ぼんやりカーペットを見つめる横顔は、正に心ここに在らず。名前を呼ぶと、同じくぼんやりした生返事が春の陽気にたなびいた。
「考えごと?」
「ううん。そうじゃなくて、こう……夢みたいって感じ」
「夢?」
「付き合えるって思ってなかったから。一静と」
「……ごめん。俺のせいだね」
「ほんとね」
ようやく動いた表情筋。くすくすと、笑い混じりに肯定した彼女が緩慢に振り向いた。付き合う前ならたぶん"そんなことないよ"って気を遣っていただろうところ。それが今や気兼ねなく、顔色を窺うこともせず。ありのままの自然体で傍に居てくれることへの安堵と嬉しさ、それから申し訳なさが孵化する。