろん嬉しく、俺が断る度――はたまた思わせ振りな態度をとる度――健気に儚く揺れる瞳が、どうにも心を掻き立てた。皮膚の下を熱が這い、高揚しては満たされていく。

恋は一種の病気だと言うけれど、たぶんこの感覚も同じ。もしくは麻薬さながら。傷付けてしまっていると分かっていても、やめられなかった。



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